1. TOP メニュー
  2. ゴルフ知恵袋
  3. ブライソン・デシャンボー_異端の科学者が目指す究極の再現性とは?

ブライソン・デシャンボー_異端の科学者が目指す究極の再現性とは?

ゴルフリサーチャーTASK【世界のゴルフスイング事情】vol.9

2020/12/05 ゴルフトゥデイ 編集部

国内外で収集したゴルフスイングに関する最先端情報を「Jacobs3D」アンバサダー、ゴルフリサーチャー「タスク」が独自の視点と考察を交えてお届けします! 今回は、2020年の全米オープンを唯一“4日間オーバーパーなし”でプレーし、ウィングドフットGCをパワーでねじ伏せたブライソン・デシャンボーのスイングに迫ります。

GOLF TODAY本誌 No.582/138〜139ページより

ゴルフリサーチャー・タスク
国際金融マンからゴルフリサーチャーに転身。米国のゴルフサイエンス団体Jacobs 3D GOLFのアドバイザリーメンバーであり、日本のアンバサダー。USGTF Teaching Professional、TPI Certified資格を所持。

究極の再現性を目指した 科学者の飽くなき探究心

2020年全米オープンの覇者、ブライソン・デシャンボー。ツアーがコロナ禍で完全に停滞を余儀なくされている8週間程度の間に別人のような体躯を得て、圧倒的飛距離を武器に現時点の米ツアーで大きな存在感を示しています。プレスカンファレンスで感想を聞かれ、It sounds amazing but it's real. と答えています。「獲るべくして獲った」タイトルである自信と達成感が現れています。

私は2年前のカーヌスティゴルフリンクスで開催された第147回全英オープンで、彼のラウンドを目前で観察していました。ワンレングスアイアンに注目が集まり始めた頃で、他試合ではコンパスを持ち込んで物議を醸し、当時は「異端の科学者」と揶揄されていました。

その存在は異彩を放ち、特にドローを打とうとすると、ギクシャクとした動きでプレーンを極端にインサイドアウトにもっていくその姿は滑稽そのもの。正直、彼のスイングは私の理解を超えていました。

しかし、今や強者と認められた彼が過去を振り返る言動から、その全英の舞台で成し遂げようとしたことへの理解が及びます。それは「究極の再現性」へのあくなき挑戦です。

アーム角をなくした特徴的なアドレス。最大に尺屈させたグリップはスイング中にヘッドが落下するβローテーションを排除。左前腕はγトルクを最大にかけたまま回外させ、スイング中のフェースアングルを一定に保つ。

デシャンボーのように切り返しからβフォースを大きく入れるとαローテーションによりヘッドが必ず振り遅れる。だが、極太のグリップを装着することにより大きなαトルクを与え、ヘッドを間に合わせることが可能となる。グリップとの接触面が大きいためβフォースも最大化でき、シャフトを大きくしならせることができる。

動作の単純化がもたらす 再現性と出力の最大化

クラブの力学的視点では、今やベンホーガンが提唱するガラスの一枚板のようなプレーンは存在せず、ハブ(グリップ)パスはランダムな3D曲線であると証明されています。

よって、シングルプレーンを目指すことは力学に背くことになります。そこで彼は、ゴルフクラブ側をいじくり倒しました。スパインアングルを維持するために、全アイアンのライ角、クラブの長さや重量さえ統一した。番手毎の重心位置の精緻な調整と挙動の統一化など、不可能に近い挑戦をイーデルやコブラなどのクラブメーカーに突きつけました。ある意味、ゴルフクラブという道具の特性の息の根を限界まで止めさせたといえます。

しかしながら、クラブの特性は完全には消えません。なぜなら依然として偏重心だからです。精緻な計算とともに、そのルーピング性能を生かし、他は全て削ぎ落としたのです。

身体側の解説は専門家に譲りますが、さらにデシャンボーが目指したのは身体各パーツの可動域の制限。アドレスでは最大に尺屈させてアーム角をなくし、左前腕を最大限に回外させているのです。これは初めから3次元のうちのβ、γのトルクをかけ切って、それ以上ローテーションしないようアドレスしているのです。

すなわち、ローテーションはαのみに単純化している。常にフェースはスクエアで、絶対に左に打ち出さないインパクトをアドレスで担保しているのです。これがデシャンボーの目指したシングルプレーンであり、その主役はβフォースです。

スイングテンポを圧倒的に速くし、アドレス直後からシャフトを大きく逆しなりさせる第一加速を得ます。切り返しの高速ルーピングでシャフトがしなり戻ると彼は再び強大なネガティブβフォースを与えます。彼が身体改造をした大きな理由の一つは、この第二加速において腕の重さを増してボールにぶつける質量を最大にしたかったのです。さらに極太のグリップの採用により強大なβフォースには避けて通れない振り遅れを力学的に防ぎ、シャフトのエネルギーを限界まで伝えています。

今、デシャンボーは明らかに私たちに新しいゴルフを見せつけています。しかし、それは新しいスイング理論などではありません。原理原則のもとで動作の単純化により再現性を高め、シャフトに与えるエネルギー出力を最大化したにすぎないのです。主役であり続けるゴルフクラブの前では、完全なシングルプレーンの実現は不可能。しかし、そのことまでも「科学者」にとっては織り込み済みなのです。


ゴルフリサーチャーTASK【世界のゴルフスイング事情】
←スイングは身体の「回転運動ではない」
パットに型なしグリップにも型なし。自分にとっての理想を追求しよう→

Vol.8(前回)へ Vol.10(次回)へ

シリーズ一覧へ