なぜ「ボール選び」がつまらなくなったのか?
重箱の隅、つつかせていただきます|第6回
スイング、ゴルフギア、ルールなどなど……。ゴルフに関わるすべての事柄の“重箱の隅”をゴルフライター・戸川景が、独自の目線でつつかせていただくコラムです。
GOLF TODAY本誌 No.583/68ページより
戸川景
とがわ・ひかる。1965年3月12日生まれ。ゴルフ用具メーカー、ゴルフ誌編集部を経て㈱オオタタキ設立。現在、ライターとしてゴルフのテーマ全般を手掛けている。
なぜ「ボール選び」がつまらなくなったのか?
最近、同伴するプレーヤー諸氏の使用ボールが変わりばえしなくなったな、と思う。大抵、大手メーカーのウレタンカバーのプロモデルだ。誤球防止の印のつけ方ぐらいしか個性がない。
聞いてみると、プロモデルはよく飛ぶし、打感もいい。スピンも利くし、価格も手ごろ。モデルチェンジ以外、替えなくていいと考えているようだ。
30年前にメーカー販促も手掛けていた身としては、つくづくボールも進化したものだと思う。当時は〝糸巻きバラタ〟と〝2ピース〟がせめぎ合う中、私はキャスコの〝3ピース〟をメインに売り込んでいた。
飛距離性能、スピン性能、打感の3要素でそれぞれ明確に違いがわかった時代、ボール選びはとても楽しかったと思う。
芯を食わないと飛ばずに曲がり、カバーが裂ける〝糸巻きバラタ〟と、硬い打感で止まりにくいが飛距離を出しやすい〝2ピース〟。メリットとデメリットが明確だったので、自分のプレースタイルを考えつつ、選ぶ。
さらにショップの店頭で、少し軟らかくした〝ソフト2ピース〟だの、耐久性のある〝サーリン糸巻き〟だのを、自分なりの工夫を発揮できるものとして選べるのも楽しかったはずだ。
ところが〝ウレタンカバー3ピース〟がこの流れを変えてしまった。飛距離性能で糸巻きの頂点に立った『ロイヤルマックスフライ』、プロが使えるスピン性能の2ピース『レイグランデWF432』を一気に過去のものにしたのが『プロV1』だった。
その後、各メーカーでウレタンカバーの多層構造モデルが開発されてきたが、数年前までは選ぶ楽しみはあったと思う。プロモデルでも打感の違い、性能の違いが感じられたからだ。
ところがここ数年、あまりにも各メーカーのプロモデルが似てきている。最高のパフォーマンスに近づいているからだろうが、一般ユーザーでは判別しかねるほどの差しか感じられない……ドライバーとアプローチでは。
実はアイアンでは、結構違いがわかるはずなのだが、一般ユーザーは打ち比べない。そこに大きな違いがあるとは思わず、また現在使用中のボールにそれなりに満足しているからだろう。
だが実際、かなり違うのだ。ルール規制で初速制限がある限り、ドライバーでの飛距離性能はほぼヨコ並びになるしかない。一般ユーザーはミート率もそこそこなので、ボールの性能違いはほぼ判らないだろう。
ところがアイアンでは、ヘッドスピードも遅くなり、打ち出し角も大きくなる。それに対し、最適な反発性能とスピン量で大きな飛距離を作り出せる可能性が残されている。つまり、アイアンで半〜1番手ほど伸びるボールは開発できるわけだ。
たとえばテーラーメイドの『TP5』などはその発想に近い。高弾道+低スピン化で、アイアンのキャリーが伸びる。
ドライバー、アプローチ、パットはほぼ変わらない。だからこそアイアンやユーティリティで違いを探してみる、というスタンスなら、またボール探しを楽しめるようになると思うのだが。
これは、プロモデルだけの話ではない。廉価モデル、たとえば1球200円ぐらいのボールにも言えることだ。
トーナメント仕様ではないコースセッティング、プロのように速くないヘッドスピードなら、もっとやさしくプレーできる機能のボールはある。
なぜ各メーカーがプロモデルだけでなく廉価モデルを、しかも複数機能を変えて作り続けているのか。その意図に思いを巡らして、試すのも一興だと思う。
Text by Hikaru Togawa
Illustration by リサオ