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京都ゴルフ倶楽部 上賀茂コース|隠れた宝石 ― 倭奴國編― 第弐回

行ってみたい! 時空のゴルフ旅

2021/10/08 ゴルフサプリ編集部

京都ゴルフ倶楽部  上賀茂コース|隠れた宝石 ― 倭奴國編― 第弐回

新しい旅が始まる。いわゆる名門コースとか、ビッグトーナメントを開催したとかいうコースではなく、気軽に行けてプレーできて、なんとも言えない味わいがあるコースを見つけて訪ねる。まだまだあります!「隠れた宝石」のようなカントリー倶楽部が。

GOLF TODAY本誌 No.592 14〜17ページより

京都ゴルフ倶楽部  上賀茂コース|隠れた宝石 ― 倭奴國編― 第弐回
京都大学の演習林にあった研究所をそのままクラブハウスとして使用しているので、歴史と趣が自然と醸し出されている。

最初は京都御所をという GHQ側の意向を 苦肉の策で 上賀茂神社が折れて…

京都へ行くと、決まってお気に入りの喫茶店を訪れる。京都は、趣のある喫茶店がそこかしこに点在している。

まるで茶室に入ったかのような6席しかない「直珈琲」は静かで心を安らげるし、老舗の「六曜社」や「イノダコーヒー」も悪くない。最近では、町家を改修した喫茶店も人気だ。

京都は、観光という部分を除外した視点で、じっくりと裏路地を探すように旅をすると、その密かな愉しみがみえてくるから面白い。

そのひとつが「京都ゴルフ倶楽部上賀茂コース」である。

コースは、世界遺産・上賀茂神社に隣接する境内地の杜(もり)にある。正確にいえば、上賀茂神社の境内杜と京都大学の演習林(研究のための山林)である。

この京都ゴルフ倶楽部の生い立ちは、今から思えば、まさに奇譚な物語といえる。

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日本は、1945年8月15日の終戦を境に連合軍の占領下となった。全国に進駐軍(GHQ)が配備され、京都にもその年の9月にやってきた。そのGHQから、京都にゴルフ場を造れと命令されたのである。ゴルフは、彼らにとっては日常的なレクリエーションだったから、終戦2ヶ月後には、関東の名門が再開され、関西でも同様だった。ところが京都には、ゴルフコースがない。宝塚まで行くのは遠いということでの命令だった。

最初に、コース用地の候補になったのが、京都御所だったともいわれる。無理難題が山積するなか、ようやくゴルフコースは、上賀茂神社の境内の森を中心として建設することになったのである。

「神聖な敷地を穢すとは、とんでもない」という日本側に対して、難航しているコース建設を受け継いだGHQの2代目の担当者、シェフィールド少佐は、こう答えた。

「京都を平和観光都市にするためには、ゴルフ場は必要である」

「神聖を冒すのではなく、芝を植えてきれいにするのだ」

日本側も神社も結局折れた。京都御所がゴルフコースになっては大変なことであるからだ。

これが、戦後初めて生まれた日本のコースである。

上賀茂神社と京都大学に隣接して作られた伝統の薫りがする戦後初の新コース

京都の中心地、祇園あたりからでも車で20分ほどで上賀茂神社にたどり着く。

神社を軸に考えると、コースは、神社正面の入り口から左がわ。広い砂利道があって、そこを歩いて行っても、コースに着く。つまりこの砂利道の右側、神社沿いにコースがあるわけだ。

実は、この広い砂利道は、神社の神事に使われる道なのである。

京都三大祭のひとつである葵祭のときに使われる。この葵祭の歴史は奈良時代まで遡って、もともとは上賀茂神社に伝わる賀茂祭を引き継いでいる。

葵祭は5月15日だが、その3日前の12日になると、宮司たち一行が列をなして、この砂利道を歩き、そして、コースに入り、17番ホールのグリーン奥にあるご神木を参拝し、榊の枝への神移しの儀を行っているのだ。もちろん、現在まで延々と続く神事である。

コースへの道のりは、神社の脇を通り過ぎてコースをぐるりと半周するように道があって、クラブハウスにたどり着く。

すぐ近くに京都産業大学がある。

初めて訪れたときに、クラブハウスの中に入る扉の雰囲気に驚かされる。さして広くない入り口のしつらえが、なんともいえずに重厚感があるのだ。

もともとは、京都大学の農学部の演習林の研究所だったと聞くが、その風情を残しているらしい。

なぜか身が引き締まる。

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14番パー4は池の中にグリーンが浮かんで見えるホールで、TPCソーグラスの17番ホールのようだ。しかしこちらの方が古い!

その空気感が、一変する。寂然とした杜の奥深さとうっとりとしてしまうコースレイアウト。ひとたびクラブハウスの扉を開けると戦後初の倶楽部ライフが引き継がれていている雰囲気が漂ってくる。

コース全長は、5818ヤード、パー69。距離は短いけれど、ひとホールずつがとても楽しいのだ。

それに、例えば、1番ホールもティーイングエリアの案内看板は、苔むした屋根があって、いかにも風情を感じさせるし、右には、何故か「小池」と呼ばれる大きな池がある。

なによりも、4番ホールのティーイングエリアは、池の中に浮かぶアイランド・ティーであるし、対岸は池越えの9番ホールとなっている。

ふと見ると、池の奥に「古式泳法教練所」と書かれた小屋が立っているではないか。聞けば、この池は、いまでも古式泳法の教練所として使用されている。まさしく、さまざまな歴史が埋め尽くされているゴルフコースといえまいか。

プレーを終えて、馴染みの京都の喫茶店でコーヒーを味わいながら、ふと世界遺産の中にある京都ゴルフ倶楽部上賀茂コースに想いを馳せた。

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    池を巧みに配した17番、長めのパー3ホール。

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    コース内にはクリークも流れ、景観の一部として涼しさも演出している。

コースデータ

◦京都ゴルフクラブ 上賀茂コース
◦所在地・京都市北区 上賀茂本山
◦開場・1948年
◦設計・赤星四郎
◦概要・18ホール、5818ヤード、パー69
◦アクセス・京都市内から車で 20分。京都南ICより40分

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大木に囲まれて佇むクラブハウス。重厚感と落ち着きを感じざるを得ない風情だ。
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クラブハス内は京都らしい歴史を漂わせる。こじんまりとしてとしているが、懐の深さが漂う。
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上賀茂神社にはそこに続くじゃり道を行くが、右側の本殿を回り込むようにコースがある。
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1番ホールの横にある案内板の屋根も苔むしていて、それだけで古都の味わいを感じる。

三田村昌鳳
1949年2月24日神奈川県逗子市に生まれ。立正大学仏教学部を経て、週刊アサヒゴルフ副編集長ののち、1977年に独立。著書に「タイガー・ウッズ伝説の序章」「伝説創生」など。2011年に「ブッダに学ぶゴルフの道」(中央公論新社)を発売。日本プロゴルフ殿堂表彰選考委員、オフィシャルライター。日本ゴルフ協会オフィシャルライター。日蓮宗の僧侶。


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