パッティングは構えが9割|フィル・ケニオンに学ぶ最新パット理論
近年、とくにPGAツアーでは、パッティングストロークのメカニズムを整えて、理詰めでカップインの確率を上げる「ロジカルコーチング」が主流だ。その「ロジック派」の代表格である、フィル・ケニオンのパッティングメソッドを、直接指導を受けた経験もある吉田洋一郎プロが徹底解説する。
[目次]
吉田洋一郎
ゴルフスイングコンサルタント。デビッド・レッドベターを始め、多くの海外インストラクターから直接指導を受け、世界の最新理論に精通する。
フィル・ケニオン
英・リバプール近郊でパッティングラボを主宰し、多くのプロゴルファーを指導。スポーツ科学で修士号を取得し、自身もプロゴルファーである経験を生かした「論理的」な手法で人気が高い。1956年5月7日生まれ。イギリス出身。
パッティングは感覚に頼らならければ必ず上達する
パッティングの上手い、下手は「感覚」の領域だと考えている人が多い。
だが、それ以前に、アドレスやストロークの仕方が理にかなっているかどうかのほうが重要という考え方が、プロツアーでは主流になりつつある。理論的に「正しい」打ち方をすれば、入る確率が上がるという考え方だ。
もっと言えば、純粋に感覚の問題でありそうな、「タッチ」についても、例えば、「〇%の上り傾斜では〇センチ、オーバーするように打つ」というように、もっとも入る確率の高い、「数字」でとらえようとする傾向すらあるのだ。
現在、そんな「ロジック派」の代表的コーチが、フィル・ケニオンであり、ヘンリク・ステンソンや、ジャスティン・ローズ、過去にはローリー・マキロイなど、多くのメジャーチャンプが彼の指導を仰いでいる。
ケニオンに実際に指導を受けたこともある吉田洋一郎プロは、ケニオンメソッドの根幹は、「パッティングは構えが9割」という考え方だという。ツアー最前線のパッティング理論がどんなものか、紐解いていこう。
パッティング練習器具も数多く開発
フィル・ケニオンは、自身のメソッドに基づいたアドレスやストロークなどのパッティング練習器具をいくつも開発し、レッスンに活用している。器具だけを使用しているプロもたくさんいる。
練習グリーンではフェースの向きとヘッド軌道を入念にチェック
2019年の全英オープンの練習グリーンでは、ストローク中のフェースの向きを確認する、H・ステンソンの姿があった。カップに「入れる」練習よりも、そちらを重要視している証拠。
入るパッティングはなぜ「構えが9割」なのか?
正しく構えるとパッティングミスは大幅に減らせる
フィル・ケニオンのパッティングラボ(ハロルド・スウォッシュ・パッティングLtd)では、「いかに毎回、正しくアドレスするかということに時間を割く」と、吉田プロは証言する。なぜ、それほどまでにアドレスを重要視するかというと、パッティング動作の中で、アドレスが唯一、完璧にコントロール可能な領域だから。
「アドレスを決める際、とくにフェースの向きというのは、ボールの打ち出し方向やコロがりに対する影響がものすごく大きいですが、アマチュアの多くはその大事さを認識していません。例えば、フェースの向きがたった1度違うだけで、数メートル先では十数センチの誤差になってしまいます。逆に言えば、フェースの向きさえいつも正しく構えられれば、少なくとも打ち出し方向のミスは、ほぼゼロにすることができる。だから『パッティングは構えが9割』ということなのです」(吉田プロ)。
フェースがターゲットに向いていることが最重要
パッティングはヘッド速度が遅いので、ボールの打ち出し方向はほぼ100%、フェースの向きに左右される。つまり、打ち出したい方向にフェースを向けられなければ、絶対にカップインさせることはできないということ。
フェースの向きは実は確認しづらい
レーザー光線を利用して、フェース面がどこを向いているか簡単にわかる器具も市販されている(写真)。これに類似した器具を使わない限り、アドレスの姿勢から見ただけでは、フェースの向きを把握するのは難しい。
1度の向きのずれで3メートルのパットは必ず外れる
フェース向き | 2m先の誤差 | 3m先の誤差 |
---|---|---|
