森 守洋が解説|アイアンが際立つ!ホーガン流『強いフェードの作り方』[番外編]
ホーガンのクラブ観とは?
真のフェードを打つためのクラブをホーガンはどう考えていたのか?自身のクラブメーカーまで立ち上げたホーガンのクラブに対する考え方からスイングを“逆算”で眺めてみよう。
ベン・ホーガン(Ben Hogan、1912~1997)
アメリカ・テキサス州出身。身長173㎝、体重68㎏。ツアー通算64勝。
メジャー3勝後の1949年に自動車事故で瀕死の重傷を負うが、翌年に復帰。以後、メジャーでは1953年の3冠を含む6勝を加え、グランドスラマーに。1948年に『パワー・ゴルフ』、1957年にレッスンのバイブルと呼ばれる『モダン・ゴルフ』を著し、現代でもそのスイング理論は多くのゴルファーに影響を与え続けている。
ホーガンアナリスト
森 守洋
ベン・ホーガンを手本としたダウンブローの達人・陳清波に師事。現在もホーガンの技術研究に余念がない。
[クラブ観] シャフトのしなりとねじれがコントロールを難しくする
ホーガンのスペックのこだわり
1、シャフトはとにかく硬くする
著書『パワー・ゴルフ』の中で「コントロールするのがとても難しい軟らかいシャフトのドライバーを選ぶべきではない」と言及。ホーガン自身はシャフトの先端をカットし、さらに硬さを増したものを愛用していた。
2、ソール全体が地面につく
通常、シャフトのタテしなり(トウダウン現象)を考慮して、トウ側をコイン2枚分ほど浮かせる、というレッスンが多い。しかしホーガンは「ゆったりと心地よく構えるため」には、ソール全体が地面につくことを条件としている。
3、フェースは平らでスクエアに
ソールを座らせたときに、リーディングエッジが目標にスクエアであることを重視。パターでもグースネックのオフセットや、ドライバーでアゴが出ているオンセットも嫌い、フェースのロールやバルジも極力排除していた。
シャフトのしなり戻りは操作できない
ホーガンのクラブに対する考え方は、著書『パワー・ゴルフ』に記されており、そこにはホーガンのシャフトに対する思い入れが表されている。
「クラブヘッドを変えてもそれほど問題は起きないが、シャフトを変えるとなると話は別だ。つまり、シャフトの重量と軟らかさは千差万別であり、これらはスイングに直接影響する。(中略)いつも使い慣れたシャフトの軟らかさがちょっとでも変われば、スイングはメチャクチャになってしまう」さらに、ホーガンはインパクト直前のシャフトの逆しなりや、トウダウン現象も高速撮影の写真を見て理解していた。
「シャフトのしなり戻りがフェース向きを狂わせ、嫌いなフックを助長させると考えたホーガンは、シャフトのしなりとねじれを極力排除しようとしたようです。それが超硬シャフト仕様を好んでいた理由です」(森)
天候、体調の見極めが大切!
〈ホーガン流 トウダウン対策〉トウの重さを物理的に削り落としてみた
ドライバーは「スピードスロット」
トウ側に溝を削り空気抵抗を減らす
ベン・ホーガンのオリジナルデザイン。実際にトウ側の空気抵抗を減らす、またはヘッドの操作性を高められたかは疑問だが、ホーガンにとってインパクトエリアでのトウダウンを減らすイメージ作りには大いに貢献したようだ。
アイアンは「アンダースラング」
ネックを曲げてヘッド重心を引きつける
まずライ角をアップライト仕様で作り、ネックをフラット方向に曲げて通常のライ角にすると、シャフト軸線がフェース方向に寄る。重心距離が短くなってトウダウンが減り、操作性が高まる。この技法は他のメーカーでも採用されている。
それでもシャフトはしなるから手元は低く先行して正解
シャフト軸線にヘッド重心を近づける工夫
「ホーガンが自社で作ったクラブを見ると、ヘッドのトウ側の重さ感、抵抗感を減らすようなデザインが目立ちます」(森)
トウ側の肉を削る、重心距離を短くする。だが、これらはフェースが返りやすくなる傾向があるので、フックを嫌うホーガンの意図とは逆のような気もする。
「ホーガンは勝利を重ねる前は、飛ばすためにフックを打っていましたが、フェースをコントロールする感覚は薄かったと思います。ヘッドは走らせるもの、という感じだったでしょう。
ですが、グリップを直してフェードを打てるようになってからは、フェースを立てて押す感覚に敏感になったはず。となると、自在にフェースの向きをコントロールするためには、それを邪魔するシャフトのしなり、しなり戻りをなるべく排除したい。だから重心距離を短く、シャフトを硬くしたのだと思います」(森)
GOLF TODAY本誌 No.575 81〜85ページより