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ゴルフの「グランドスラム」の認識と評価とは?

重箱の隅、つつかせていただきます|第10回

2021/05/04 ゴルフサプリ編集部

スイング、ゴルフギア、ルールなどなど……。ゴルフに関わるすべての事柄の“重箱の隅”をゴルフライター・戸川景が、独自の目線でつつかせていただくコラムです。

GOLF TODAY本誌 No.587/70ページより

戸川景
とがわ・ひかる。1965年3月12日生まれ。ゴルフ用具メーカー、ゴルフ誌編集部を経て㈱オオタタキ設立。現在、ライターとしてゴルフのテーマ全般を手掛けている。

「グランドスラム」の認識と評価とは?

下半身の強さに自信がある人に! 右に重心を残して振れば強く長く球を叩ける! 新たに優れたプレーヤーが登場すると、歴代の名手と比較する企画が必ず出てくる。その基準の筆頭が、優勝したトーナメントの「数」と、その「格」だろう。

難しいのは、「格」の見極め。現在では、世界ランキングのポイントの違いでタイトルの大小を判断できるが、過去に遡るほど「格」の評価基準に不明確なものが出てきてしまうのだ。

本来、トーナメントの「格」は参加選手の層と、そのモチベーションで決まるものだと思う。

例えば全米オープン、日本オープンのナショナルオープンなど名誉を得られるものであること、賞金額が高額であること、強豪選手が多数参加すること。少なくともこの3点を満たさないと、格落ちの評価は避けられないだろう。

世界4大メジャーなら申し分ないかというと、これも時代によりけりで、まず〝メジャー〟と認識されていたかどうか、という問題がある。

全英オープンは、第二次大戦前後では賞金額も低く、隆盛してきていた米ツアーの選手からは遠征する魅力も減っていたため、参加選手層が薄くなっていた。このころ、4大メジャーとしての捉え方、グランドスラムといった考え方はなかったはずだ。

鉄人ベン・ホーガンが1953年に1度参加しただけ(でも優勝)というのも納得できる状況だったし、このタイトルでグランドスラム達成となったはずのバイロン・ネルソンが、34歳の引退までに優勝を渇望するということもなかったわけだ。

元々「グランドスラム」は1930年にボビー・ジョーンズが全米オープン、全米アマ、全英オープン、全英アマという4大ナショナルタイトルを1年間に全勝したことを指したもので、プロの世界の出来事ではなかった。

当時のプロ最強だったウォルター・へーゲンは、全米プロ5勝、全英オープン4勝、全米オープン2勝。マスターズは1934年に「オーガスタナショナル招待」としてスタートし、1939年から名称が変更となったが、40歳を過ぎたへーゲンがメジャーと認識して挑んだとは思えない。

現在の4大メジャーの認識を明確にしたのはアーノルド・パーマーのインタビューでの宣言で、1960年代から。つまり、ジーン・サラゼン、ベン・ホーガンにとっては〝後付け〟のグランドスラム評価だったと言える。

4大メジャーを意識してグランドスラマーとなったのは、ゲーリー・プレーヤーとジャック・ニクラス、そしてタイガー・ウッズだけなのだ。

その意味で〝年間グランドスラムを狙えなかった〟のはパーマーの宣言以降では、昨年が初めて(全英オープン中止)ということになる。

さて、女子のメジャーとなるとさらに複雑化する。米国LPGAが1950年に設立されたが、そこから遡って過去の大会をメジャー認定したものがある。その結果、2大、3大、4大メジャーといった時期がある。

そして現在は、2013年にエビアン選手権が加わった5大メジャーとなっているが、ではグランドスラマーと呼べる選手はいるのだろうか。

カリー・ウェブはナビスコ・ダイナショア、全米女子プロ、全米女子オープン、デュモーリエクラシック、全英女子オープンの5冠を制し、スーパー・グランドスラマーと呼ばれることもあるが、どうもピンと来ない。

現在の5大メジャーでは、2013年に年間3冠を挙げた朴仁妃が、エビアン選手権を獲れば5冠達成となる。「5冠王」の正式な呼び方を、そろそろ考えてもいい時期かもしれない。


Text by Hikaru Togawa
Illustration by リサオ


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