0度 | 0センチ | 0センチ |
1度 | 3.5センチ | 5.2センチ |
1.5度 | 5.2センチ | 7.86センチ |
完璧にストレートなラインがあるとして、カップの幅(108ミリ)に対するカップインの許容範囲は、センターから左右に約3.8センチずつ(ボールの直径は約43ミリ)。フェース面の角度が1度ずれれば、3メートル先では簡単にその範囲を超えてしまう。
パッティングでスクエアに構えるための最重要事項
「目線(アイライン)」をターゲットラインと平行にしよう
ボールを目線の真下にセットする
目線をターゲットラインの平行にセットするためには、ボールを目線の真下に置くことが重要。目線とボール位置がずれることで、アドレスのバランスが悪くなり、目線の向きのずれを生じやすくなる。
上体を起こしすぎると、ボール位置より手前に目線がセットされ、ターゲットより右を向きやすくなる。また、重心がカカト寄りになりやすい。
ボールの上から覆いかぶさるようにして、目線がボールよりも遠くなると、重心がツマ先寄りになるだけでなく、左を向いて構えやすくなる。
「目線」のずれに多くの人が気付かない
そもそも、「フェースを目標に向ける」という、一見、簡単そうなことが、なぜできないのか。吉田プロは、
「いちばん多い原因は、目線(アイライン)の向きが狂っていることです。私自身、ケニオンのラボで直接指導を受けた際、目線が目標よりも右を向くクセがあり、そのせいでストロークがインサイドアウトになっていることを指摘されました。当時、自分ではまったくそのことに気付いてなく、目標に対して真っすぐ構えることが、いかに難しいかを実感しました」と語る。人それぞれ、目標の「見かた」にはクセがあるが、多くの人がそのクセを自覚していないため、目線のずれに自分で気づくのは難しい。
「だからこそ、普段の練習から、ターゲットラインを可視化して、それを正しく目線でなぞる、ケニオンのメソッドのような工夫が必要になってくるのです」(吉田プロ)。
パターのシャフトで目線の向きを確認する
パッティング練習の際、パターのシャフトなどを使って目線の向きが正しいかどうかチェックする習慣をつけたい。わずかに頭を傾けるだけでも、目線の向きが変わってしまうことも実感できるはず。
パッティングで頭が傾くと目線の向きもずれる
普段、ほとんどの人は無意識に頭をどちらかの方向に傾けていて、そのクセがアドレスにも出てしまう。頭が右に傾くと目線は右を向きやすく、左に傾くと目線が左に向きやすくなる。
▼目線がずれるとターゲットラインに沿ってストロークしづらい
パッティングのヘッド軌道はイン・トゥ・インの「振り子」ストロークがもっとも自然
「振り子」タイプのほうが使う関節が少なくて済む
ヘッドはターゲットラインに対して真っすぐ動かすのがいいのか、それとも「イン・トゥ・イン」がいいのか。
吉田プロは、「ストロークの再現性を高めるには、使う関節は少ないほうがいいし、動きがある程度限定されているほうがいい。その意味では、ほぼ胸郭(上体)の回転のみで打てる、イン・トゥ・インの振り子ストロークのほうが安定感が高いと言えますし、ケニオンのメソッドもイン・トゥ・インのストロークが前提になっています」という。
ヘッドを直線的に動かそうとすると、どうしても腕の動きが大きくなるため、再現性の面では不利になりやすい。
「それでも、トッププロの中に『振り子』タイプと『直線』タイプがいるのは、圧倒的な練習量によってストロークタイプにかかわらず、再現性の問題をクリアしていることが多いからです」(吉田プロ)。
▼ケニオンメソッドは「イン・トゥ・イン」を前提にしている
ケニオンが開発した「MIパッティング・テンプレート」に示されたヘッド軌道は、ゆるやかな円弧を描いている。つまり、それが「理論的に」正しいと考えられる振り方だということ。
ポイント1. ストロークは胸郭の回転で行う
安定したストロークのためには、腕の無駄な動きを抑えて、上体の回転で打つのがいい。胸郭(あばら骨で囲われた部分)を垂直に保ったまま回転させるイメージを持つと、揺れが少なく、再現性が高い動きになりやすい。
