ムーンショットから50年|宇宙飛行士アラン・シェパードが愛したペブルビーチ
佐渡充高のテレビでは語れなかったPGAツアー
ゴルフ番組やゴルフ雑誌ではあまり語られることのないトピックを、ゴルフジャーナリストやトーナメント中継の解説者として活躍する佐渡充高が取り上げ、独自の見解とともにお届けします。
GOLF TODAY本誌 No.586/115ページより
人類でただ一人“月面でゴルフボールを打った”男
PGAツアー西海岸シリーズ初戦ペブルビーチ・プロアマ開催の夜、今年は思わず月を眺めた。71年2月アポロ14号の船長アラン・シェパードが月面でゴルフショットを行ってから50周年。彼は61年米国人初の宇宙弾道飛行に成功後、メニエール病の手術を経て10年後の47歳で2度目の宇宙、そして月面へ。NASA引退後はテキサス州ヒューストンからペブルビーチに転居し金融や流通業で成功を収めた。
大会開催コースのひとつモントレー・ペニュンシラのメンバーとなり、ペブルビーチ・プロアマにほぼ毎年参加。いつもゴルフファンから盛大な拍手で迎えられ笑顔でプレーを楽しんでいた。当時のコース支配人や関係者からも「朗らかな人柄で優しいジェントルマン」「スイングも研究熱心」と親しまれ、ハンデ8に。
NASA時代はヒューストンのレジェンド、ジャッキー・バークJr.らから頻繁にレッスンを受け、月面ショット当時のハンデは15。転居後の充実ゴルフライフでさらに上達した。月面ショットを実現したアポロ14号のミッションの一つは“重力6分の1の月と地球ではどう違うかが一目瞭然となる実験”で、当初はハンマーと羽の同時落下が計画されていた。
ある日、世界的コメディアンのボブ・ホープがドライバーを持参し、NASAを激励訪問。当時の米国はアーノルド・パーマーとジャック・ニクラスの両雄バトルでゴルフが空前のブームという時代背景もあり関係者は月面ショットを閃き変更したという。クラブは制限や効率から組み立て式シャフトにしシェパードが当時得意だった6番アイアンのヘッド(ウィルソン製)を装着、ボールも耐熱の特別製を用意し、出発前に練習を繰り返した。
迎えた月での本番でシェパードは右腕だけで4度スイング。4度目の打球は舞い上がり「どこまでも飛ぶ!」と叫んだ。実際の飛距離は約200ヤードで、高く上がり滞空時間も長い打球はとてつもない飛距離に感じたのだろう。風も雨も、音もなく、見渡す限りバンカーのような月の世界、黒い空に向かってのショット体験は50年を経ても人類で彼ひとりだ。
シェパードは13年間ペブルビーチの絶景ゴルフを楽しみ、98年7月白血病のため74歳で永眠。53年連れ添ったルイーズ夫人は同地に散骨を準備の最中、夫を追うように翌月心臓発作で急逝。家族は海軍のヘリコプターでペブルビーチの海に2人一緒に散骨した。
月面ショットから半世紀、重力下で400ヤード級の超打を放つ時代となった。ペブルビーチのどこかで、人類の進歩に驚いている気がした。
●文/佐渡充高
さど・みつたか
上智大学法学部卒業。1985年に渡米し、USPGAツアーを中心に世界のゴルフを取材。NHKゴルフ解説者。