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なぜ両手で握るのに「グローブは片手」なのか?

重箱の隅、つつかせていただきます|第7回

2021/01/31 ゴルフサプリ編集部

スイング、ゴルフギア、ルールなどなど……。ゴルフに関わるすべての事柄の“重箱の隅”をゴルフライター・戸川景が、独自の目線でつつかせていただくコラムです。

GOLF TODAY本誌 No.584/72ページより

戸川景
とがわ・ひかる。1965年3月12日生まれ。ゴルフ用具メーカー、ゴルフ誌編集部を経て㈱オオタタキ設立。現在、ライターとしてゴルフのテーマ全般を手掛けている。

なぜ両手で握るのに「グローブは片手」なのか?

私はグローブメーカーに3年ほど勤めていたことがあるが、基本的にグローブは使用しない。冬場に防寒のために使うぐらいだ。理由は単純で、必要性を感じないから。素手で十分と思っている。

もちろん、グローブの効用は熟知している。グリップが滑りにくくなること、これに尽きる。だから、滑りにくさを感じなければ必要ない、ということだ。

とはいえ、それならなぜプロはグローブを着けるのか。グリップが滑りにくいほどソフトに握れるから、と回答してくれたプロがいた。グリップのテンションを下げられるほど、ヘッドスピードも操作性も向上するという。

さて、ここで疑問が生じる。それならば、なぜ〝両手〟に着けないのか、と。右手をリキませずにソフトに握るなら、右手にこそグローブは必要ではないのか。

右手はタッチ、フィーリングを繊細に感じたいから、という意見を聞いたこともある。しかし、薄手の羊革グローブなら、繊細さを損なうこともないはず。グリップラバーの素材の違いのほうが、大きく影響するはずだ。

そういえば女性用は、両手で販売されていることも多い。握力が弱いから、手が傷むからという理由らしいが、握力が人並だった不動裕理は、ノングローブで豊富な練習量をこなし、50勝も挙げている。グローブと握力云々は、やはり整合性が取れていない。

とはいえノングローブのプロは現代では少数派で、日本ツアーでは堀川未来夢ぐらいか。世界のメジャー勝者でもコーリー・ペイビン、フレッド・カプルスなど、もうシニアにしか見当たらない。

この現状から、やはりグローブの優位性は高く、装着するのがベターなプレーにつながるはず、と考えるのがプロにとっての〝常識〟になっていると思われる。

だから、余計に〝両手〟ではないことが不思議なのだ。

ゴルフの片手グローブの歴史は意外と浅く、第二次大戦以降。ボビー・ジョーンズはもちろん、ベン・ホーガンもノングローブだった。明らかに市民権を得たのは、1950年代後半、つまりアーノルド・パーマーが登場し、ツアーのテレビ中継が普及した世代からだろう。

なぜ当時、左手だけが良かったのか理由を探ってみたい気もするが、それよりも、なぜ現代まで〝両手〟に切り替わらないのか、ということのほうが気になる。

理想のゴルフグローブは、手のひらに手の皮を1枚貼り付けた感じがいい、と教わったことがある。青木功のグローブは非常に薄く仕上げるため、塗料は黒(少し丈夫になる)で、装着するときは湿らせて、引き伸ばしてはめていた。プロアマでそれをもらったアマチュアが使い、1球ミスヒットしたら裂けてしまった、という話もある。

そこまで薄手なら、右手のフィーリングを損なうはずもない。なぜ左手だけなのか。私は、ただの〝慣れ〟に過ぎないのでは、と思っている。

ゴルファーは、最初に教わったことからなかなか〝変化〟することができない性質を持っていると思う。振り方、プレースタイル、すべてにおいてだ。

新しいスイング理論は試してみる、でも元に戻ってしまう。新しいクラブに合わせるよりも、合わなければまた新しいクラブに手を出す。一見、違うことのようだが〝自分を変えないほうがラク〟という姿勢は共通なのだ。

たとえば、なぜオーバーラッピングで握るのか、と問われたら、どう答えるだろうか。要は最初の刷り込みから、特段変える必要を感じなければ、それきりになる。

片手グローブも、その流れにあると思っている。


Text by Hikaru Togawa
Illustration by リサオ


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