【NG】ストローク中に胸郭を傾けてしまう
上体(胸郭)を回転させる際に、軸の傾きを変えてしまうと、ヘッド軌道がぶれやすく、入射角もまちまちになりやすいので、安定した転がりが得られない。
ポイント2. 頭と下半身を動かさず腕と体を一体にして打つ
パッティングのストロークでは、よほどのロングパットでない限り、下半身は不動のままがいい。頭の位置が左右にずれると、重心が移動して、下半身の動きが誘発されるので、頭は動かさない意識が必要。
「直線」ストロークは手の甲を真っすぐ出す
ヘッドを真っすぐに動かして打つ場合は、インパクト後は体の回転ではなく、左腕がストロークをリードする感覚が必要。左手の甲を、ずっとカップの方向に出していくイメージがいい。
【NG】手首の関節を動かして打つ
手首の関節を使う、いわゆる「タップ式」は、インパクトの強弱のコントロールが難しく、安定度を考えると、避けたほうがいい打ち方。
【NG】ストローク中にヒジの動きを使う
インパクト後に左ヒジを引くのは、ショット同様よくない動き。両ヒジを曲げた「五角形」ストロークも、使う関節が多くなるので、オススメできない。
【NG】上体を左右に傾けて打つ
テークバックで左サイドが下がり、フォローで右サイドが下がるのは、上体の動きと、重心の移動が大きくなりすぎるのでよくない。
曲がるパッティングラインは狙ったところに「打ち出す」ことに集中する
曲がるパッティングラインラインも狙う場所は「1点」
どんなラインも、打ち出し直後はボールに勢いで直線的に転がり、勢いが弱まると傾斜の影響で曲がり始める。ライン全体をなぞるのではなく、曲がり始めるポイントを狙って「真っすぐ」打つほうがシンプルで、集中しやすい。
《ゲート型の練習器具を活用しよう》
ケニオンが開発した「パッティングゲート」は、ラインの途中の「ターゲットポイント」に集中するための器具。ゲートの大きさが数種類あり、小さいゲートはかなりの技術と集中力が必要。
打ち出し目標まではラインは曲線ではなく「直線」をイメージ
「目線」を合わせて、目標に対してスクエア(体、フェースとも)に構えることは、「曲がるライン」でさらに重要度が増す。
吉田プロは、「曲がるラインの場合、ライン全体をイメージしてしまうと、どこを狙えばいいかぼんやりしてしまうので、ライン上に狙いどころを決めて、その『1点』に対してきっちり構えることが大事です」という。
狙いどころが「1点」であれば、曲がるラインも、ストレートなラインと同じ感覚で打てる。
もうひとつ大事なのは、どういう強さで打つかだが、「カップを少しだけオーバーする強さで打つのが、すべてのパッティングの基本なので、曲がるラインの場合も、カップの少し奥に『仮想ターゲット』をイメージして打つと、カップインの確率を高めるタッチになります」(吉田プロ)。
パッティング練習方法:カップの先にティを3本刺して打つ
カップをわずかにオーバーする強さ(有名パッティングコーチ、デーブ・ペルツによれば、「43センチオーバー」が最適)で打つことが、カップインの確率を高める。カップの奥にティを刺し、そのティに当てる距離感で打つ練習をすると、実戦でショートしづらくなる。
ポイント1. タッチの考え方
どんなラインもカップを少しオーバーする強さで打つ。
ポイント2. フックラインの構え方
打ち出す方向に体のすべてのラインを向けよう。
フックラインでは足元がターゲット方向を向いていても、ついカップを見ようとして上体が左にねじれるケースが多い。目線を基準に、体のすべてのラインを目標に向けることが大事。
ポイント3. スライスラインの構え方
ターゲットよりも右を向かないように注意しよう。
スライスラインではカップが視界に入るので、無意識にターゲットより右を向いて構えやすい。事前に決めた目標に対して、目線を平行にすることで、曲がりの頂点方向を狙っていける。
取材協力/取手桜が丘ゴルフクラブ
撮影トーナメント/全英オープン、ZOZO CHAMPIONSHIP
GOLF TODAY本誌 No.572 86〜95ページより
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