1. TOP メニュー
  2. ゴルフ知恵袋
  3. ゴルフ雑誌が、思いついても実行できない“実験試打企画”とは?

ゴルフ雑誌が、思いついても実行できない“実験試打企画”とは?

戸川景の重箱の隅、つつかせていただきます|第51回

2024/10/11 ゴルフトゥデイ 編集部

スイング、ゴルフギア、ルールなどなど…。ゴルフに関わるすべての事柄の“重箱の隅”をゴルフライター・戸川景が、独自の目線でつつかせていただくコラムです。
Text by Hikaru Togawa Illustration by リサオ
GOLF TODAY本誌 No.629/74ページより

読者にとって有効性の高い試打企画とは?

戸川景の重箱の隅、つつかせていただきます

ゴルフ誌の魅力は、今も昔も“企画記事”だと思っている。トーナメントの情報も“速報”ではテレビ、ネットにかなうわけがない。周辺情報を採り込んだ“解説記事”にすることで、後発でも成り立っている。

技術レッスン、ギア情報なども今どきはユーチューブとのせめぎ合いの感もあるが、それこそ“企画”としての視点、切り口のとらえ方で、いまだに差別化できる強みになっていると思う。

もちろん“企画記事”がウリ、と言っても、商業誌だからこそできない企画もある。広告ページのスポンサーの商品を貶めるような企画は御法度。どう転んでも、同業他社の商品の性能が上回っていることが明確になるような企画はできない。これは、どの業界においても当然のことだ。

だが、抜け道もある。試用者を限定すれば、商品のパフォーマンスも変わる。ありがたいことにゴルフのギアは“遊び道具”なので、その対象範囲が広い。テスターやフィールドを変えることで、それぞれの場での優位性が変わることを示せれば、それは読者にも有効性が高い企画となる。

「飛距離ナンバーワン」「スピン性能ナンバーワン」といった企画は、この形で扱われるのが妥当で、とことんまで突き詰める必要はない。その先は、読者自身に委ねる。実際、道具は個人の扱い方でどうしても異なるものだから、あくまでガイドラインを示すだけになるのは当然と言えるだろう。

さて、私の中で、やってみたいけれどできない、と感じている実験試打企画が3種類ほどある。

1つ目は「飛び性能特化ギアで、プロのスコアはどうなる?」というもの。飛ぶと評判のパーツで組んだドライバーやアイアンとボールを組み合わせて、プロ(できればツアープロ)に試打ラウンドをしてもらい、スコアがどうなるか検証する。アイアンだけ、ボールだけの試打でも面白いと思うのだが……プロのプレーセンスを破壊する危険性があるので、できないと考えている。打感の違和感、弾道の違和感、打球結果の違和感は相当なものだと思うからだ。

2つ目は「10年前のクラブセットと最新のクラブセットでスコアはどう変わる?」というもの。この10年のクラブの進化が、実際のスコアアップに貢献している……とは思えないからだ。飛距離性能が数ヤード伸びたり、ヘッド慣性モーメントが増大とかいっても、スコアが減るという結果には至っていない、という実感があるからだ。だが、これを実験試打で実証してしまうと、ギアの開発に尽力してきたメーカーに冷や水を浴びせることになりかねない。「御社のギアは10年前も十分優秀ですね」とは言えるかもしれないが。

3つ目は「寄らないウェッジ、入らないパターはどうすれば作れる?」というもの。どのメーカーも、飛ばないボール、当たらないクラブを作ったりはしない。微妙なスペックの違いで扱いやすさを変えているのが現状だと感じている。では寄せやすいウェッジ、入れやすいパターとはどんなものか。これも個人差が出て判別が難しいが、それでは逆にダメダメになる要素を見つければいい、という内容。経験的に実感があるのは、ウェッジならホーゼルが短すぎる、ソールが広すぎる、ヘッドが重すぎる、など。パターなら、ライ角が合わない、ロフトが少なすぎる、シャフトの入り方が悪い、など。これも、テスターの感性を壊してしまいそうなので、怖くて実行しようとは思えないのだ。

ただ、ゴルフ誌はあくまでも、趣味の雑誌。どこか理屈や忖度を突き抜けた、“いいや、やっちゃえ!”とやらかすような実験企画が3年に1度くらいはあってもいいんじゃないか、と個人的には思っている。

戸川景(とがわ・ひかる)

1965年3月12日生まれ。ゴルフ用具メーカー、ゴルフ誌編集部を経て(株)オオタタキ設立。現在、ライターとしてゴルフのテーマ全般を手掛けている。

重箱の隅、つつかせていただきます

第50回(前回)へ

シリーズ一覧へ