世界のゴルフスイング事情|アメリカで激化する3D vs 2D論争
ゴルフリサーチャーTASK【世界のゴルフスイング事情】vol.2
マイケル・ジェイコブズがゴルフスイングのメカニズムの基礎を最初にまとめた「ELEMENTS OF THE SWING」(2017年発行)
国内外で収集したゴルフスイングに関する最先端情報を「Jacobs3D」アンバサダー、ゴルフリサーチャー「タスク」が独自の視点と考察を交えてお届けします!
ゴルフリサーチャー・タスク
国際金融マンからゴルフリサーチャーに転身。米国のゴルフサイエンス団体Jacobs 3D GOLFのアドバイザリーメンバーであり、日本のアンバサダー。USGTF Teaching Professional、TPI Certified資格を所持。
身体主体で語る2D派とクラブ主体に論じる3D派
プレーヤーがグリップに何を起こしているかのキネティクスは、ゴルフの長い歴史の中において最大の謎でした。そのため、ゴルフのスイング理論というものは、常に身体を主体とするバイオメカニズムからの目線で論じられてきたのです。それは、皆さんもお馴染みの「身体を“こう使えば”グリップを通じて、クラブを“こう動かす”ことができますよ」という論じ方です。
ところが、身体の柔軟性などの制限や自由度は、プレーヤーによってまったく違います。そのため、千差万別な理論が許されてしまいます。このことが、アマチュアが様々なゴルフレッスンスタジオを漂流することとなる最大の原因であることはあきらかです。
詰まるところ「Jacobs 3D Golf」の貢献は、プレーヤーがグリップに与えるエネルギーを3次元で解析し、偏重心である剛体のゴルフクラブの重心をどうコントロールしているかをあきらかにしたところです。最大のポイントは、それがニュートン物理学で100%説明しきれてしまうこと。もちろん、すべては完全な3次元解析、つまり3Dです。
もとを辿ると、1990年代を通じてUSGAがゴルフクラブの挙動の解析をラファイエットカレッジのロボット工学科学者であるスティーブン・ネズビット教授に依頼したのが始まりです。その後、教授はいくつものオフィシャルな論文を発表しています。それ以降、マイケル・ジェイコブスやブライアン・マンゼラとの共同研究とともに「Jacobs
3D Golf」が発足、昨年「Science of the Golf Swing」という本として体系的にまとめられました。
一方、これまでアメリカのゴルフ理論の論客として名を馳せたクリス・コモ、サショー・マッケンジー、ドクター・クオンは、すべてバイオメカニストです。つまりゴルフの理論は基本的に身体側からのアプローチで論じられてきました。もちろん、彼らはそれぞれ素晴らしい生体力学者ですが、ゴルフクラブの挙動を加えての情報発信の一部はあまりにも単純化されていたり、我々がiPhoneの画像で確認するような平面、つまり2Dでスイングを解説しているシーンも多く、本人らは「自らは3Dだ」と主張するものの、完全な3D科学を標榜するJacobs 3D側からは2D解析に過ぎないと言わざる終えない部分も多い。
この辺りのアメリカでの論争は、「3D派vs2D派」と単純化されていますが、その議論は「メカニカルエンジニアリングvsバイオメカニズム」のバトルに過ぎないとも言えます。
ここでちょっと不幸なのは、Jacobs 3D側は論文や本などで公式に世間に対して、その科学的論拠を発表しているのに対し、2D派は、それぞれのSNSの短い発信に留まり体系的に論点を明らかにしていないところにあります。よって、それぞれのファンが、ああでもないこうでもないと論争を続けています。しかし、そのほとんどがニュートン力学まで理解して発信しているわけではないため、かなり感覚論で無益なバトルが多いというところでしょうか。
ゴルフスイングの真理のカギはグリップが握る?
一部2D派は、「モーションキャプチャーのデータでグリップのキネティクスを解明できるわけがない、直接グリップで測っているわけではないからだ」と言います。
しかしながら、科学を理解していれば、キネティクスを帰納的にInverseDynamics(逆動力学)で明らかにすることは十分有意であると理解できるはずです。
いずれにしても、インパクト時に莫大な圧力がかかるため、現在のセンサー技術ではスイング中のグリップの圧力変化を計測し続けるられる器具は当面開発できないでしょう。そのため、まだしばらくは無意味な論争が続くのではないかと思います。もし、グリップの圧力変化を測れる器具が開発されたら、この3D派と2D派の論争は終焉を迎えることとなるでしょう。
GOLF TODAY本誌 No.574 132〜133ページより
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