松山英樹の2024年の快進撃を支えた史上最高の九代目!【スリクソン Z-STAR シリーズ】
話題の新作 開発ストーリー秘話 ギアモノ語り VOL.45|SRIXON Z-STAR Series
2024年の松山英樹はPGAツアーで2勝を挙げて、パリ五輪では銅メダルを獲得。世界ランキング7位まで浮上する大活躍の1年だった。その活躍に貢献したのが、約1年前から使ってきた25年モデルの新ボール。その秘密を探るために開発拠点の市島工場を訪れた。
ゴルフトゥデイ本誌 632号/81~85ページより
取材・構成・文/野中真一 撮影/相田克己
~ボール開発のキーマンが語った開発&テスト秘話~
3年間ボールを変えなかった松山英樹を1球で満足させた食いつきとスピン。3ピースのコアが初速を上げた。
ダンロップの市島工場は世界最高水準のゴルフボール工場。巨大なテストセンターも併設している。今回はスリクソンの初代モデルから開発に携わり、2014年から松山英樹のボールテストを担当している神野一也に話を聞いた。
松山英樹は2009年の初代モデルから一貫して『スリクソン Z-STAR XV』を使い続けているが、必ずしも新モデルを使っていたわけではない。
歴代モデルで長く使っていたのが5代目(2017年モデル)。2016年2月から2021年の1月まで約5年間も使い続けた。2021年2月から7代目(2021年モデル)にスイッチすると、約3年間使った。そして、2024年の1月後半から使いはじめたのが9代目の新モデル。2025年1月に一般発売されるボールを約1年前から使っていた。
初代の『スリクソン Z-STARシリーズ』の開発に携わり、5代目以降は松山英樹のボールテストを担当してきた神野一也は松山英樹が信頼するボール開発者である。松山英樹はどうやってボールを評価しているのか?
世界最高基準のボール工場。最後の検査は「人の手」で
「松山選手が最もこだわるのはパターでヒットした時の音です。パターの音に納得しないと次に進みません。長く使っていた5代目(2017年モデル)は最終的に音を気に入ってくれました。当時は我々も松山選手が好む音を完璧には把握できていませんでした。だから、パターの関門をクリアするのが難しかった。テスト段階では40種類の試作品を米国に持っていき、松山選手がすべてパターで打ったこともありました。
松山選手は澄んだ音を好むのですが音は様々な周波数が重なって一つの音に聞こえます。松山選手は音の重なりがあった上でクリアに澄んだ音を好むことがわかってきました。最近のテストではパターの音は満足してもらうことが増えました」
9代目はどういう評価だった?
「パターの音をクリアして、アプローチのテストをしたときに1球打って『これ、いいかも。これなら(ボールを)変えられるかも』というすごく良い反応でした。『食いつきが良くて、重い感じがする』と言われていました。そのままアプローチを打ち続けて『スピンも入るし、スピン量が安定する』と評価してもらいました。
パット、アプローチをクリアしたら、ラウンドテストに持っていくが実はラウンドでNGになることはほとんどないそうだ。
「パットとアプローチをクリアしたら、アイアンやドライバーのショットに関しては信頼してくれていると思います。私は2014年から担当してきましたが、ショットでNGになったことは1度もありません。ショットは国内でもしっかりテストをしていますし、飛距離性能や弾道の安定感には自信を持っています。ただ、9代目(2025年モデル)に関しては『初速が出る』とボールスピードにも満足していました」
ボールスピードに貢献したのが8代目(2023年モデル)の構造だ。
「残念ながら試合では使われなかった8代目ですが、テスト段階の評価はすごく高かった。とくにショットに関しては3ピースにしたことでボール初速が上がりました。7代目までは2層コアの4ピースでしたが、松山選手は1層コアの3ピースの方がスピード感があって好きだったと思います。ただ、いよいよ試合で使う流れになったときに、ケガなどが重なって、タイミングが合いませんでした」
さらに飛んで止まる! 三者三様の飛び姿で選びやすくなった NEW「スリクソン Z-STAR シリーズ」
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「40個のテストボールを米国に持っていったときは、全部パターで2、3球ずつくらい打っていました」(神野)
8代目の3ピースと1層コアは9代目にも継承している。ただし、それは普通の1層コアではない。
「一般的に1層コアの利点はインパクトでのエネルギーロスがなくなり、ボールスピードを上げられることです。2層にすると、2つのコアで硬さの違いを出すことによってアイアンでのスピン量を上げることができます。それぞれにメリットがあるのですが、『スリクソン Z-STARシリーズ』の1層コアは、1層の中でも外側に行くほど硬くなっていて、内側に行くと急激に軟らかくしています。1層なのに2層の役割を備えています。その結果として、ドライバーではボールスピードを上げつつ、アイアンでもスピンが入るボールになっています」
そしてカバーも普通のウレタンカバーではなかった。
「ボールのテストはパットとアプローチが9割。過去にショットでNGが出たことはありません」
住友ゴム工業
スポーツ事業本部 商品開発部
ゴルフボール技術グループ
課長
神野一也
Kazuya Kamino
2004年に住友ゴム工業株式会社に入社。初代の『スリクソン Z-STAR』から開発を手がけ、2014年よりスリクソンのボール開発を担当。
薄さ・軟らかさの次元を超えたカバーへ
トウモロコシ由来の新素材が生んだ「粘・弾性」飛びの秘密は唯一無二のディンプルに
『スリクソン Z-STARシリーズ』の特徴の一つがカバーの薄さと軟らかさ。9代目ではウレタンカバーの材料を分子レベルで見直した。採用したのはトウモロコシから抽出した原料だった。
他社と比較しても『スリクソン Z-STARシリーズ』のウレタンカバーは薄い。神野は「カバーだけを太陽光に当てると透けるくらいです」と語っていた。薄いだけではなく、年代を重ねるごとに軟らかくしていた。
「薄くする理由は飛距離性能を高めるためです。『スリクソン Z-STARシリーズ』の大前提は飛距離ではどこにも負けないこと。カバーが厚いとエネルギーをロスするので極限まで薄くしています」
もう一つ、飛ぶ理由があった。
「ディンプルに秘密があります。かつてブルックス・ケプカ選手のテストをしていたときにすごく自信を持った出来事があります。他社のボールと比較していたときに、トラックマンの数字はほとんど同じだったのに『スリクソンの方が飛んでいる』という話になりました。その違いがディンプルでした。初速、スピン量などの初期条件は同じでも、ディンプルによって空気抵抗を抑えつつ、最高到達点からひと伸びする揚力で飛ばすことができます」
『スリクソンZ-STARシリーズ』のディンプルは何が違うのか?
