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なぜドラコン選手は400ヤード以上も飛ばせるのか?

ゴルフリサーチャーTASK【世界のゴルフスイング事情】vol.6

2020/09/01 ゴルフトゥデイ 編集部

国内外で収集したゴルフスイングに関する最先端情報を「Jacobs3D」アンバサダー、ゴルフリサーチャー「タスク」が独自の視点と考察を交えてお届けします!

GOLF TODAY本誌 No.579/138-139ページより

ゴルフリサーチャー・タスク
国際金融マンからゴルフリサーチャーに転身。米国のゴルフサイエンス団体Jacobs 3D GOLFのアドバイザリーメンバーであり、日本のアンバサダー。USGTF Teaching Professional、TPI Certified資格を所持。

“効率的”なクラブの挙動が400ヤードドライブを実現

皆さんは、2019年の世界ドラコン選手権優勝者、カイル・バークシャーをご存知でしょうか。ノーステキサス大学・ゴルフ部時代のコーチの勧めでドラコン競技に転向。身長190㎝、体重98㎏という恵まれた体格を生かし、専門トレーナーとともにドラコン競技に適した身体づくりをしました。

彼の本大会における最長ディスタンスは426ヤード、左右に身体を大きく揺さぶるスイングの始動とともに話題を呼びました。ドラコンは飛距離を競う競技ですが、意外にも彼は「自分の強みは正確性だ」と発言しています。そこで彼のSNSを見ると通常ラウンドのシーンも多く投稿されており、すごい球を打つが、たしかに普通に上手いツアープレーヤーという印象です。

そもそも彼のクラブの挙動は“効率的そのもの"です。筋トレをしまくり、ここぞの一発に賭けるようなドラコン競技者には見えません。

注目されるテークバック直前のステップ動作は、強烈にグリップエンドを引き上げるエネルギーに転換され、重たいクラブヘッドを遅らせることにより、クラブのシャフトを「逆しなり」させます。そのエネルギーで一気にクロストップに入り、すかさず切り返しから強烈にグリップを引き下ろすことでシャフトの作用・反作用エネルギーを最大に作り上げます。もちろん、このようなスイングには強靱な肉体が必要です。

このカイルのスイングについて、プロをはじめ多くのゴルファーが通う常盤仁トレーナー(コモゴルフアカデミー)にお話を伺いました。
カイルの特徴は、『トップにかけて背中が丸いのに右ヒジが尋常ではない高い位置に上げられるところだ』ということです。背筋が非常に発達しているプロゴルファーは「背中を被せるトルク」に対し「胸前面を背中側へめくるトルク」が弱く拮抗させられないのに対し、カイルは両者をマックスに拮抗させられており、その“ケンカ(拮抗)の結果"を一気に爆発させている。『特に肩と首の繋がりが半端じゃなく強固であり柔軟だ』とのことです。

たしかに、トミー・フリートウッドやリッキー・ファウラーなどのPGAツアーの選手は、インパクトで猫背となり、首筋の筋肉で強大な遠心力と拮抗させているようにみえます。一方で逆に言えば、彼らのような身体を持たないアマチュアは、このようなスイングを無理して目指すとケガのリスクが大きいということも言えそうです。

第44回世界ドラコン選手権で初優勝 本大会・最長飛距離426ヤード!! カイル・バークシャー

カイル・バークシャーの切返し時点の右ヒジの高さは、並大抵の身体の持ち主では実現できない。日本の女子プロによく観察されるハイトップとは、全く異次元の身体の繋がりの中で実現されている(左)。 インパクト以降は、強烈な遠心力に対して身体側に支点を確保し、その拮抗を維持する。スイング中のモーメントによるトルクエネルギーは、左足ツマ先を軸にシェアリングさせてうまく逃している(右)。

大柄でもないのに飛ばせる理由は“二重加速”にあり

ここで、身長175㎝の日本人でありながら、ドラコン日本選手権シニア部門(45歳以上)で2018、2019年と連続優勝を果たした近藤鉄也さんに注目してみましょう。日本とはいえ、今や圧倒的に大きな体躯の選手が多い中、彼が2年連続でチャンプとなった秘密について考えてみましょう。

近藤さんによると、もちろん身体づくりは大切な要素であったのは明らかですが、それ以上に効率的なゴルフクラブ(シャフト)の扱い方を身体に擦り込ませたというのがポイントだったとのことです。

近藤さんは(下)切返しでシャフトの反作用を最大に受ける「第一のしなり」とP5(※)付近でしなり戻ってきたシャフトをさらに重力エネルギーのベクトルに乗せていく「第二のしなり」とを明確に分けて、ダブルで加速をつくりだしています。これが身長175㎝の日本人選手が400ヤードドライブを生む秘密です。

※P5はスイング中の各ポジションを指します。P5はダウンスイングでリードアームが地面平行のポイント、すなわちダウンスイング直後です。

また、近藤さんはルールで認められた最長のシャフトを使っていません。クラブ設計者とタッグを組んで通常ラウンド用のドライバーをベースに、データを緻密に解析し、最適なクラブを創りあげました。むしろ、その設計思想を体現するために特別メニューで身体づくりをし、試合ではロボットに徹してシンプルに振り切ることだけに専念したということです。

これは、まさに科学とフィジカルの融合をチームで実現した好例といえます。クラブの効率的な挙動は再現性に直結します。近藤さんの場合、その飛距離ももちろんですが、むしろ持ち球の5発を規定の範囲内に打てる正確性こそが、居並ぶ優れた体格の猛者たちを退けて連続優勝したポイントだったといえるでしょう。

2018・2019年ドラコン日本選手権シニア部門優勝 近藤鉄也

ゴルフクラブの効率的挙動を優先し、近藤さんの身体的特性により現れた400ヤードドライブスイングのキネマティックスは、インパクト後からフィニッシュにかけての独特なフォルムであり、身体の故障を避ける非常にうまいシェアリングテクニック。


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