特集「三浦技研」 技術集団のこだわりがトッププロたちからも信頼される理由とは?【石井良介インタビュー】
石井良介×三浦技研 CROSS TALK
令和の試打職人として活躍する石井良介に「取材に行ってみたい場所はありますか?」と聞くと「三浦技研!」と即答。日本だけでなく、世界のトッププレーヤーからも愛される三浦技研。ゴッドハンドと言われる会長・三浦勝弘だけでなく、2代目・現社長の三浦信栄にも話を聞きに、鍛造アイアンの聖地を訪れた。
GOLF TODAY本誌 No.621/50~55ページより
神の手と話を
石井良介がどうしても行きたかった鍛造アイアンの聖地へ
三浦技研のある兵庫県神崎郡市川町は刀鍛治の町であり、国産アイアンヘッド発祥の地。
石井良介(以下、石井) 会長、おひさしぶりです。
私は高校生の頃に父親から三浦技研のアイアンを打たせてもらって以来、三浦のアイアンを使わせてもらっています。今回はあらためて打感や形状の秘密をお聞きしたいと思ってきました。
三浦勝弘(以下、勝弘) 石井さんとはお父さんの時代からの付き合いです。何でも聞いてください。
石井 まず三浦技研のアイアンの打感は、なぜ他の鍛造アイアンと比べても特別なのでしょうか?
勝弘 それは鍛造の工程に違いがあります。他社の鍛造のアイアンと比べると鉄の内部組織の粗さが違います。顕微鏡で調べてもらったことがあるのですが、私どものアイアンは鉄の組織が細かい。大切なのは熱の加え方と鍛造の工程です。
石井 三浦技研ではどのように熱を加えて鍛造しているのですか?
勝弘 うちは3回打ち(3回鍛造)です。1回目、2回目は粗鍛造です。そして3回目でより精密な鍛造で仕上げていきます。3回目は外からの熱ではなくて、電気炉のなかにヘッドを入れて内部から加熱させています。そうするとヘッド内部が均一に熱くなるので鉄の組織が変化しにくい。そして最後に300トンのプレスで叩きます。
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研磨だけではなく、鍛造工程も創業者である三浦勝弘が考えた。
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三浦勝弘,石井良介
石井 工場にある大きなプレス機ですね。
勝弘 プレス機の上の部分は見ましたか?
石井 上ですか!?
勝弘 あのプレス機は上からスクリューで捻るようにプレスすることで金型の中に鉄を閉じ込めることができます。私は90年代から鍛造アイアンをやるようになって、絶対にこのプレス機じゃないとダメだと思っています。
石井 会長は研磨の印象が強いですが、鉄のことはどこで勉強したのですか?
勝弘 ゴルフクラブの仕事をする前に鉄工所で働いていました。鉄工所では熱の加え方を変えて色んなものを作れたし、金属の本質を知ることができました。それが今でもすごく財産になっています。例えば熱したアイアンを冷ますときも急激に冷やすと内部の組織がダメになってしまう。だから自然にゆっくり冷やす。
石井 三浦技研のアイアンには数多くの名器と言われるモデルがありましたが、今まで作ったアイアンで会心のモデルは何ですか?
勝弘 ない。ありません。アイアンは1本ではなくセットです。だから5番アイアンだけがすごく上手く作れても意味がありません。それと夏も冬も同じものを作れないといけない。セットのバラツキをなくすこと、モデルのバラツキをなくすこと。三浦技研ではそこにすごく力を入れています。
石井 プロが最も信頼する理由は、そこにあるのかもしれませんね。
三浦勝弘
PROFILE
みうら・かつひろ/1977年、34歳で三浦技研を創業。大手メーカーのOEM生産を行いながら、プロにオリジナルアイアンを提供。日本だけでなく、海外メジャーで優勝するトップ選手まで三浦のアイアンを使いはじめるようになり、「ゴッドハンド(神の手)」と言われるようになった。80歳を超えた今も研磨の作業を続けている。
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今、三浦技研は第2の全盛期を迎えている。全米女子オープンで優勝した笹生優花や、アダム・スコットが使ったことが話題になり、生産体制が追いつかないほどの注文が殺到。その流れを作ったのが2010年から新社長となった三浦信栄と、研磨師として技を継承する三浦由貴だった。
「神格化された三浦技研のイメージを少し柔らかくしたい」
「どうしても三浦技研と言えばゴッドハンド。もちろん、その良さは残しつつも、神格化さされすぎた孤高なブランドイメージを少し柔らかくしたいと思っています」(三浦信栄)
石井 私も父親と同じティーチングプロの仕事をしているのですが、信栄さんが会社を継ごうと思ったのは何歳の頃ですか?
三浦信栄(以下、信栄) 記憶にあるのは5歳です。
石井 15歳じゃなくて、5歳ですか!?
信栄 はい。小学校に上がる前、土曜日とかに会社に行って父親の仕事を見ていたので、なんとなく、将来はここで働くんじゃないかなと思っていました。でも、実際に働くようになってからは本当に大変でした。
石井 最も大変だったことは?