「ディンプルはなるべく同じ大きさでありながら、占有率が高い(ボール面を広く覆っている)のが理想です。これがパズルのようで難しいのですが、当社にはディンプル開発のスペシャリストがいます。初代と2代目は同じディンプルですが3代目でディンプルを変えました。そして4代目でまた新しいディンプル数にしました。5代目で338個のディンプルパターンに到達して、7代目ではディンプルの深さを変えました。ディンプルパターンは5回変更しましたが、今のディンプルは完成度が高くてこれを超えるのが難しいレベルに到達しています」
「3モデルの特徴をはっきりと分けた。プロが使っているボールと市販品は全く同じです」
松山英樹はテストの最終段階で「打球の飛び姿が美しい。自分がイメージした弾道でありながら、スピードがあるのでその先を飛んでいる」と語っていた。それはディンプルの性能を評価していたのだろう。
カバーの軟らかさに関しては初代から9代目までの間に大きな変化があった。
「初代、2代目はカバーが少し硬かった。3代目以降、徐々に軟らかくして、スピン性能を重視するようにしました。そして4代目以降は『SPIN SKIN』のコーティングによって一気にスピン性能が高くなりました」
9代目では新しい原料にトライした。
「松山選手にはボールの完成品だけではなくて、素材レベルのテストもやっています。2023年の夏頃に新素材のテストをしたときに『これ、いいわ』と言った素材がありました。それがトウモロコシから抽出した原材料を使ったカバーです」
最終テストで「食いつきがいい」と言ったのも、トウモロコシ由来の素材が効いていた。
「材料研究でわかったことは静的な柔らかさだけではなくて、専門用語で言うと動的な粘・弾性の違いによりフェースに乗る時間が長くなること。プレーヤーが評価するのは、動的な粘りと柔らかさの組み合わせだったのです」
最後に気になる質問をしてみた。松山選手の活躍だけでなく、今年の『スリクソン Z-STARシリーズ』は女子ツアーで37戦19勝(優勝確率51%)という驚異的な数字を残したが、プロが使っているモデルと市販品は同じなのか?
「全く同じです。ボールは量産しないといけないので微調整することはできません。松山英樹選手が使う『Z-STAR XV』も、年間女王になった竹田麗央選手の『Z-STAR』も、畑岡奈紗選手の『ZSTAR◆(DIAMOND)』も市販品と同じです」
20年以上にわたりダンロップのボール開発に携わり、10年以上も松山英樹とのボールテストを繰り返してきた神野は最後にこう語った。
「松山選手とは1年に3、4回ボールのテストを行ないます。新しいボールにはすごく興味があり、テストに対してはすごく前向き。ただし、新モデルだからと言って必ず使う選手ではありません。絶対に今までより良いモデルでなければ使いません。逆に使いはじめたということは間違いなく今までより良くなったという証です。その積み重ねによって、最新のボールは史上最高のスリクソンになったと思います」
神野の話を聞くと初代からの歩みが伝わってきた。2009年の誕生から15年間も日々研究・テストを続けながら良いところは継承して、課題が見つかると改善してきた。その歩みは成長を続ける松山英樹のゴルフ人生のようでもある。2025年も9代目で世界の頂点を目指す戦いに挑む。
最高レベルの飛距離・スピンで攻める
SRIXON Z-STAR XV
●SPEC(XV)
構造/3ピース
カバー/高スピン バイオ ウレタンカバー
コア/ファストレイヤー D.G.コア 2.0
ディンプル/強弾道 338 スピードディンプル
価格/オープン
アイアンのスピンで止める! 操る!
SRIXON Z-STAR ◆(DIAMOND)
●SPEC◆(DIAMOND)
構造/3ピース
カバー/高スピン バイオ ウレタンカバー
コア/ファストレイヤー D.G.コア 2.0
ディンプル/強弾道 338 スピードディンプル
価格/オープン
優しく、まっすぐ、遠くへ
SRIXON Z-STAR
●SPEC(Z-STAR)
構造/3ピース
カバー/高スピン バイオ ウレタンカバー
コア/ファストレイヤー D.G.コア 2.0
ディンプル/強弾道 338 スピードディンプル
価格/オープン
「今回は3モデルの性能をしっかり差別化しました。『Z-STAR』はコアを軟らかくして、直進性を高めました。前作の『◆(DIAMOND)』は『XV』に近かったのですが、今回はカバーを軟らかくしてさらにアイアンのスピン量を高めました。『XV』はコアを限界まで薄くしてコア・ミッド層を大きくしてさらなる初速アップを狙いました」(神野)
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