Yamaha inpres UD+2 振動を知るヤマハだから“+2”が進化|ギアモノ語り
~飛び系のパイオニアが歩む道~
ヤマハにはもちろん、クラブ開発のチームがある。しかし、新作『インプレスUD+2』の開発を担当したのはさらに技術色の強いATチームからきた2人。ATはアドバンスドテクノロジーの略称で、次世代の先端技術を開発している部署。今回の『インプレスUD+2』はヤマハが誇る超最先端技術がつまったモデルだった。
2つめの振動を抑えて、初速アップと曲がらないを融合
ヤマハ㈱ ゴルフHS事業推進部 開発グループ 主事
平井 究
かつてドラコン競技用のドライバー開発をしていた平井氏。趣味である折り紙(写真下)も、今回の『スピードボックス』構造のヒントになったそうだ。
「発想の原点はトタン屋根と折り紙。フェース側を重くしないことで大慣性モーメントを実現した」
ヤマハゴルフの開発拠点となっている浜松の天竜工場。約2年前、前作の『インプレスUD+2』の取材でも訪れたが、当時とは景色が一変。ゴルフの開発は今年4月に完成した『ゴルフR&Dセンター』という巨大な施設に拡張され、恵まれた研究開発の環境を手にしていた。この施設は、今後ヤマハがさらなる技術力、研究開発を追求していく象徴でもある。
実際に『インプレスUD+2』においても前作とは開発テーマが大幅に変わっていた。新作のドライバーで開発を担当した平井氏に話を聞くと、
「前作の2代目では、初代からの“継承”をコンセプトにしていましたが、3代目は2代目から大幅に進化した新しいテクノロジーを搭載して“変わること”が狙いでした」
そのメインテクノロジーが特許出願中の『スピードボックス』。ヘッドのクラウン、ソールのフェース側に凹凸部分をつける新構造である。実は、このアイデアこそ次世代のテクノロジーを開発するアドバンスドテクノロジーチーム(以下、ATチーム)に所属している平井氏が出した提案だった。
「ボール初速を上げるためには、いかにインパクトのエネルギーをヘッドの前方(フェース側)で止めておくかが最大のポイントです。エネルギーがヘッド後方までいくと、それはボールに伝わらないエネルギーになってしまいます。エネルギーを前方で受け止めるためにはヘッドの変形を抑える剛性の高い構造が必要。そこでヒントになったのがトタン屋根や折り紙でした」
『RMX』ではタテの振動を抑えたブーストリングを搭載
確かにソールとクラウンにある『スピードボックス』はトタン屋根の構造に見える。
「トタン屋根や折り紙も真っ平らな面だと、構造的にはすごく弱い。しかし凹凸をつけることで振動に対して強くなる。『スピードボックス』の凹凸もまさにフェース側からの振動を防波堤のように食い止めて初速を上げる効果があるのです」
新作『インプレスUD+2』には20年モデルの『RMX』で採用した振動を抑える技術『ブーストリング』も採用されていた。この効果について平井氏は、
「実は『ブーストリング』の狙いも、インパクトのエネルギーを前方で食い止めるコンセプトは同じです。『ブーストリング』はクラウンとソールが膨らむ変形によって生じる振動を抑えています。今回の『スピードボックス』はボディ表面に沿って発生する振動を抑える構造。この2つの構造によって全方位の振動を抑えることができるのです」
さらに、『スピードボックス』にはある利点があった。
「一般的にヘッド前方の剛性を高めようとすると何か重量を付加することになりますが、『スピードボックス』の構造ならヘッド前方が重くなりません。さらに今回はフェースも少し小さくして約5グラム軽くなったことで余剰重量が生まれました。その重量を後方部分に配置することで慣性モーメントも大きくなり、重心角も大きくなって、つかまりの良い曲がらない構造になっています。また単純に前方(フェース側)を軽くして、後方を重くしたことでボール初速が上がる重量配分になっています」
『ブーストリング』からつながる『スピードボックス』の構造、さらに前方を軽くしてボール初速を上げる効果まで、キーワードとなっているのは振動だった。平井氏は、
「ヤマハの根幹にある技術はやはり振動。音楽メーカーの会社なので、振動に関しては他のゴルフメーカーにない技術を持っていると思います。だからこそ、まだまだATチームの技術があれば次のドライバーも進化させられると思います」
技術を追求するためにR&Dセンターを新設!
