スイングは身体の「回転運動ではない」
ゴルフリサーチャーTASK【世界のゴルフスイング事情】vol.8
国内外で収集したゴルフスイングに関する最先端情報を「Jacobs3D」アンバサダー、ゴルフリサーチャー「タスク」が独自の視点と考察を交えてお届けします!
GOLF TODAY本誌 No.581/138〜139ページより
ゴルフリサーチャー・タスク
国際金融マンからゴルフリサーチャーに転身。米国のゴルフサイエンス団体Jacobs 3D GOLFのアドバイザリーメンバーであり、日本のアンバサダー。USGTF Teaching Professional、TPI Certified資格を所持。
コリン・モリカワの強みは高精度なアイアンショット
2020年の全米プロの覇者、コリン・モリカワ。圧倒的なパワーゴルフ時代でも「ゴルフは飛距離だけではない」というテーゼを突きつけたその姿に、溜飲を下げた方は多かったのではないでしょうか。
この優勝で世界ランキング5位に浮上したモリカワ選手の今年9月時点でのスタッツを参照すると、ドライバーディスタンスは297.3ヤードで97位、一昨年より約7ヤード伸ばしているものの、ショートヒッターであることに変わりはありません。
アプローチ・パットが秀逸だという見解を耳にしますが、実際は今年のストローク・ゲインド(以下SG)・パッティングは128位とむしろ足を引っ張っています。モリカワ選手が秀でているのはSGアプローチ・トゥ・ザ・グリーンの2位、つまりロングの3打目、ミドルの2打目のような「グリーンを刺す」、ミドルアイアンのショット精度です。これは往年のタイガーウッズの強さと一致します。そもそもSGのコンセプトは、タイガーの強さを分析するために開発されたのです。タイガーは当時圧倒的な飛距離を誇っていましたが、実際にはドライバーを曲げまくるため、必ずしもドライバーは彼にとって圧倒的に貢献するショットではなかった。実は、曲げた先の次打で放つグリーンを刺すミドルアイアンの貢献度こそが、他のプレーヤーを寄せ付けないものだったのです。
高速回転は結果に過ぎない?
モリカワ選手のアイアンの精度はそのままドライバーの精度にも通じています。あの小柄な身体からなぜ300ヤード近いドライバーショットと、常にピンに絡んでいくアイアンショットの精度が生まれるのでしょう。
それでは、シャープに振り切るモリカワ選手は、ヘッドスピードを得るために身体を高速回転させているのでしょうか?
特に長いシャフトのクラブでは、小柄なプレーヤーほど身体の回転運動で正確にボールを捉えるのは難しいというのが一般的な考え方だと思います。実は、私にはモリカワ選手のスイングは身体を回転させているようには全く見えていません。
一流プレーヤーのキネティクスデータとスイングの外観であるキネマティクスを併せて解析していると、スイングの真実は「支点を確保した直線エネルギーの放出」に他ならないと結論づけられてしまいます。
しかも、エネルギー放出の大半は切り返し時点の飛球線後方への直線運動(ガンマフォース)で早期に完了します。放出された直線運動エネルギーはシャフトにより増幅され、クラブヘッドが大きくキャストされ(第一加速)、P5付近から重力エネルギーをもらいながらグリップエンドを引き続ける(第二加速)ことにより、結果的に円弧を描き、曲率半径を急激に拡大させて遠心力の増大とともにインパクトに向かうのです。
なぜモリカワ選手のスイングは高速回転に見えるのか。それは、エネルギーが身体に残らず、その大半がボールに伝達されているから、結果的に身体が高速で回されているのに過ぎません。
特にドライバーは、グリップに与えたガンマフォースをヘッドの正しい進行エネルギーに転換されるよう設計されています。よって、支点を確保しながら切り返し時点で与えたエネルギーと遠心力をダウンスイングで阻害しない身体のポジションをどう確保し続けられるかがが重要となります。
一旦振り下ろすと止められないエネルギーの大半をボールに伝え、残余分はフォローで逃してしまう。エネルギーが身体側に残ると、場合によってはそれが首、ヒジ、肩、腰などの故障につながるのです。
モリカワ選手は以前インタビューでこう答えています。
「simply just reacting to the target」要は「ターゲットを意識し反応するだけ」
大多数のゴルファーは、ボールを体の回転でとらえようとしますが、その結果、振り遅れと不必要なローテーションを発生させます。一方、モリカワ選手のスイングで彼が能動的にしていることは、正しいベクトルの第一加速をシャフトに与えているだけに近いのです。