信栄 1990年代の三浦技研の業績を支えていたのは大手メーカーのOEMです。でも、海外でOEMするメーカーが増えて仕事がなくなった。正直、会社としても苦しかったし、リストラもしました。そして、これからの三浦技研をどうするかという問題が残った。生き残る道はメーカーにOEMの仕事をもらうか、自分達のブランドで勝負するか。会長(三浦勝弘)からは、私と兄・由貴に「お前らがどうするか決めろ」と言われました。僕達は即答でした。「自分達でやる」と。
石井 三浦技研は有名でしたから、すぐに軌道に乗ったのでは?
信栄 いえいえ、最初は全然上手く行きませんでした。かつてはトラックを改造してツアーバンにして会長がトーナメントに行ったりもしましたが、なかなか業績は上がりませんでした。
石井 実際に社長になったのはいつからですか?
信栄 2010年の10月です。社長としての船出のモデルとして2011年の春に発売するモデルを周到に準備してきました。でも、同年3月に東日本大震災が起きて、ゴルフクラブを売る雰囲気ではなくなってしまった。その年の暮れには父と大喧嘩をしました。父の考えとしては「良いモノを作れば絶対に売れる」と。でも売れなかった。だから、私は1人で車に乗って全国を回って、販売店の方に話を聞くところからはじめました。
石井 どんな意見が多かったのですか?
信栄 皆さんに言われたのが「モノはいい。でも、会社の対応がなっていない」と。そこから、あらためてブランドとは何かということを考えて、百貨店などに行って、色んな声を聞きました。そんな声を新製品に生かしていきました。
石井 今、三浦のクラブはどうやって開発されているのですか?
信栄 設計は私がしています。設計さえ上手くできれば、うちの職人は最高のアイアンを作ってくれます。
石井 設計について会長から学んだことは?
信栄 アイアンを作るときはソールから考えること。ソールの幅、形状、バウンスを決めないとアイアンの特徴は見えてこない。アイアンショットで地面に当たるのはソールです。それとアイアンはヒール側の高さまでが勝負だということ。下の重量配分が大切だということです。
石井 その発想からロングセラーになった「CB‐1008」(2016年発売)が生まれたのですね。
信栄 あの形状は今までの三浦技研の歴史にはなかったものでしたが、すごく評価が高かったです。
石井 最近だとアダム・スコットが使った「KM‐700」も斬新な形状ですよね
信栄 こういう柔らかい発想のアイアンを高い鍛造技術と研磨技術で製品化できるのが三浦技研の強み。だから、海外のトップ選手達も興味を持ってくれて、姫路の会社にまで足を運んでくれます。
石井 社内でフィッティングもできるのですね。
信栄 フィッティングは2017年の越谷スタジオからはじまりました。三浦のアイアンが欲しい人はプロみたいなフィッティングをしてカスタムしたものを使いたいという人が多い。そのカスタムオーダーに応える技術がうちにはあります。だから、今どんどんカスタムオーダーが増えています。本社のフィッティングには名前は言えないのですが、ビックリするくらいの有名選手が来たこともあります。
感性の三浦が、数字のフィッティングに挑む理由
「フィッティングをはじめた当社は「感性の三浦が、数字でフィッティングをやるのか」と言われましたが、やっぱりみんな自分だけの三浦が欲しい。それと、フィッティング通りの正確なロフト、ライ角、オフセットに削ることができるのも三浦技研の魅力です」(三浦信栄)
業を継ぐ 三浦信栄
みうら・しんえい/2010年10月に三浦技研の社長となる。2014年に無料でロフト、ライ、FP値などをカスタム対応にしたクラフトマンワールドを導入。2017年にはフィッティング事業をスタート。2018年からは北米を中心として世界規模で販路を拡大。
技を継ぐ 三浦由貴
みうら・よしたか/三浦勝弘の長男。入社以来約30年間、研磨一筋の道を歩み、ゴッドハンドと言われた父から研磨技術を引き継ぐスペシャリスト。自身の名前を冠した「Y-GRINDシリーズ」も手がけた。
世界が認める打感の秘密は"鉄を閉じこめる"独自の鍛造にあり。
創業者である三浦勝弘、2代目の社長・三浦信栄の話を聞いた後、三浦技研の聖域とも言える鍛造工程や研磨を取材させてもらった。そこには世界中のゴルファーを感動させる打感を生む秘密の工程があった。
「海外のトップ選手=ストレート好きではなかった」
「海外の選手はオフセットがないものをリクエストすると思っていたが、ジャック・ニクラスもアダム・スコットもフィッティングをしたときの要望はオフセット。少しオフセットをつけて包みこむような雰囲気があるアイアンが好みでした」(三浦信栄)
石井 工場まで見せてもらえて、鳥肌が立つくらい興奮しています。
三浦信栄(以下、信栄) そんな大袈裟な(笑)。私たちにとっては作業場ですよ。
石井 アイアンのヘッドって、こんなに赤くなるんですね。
信栄 これがさきほど会長が説明した、電気炉を使った加熱です。
石井 ゆっくり色が変わって、じんわりと赤くなるんですね。
信栄 うちは高周波を使った電気炉を使っているのですが、これを使うことでヘッド内部が均一の温度で熱くなります。
石井 温度は何度くらいにしているんですか?