重心角も大きくなり、慣性モーメントも5000g・㎠超え!
Driver inpres UD+2
ヘッド体積/460㎤
ロフト角/9.5、10.5度
クラブ長/45.75インチ
クラブ総重量/275グラム(フレックスR)
シャフト/エアスピーダー for ヤマハ M421d
価格/8万円+税
タテのたわみを減らす5本の柱でさらに高弾道な2番手アップに!
ソールのない試作品でタテ、ヨコのたわみを研究
5本のリブは0.3㎜トップにつけない構造に
「下側ヒットでも打球が上がって、初速が出るようになった
ヤマハ㈱ ゴルフHS事業推進部 開発グループ 主任
齊藤 史弥
『スピードリブフェース』のアイデアも特許出願中。齊藤氏は、2018年にこのアイデアを提唱したそうだ。
今では、すっかりアイアン市場の主役となった飛び系アイアン。その原点であり、先駆者だったのが14年にヤマハが発売した初代『インプレスRMXUD+2』アイアンだった。当時から2番手アップという画期的なコンセプトで、アイアンにおける飛距離の限界に到達したようなモデルだったが、それをどうやって進化させるのか。そのキーワードもたわみとトタン屋根の構造だった。アイアンの新技術である『スピードリブフェース』を開発した齊藤氏は、
「私もATチームで次の世代の技術を開発していたのですが、アイアンではソールがない試作品(写真右ページ上段)が新技術のキッカケになりました。トタン屋根のような5本のリブをつけたのは初速アップを狙ってフェースのヨコ方向は大きくたわませて、タテ方向のたわみを抑えようとしたテストモデルです。この結果で意外だったのが、打ち出し角が大幅に変化したことです。このテストモデルにソールがないのはアイアンは地面のボールを打つクラブで、下側ヒットしたときの弾道もテストもしましたが、スコアラインの下側から1、2本目で打ってもリブがあれば弾道が変化したのです」
なぜリブがあれば弾道が変わるのか、その理由を聞くと、
「一般的なアイアンではインパクトの瞬間にタテ方向にもヨコ方向にもボールを包むようにたわみます。わかりやすく言うとトランポリンのような現象。そのときに問題なのがタテ方向のたわみです。特に反発性能の高いアイアンではボールを包むようにフェースがタテ方向にたわんでしまうと、ロフトが立ちすぎて打ち出しが低くなる傾向がありました。今回は、そのタテ方向のたわみを抑えたことで高打ち出しの飛び系アイアンが完成したのです」
ロフトが立っている飛び系アイアンは、ヘッドスピードが遅い人が打つと打球が上がらないのが弱点だと言われてきた。それだけに、打ち出しが高い構造は大きなメリットになるだろう。さらにアイアンではヘッド製法そのものも新しい挑戦をしていた。それが一体鋳造製法だ。
「前作までは鍛造ボディにフェースをつける製法でしたが、今回はボディとフェースを一体鋳造したことで、より設計の自由度が高くなりました。その結果、新作ではフェースを0・2㎜、ソールを0・6㎜も薄くできました。特にソールを薄くしたことで、下側で打ったときにフェースだけでなくソールもたわむ構造になっているので飛距離アップの効果は大きいと思います」
よく、ゴルフクラブの世界では“たわみ”という言葉を使うが、“たわみ”は専門用語で言えば振動のこと。この振動を知るヤマハだからこそ、2番手アップの飛び系アイアンを生み、それをさらに進化させる技術をもっているのだ。
トゥ側は高くなり、よりアイアンらしい顔に
Iron inpres UD+2
ロフト角(7I)/25度
クラブ長(7I)/37.75(スチール)
シャフト/エアスピーダー for ヤマハ M421(i カーボン)、N.S.プロゼロス7(スチール)
価格/9万8000円+税(4本セット・7I-PW)、2万4000円+税(単品・5I、6I、AW、AS、SW)
GOLF TODAY本誌 No.581 105〜109ページより