ゴルフの“ルールに精通”とはどのレベルのこと?
重箱の隅、つつかせていただきます|第11回
スイング、ゴルフギア、ルールなどなど……。ゴルフに関わるすべての事柄の“重箱の隅”をゴルフライター・戸川景が、独自の目線でつつかせていただくコラムです。
GOLF TODAY本誌 No.588/70ページより
戸川景
とがわ・ひかる。1965年3月12日生まれ。ゴルフ用具メーカー、ゴルフ誌編集部を経て㈱オオタタキ設立。現在、ライターとしてゴルフのテーマ全般を手掛けている。
“ルールに精通”はどのレベルのこと?
ゴルフルールの記事を書き始めて20年以上になる。ルール解説の単行本も、PGAの競技委員と組んでいくつか書き上げているが、なかなか“ルールに精通している”と胸を張って言うことができない。急な問い合わせに、上手く答えられないことが結構あるからだ。
ルール全般に関しては、プロゴルファーやトップアマよりも詳しいという自負はある。逆に、腕のいい競技者はルール上のトラブルも少ないから、些末なルールの処置を覚えるに至らないのだろう、とも思っている。
もちろん、一般アマもOBや池ポチャの処置など、基本的なものはよく覚えている。だから、わざわざ問い合わせてくるのは、基本から外れたややこしい内容のものが多くなるのだろう。
先日、こういう質問があった。「グリーン上でリプレースした球を打とうとしたら、風で球が動き出した。だがストロークを止めることができず、そのまま打ってしまった。これはマズイと思い、打った球を元の位置に戻して打ち直して、ホールアウト。これ、2ペナでいいんだよね?」
さあ、どこからツッコミを入れようか。
「ナゼ、2ペナ?」
「動いている球を打ったから2罰打で、そのストロークは取り消してやり直し、でしょう?」
「ストローク中に動き出した球は、そのまま打っても無罰。やり直しはナシ、が正解」
「え、するとやり直したら、逆にペナルティ?」
「インプレーの球をマークせずに拾い上げたから1罰打、誤所からのプレーで2罰打」
「じゃ、3ペナ?」
「いや、一連の行為だから合わせて2罰打」
「なにそれ? でも、2ペナでよかったんだ……」
このやり取りで、彼はルールの処置を正しく理解できただろうか。少しイジワルしてみた。
「バックスイング中に球が動き出したんだよね。じゃあ、そこでスイングを止めていたら、どうするのが正しい?」
「……球が止まった所から、無罰で続行かな?」
「いや、グリーン上で1度リプレースした球は理由を問わず元の位置に無罰で戻す。そのまま打つと誤所からのプレーで2罰打」
続いて応用問題。
「これがラフからのアプローチで、バックスイング中に球が動いて少し沈んだとする。そのまま打てば無罰だけど、スイングを途中で止めて打たなかったら?」
「……1罰打でリプレース?」
「答えは2通り。プレーヤーがバックスイングで草を揺らしたとか、明らかに球が動いた原因とわかれば1罰打でリプレース。たまたま突風が吹いて球が動いたなら、無罰で続行が正解。このとき、リプレースしちゃうと2罰打になるから要注意」
「ウーン、ややこしいね」
そう。同じようなプレーでもエリアや状況で処置が変わるから、ルールを複雑に感じるのだ。
さて、私は今回のやり取りでも一点、あやふやに伝えてしまったことがある。“ストローク”とは定義上“球を打つために行われるクラブの前方への動き”。つまり“バックスイング”はストロークではない。あれ? バックスイング中に動き出した球もそのまま打っていい? もちろん、打っていい。無罰だ。
“ルールに精通”と言えるのは、ルールの成り立ちと改定の意味を理解しており、説明や処置を正しく実行できることだろう。たぶん、ルール研究家と呼ばれるレベルだ。私はまだまだ理解にも伝え方にも“漏れ”がある。もう少し、近づけるように頑張ろうと思う。
Text by Hikaru Togawa
Illustration by リサオ