信栄 800~900度くらいです。他の鍛造メーカーに比べると低温だと思います。三浦は1回目、2回目の鍛造は1200度くらいでやっていますが、3回目は少し低くしています。実は鉄は高温で何度叩いても、締まりが出ません。だから三浦技研では型が壊れないギリギリの低温にしてからプレスすることで型に鉄を閉じ込めている感覚で鍛造しています。
石井 電気炉でヘッドを温める時間は決まっているのですか?
信栄 うちの工場にはブザーがなったり、タイマーが鳴ったりすることはなく、熟練の職人が鉄の色を見て、その日の天気や気温、夏か冬かの季節を踏まえながら、絶妙なタイミングで電気炉からプレス機にヘッドを入れています。
石井 それは三浦技研にしかできない技ですね。それと気になったのは鍛造するときにホーゼルがついていないですね。
信栄 それも三浦独自の考え方です。さきほど鉄を閉じ込めるという話をしましたが、プレス機で圧力をかけるときにはできるだけ平面的な形状に対して圧力をかけていきたい。そう考えたときにネックがついた複雑な形状になると、鍛造プレスしたときの圧力が均一にかからない。それが打感を損なう原因になってしまう。だから、うちはホーゼルをつけない鍛造にこだわっています。
ホーゼルは鍛造後に"圧着溶接"していた
石井 ホーゼルは溶剤で接着しているのですか?
信栄 溶剤は使いません。うちはヘッドとホーゼルを摩擦圧接方式により一体化させます。摩擦圧接方式は最も強度の高い接合方法。すごく手間がかかる工程ですが、30年以上前からこの方法を続けていますし、この工程によって重量の誤差は±1グラムにおさえることができます。
石井 圧接した瞬間の火花がすごいですね。
信栄 ヘッドのソケット部分を平面にセットした状態で、上からホーゼルを3000回転させ、摩擦熱でヘッドとホーゼルの接合部が溶けてくっつくのです。
石井 この角度がライ角にもなるのですか?
信栄 ライ角だけではなく、ロフト角もオフセットもホーゼルの長さも、この圧着溶接工程の1回で決めてしまう。アイアンの場合、ヘッドに対してストレートに穴を開けるのはすごく難しい。そこに誤差が生まれるとホーゼルとシャフトが一直線になりません。でも圧着溶接なら規格通りにホーゼルがつけられるので形状が安定します。
石井 ホーゼルを圧接した後に、三浦の伝統でもある研磨にいくのですね。
信栄 はい。次が研磨工程ですが、三浦では1人の研磨師が1つのヘッド全体を仕上げていくという工程はとっていません。すべて分担性です。最初は構えたときの顔の印象を決める輪郭研磨、そして次がフェース研磨。この2つは機械研磨です。そして次のトップライン、ホーゼルは職人がやり、最後に全体を確認しながら削る整形研磨で整えます。
石井 研磨工程で重視していることは?
信栄 形を整えることはもちろんですが、重量をコントロールすること。重量精度を高めることによってセットアイアンとしての統一感につながりますし、今作ったアイアンも3カ月後に作ったアイアンも同じものになります。
石井 同じモノを作ることを重視されてますね。
信栄 それは技術集団のこだわりでもあり、父親から受け継いだものでもあります。だから、うちは金型を自社で管理しています。普通の鍛造メーカーは鍛造所が金型を管理しているところが多い。でも、うちは自分で管理します。金型は1個目のアイアンでも、5000個でも、1万個目でも同じものが作れるのが理想。でも、金型は作っていくうちに必ずヘタってしまう。デジタルの計測器を使って0,02ミリ単位で確認していますが、うちの職人は音や感覚でそれがわかるレベルです。
石井 今後は社長として三浦技研をどんなブランドにしていきたいですか?
信栄 敷居が高い孤高なブランドにはしたくない。ゴルファーに身近なブランドで、ゴルファーもメーカーも『困ったことがあったら三浦に持っていけば何とかしてくれる』という存在になりたいです。
石井 社長としての今後は?
信栄 最後は職人に戻って死んでいきたい。僕は元々、モノを作る仕事がしたくて三浦技研に入りました。今は自我を抑えて社長業をしていますが、それはいつかは職人に戻るという割り切りがあるからできているのかもしれません(笑)。
石井 アイアンのことだけでなく、三浦技研の会社の哲学も聞かせてもらって、面白かったです。
信栄 今後も三浦らしいクラブも考えていますので、ぜひ打ちにきてください。
ホーゼルもヘッドと同じ軟鉄素材で作ってから、特殊な機械を高速回転させながらヘッドに圧接する。接触する瞬間には火花が飛び、接合部分には摩擦によるバリもできるが、そのバリをとってから研磨作業に入る。1990年代から三浦技研はこの工程を続けている。「打感だけではなく、三浦のアイアンは番手別のライ角、ロフト角、オフセットの流れがきれいなのはこの製法によるものだと思いました」(石井良介)
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