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ゴルフスイング「切り返し」はなぜ難しいのか?

ゴルフリサーチャーTASK【世界のゴルフスイング事情】vol.11

2021/01/27 ゴルフトゥデイ 編集部

国内外で収集したゴルフスイングに関する最先端情報を「Jacobs3D」アンバサダー、ゴルフリサーチャー「タスク」が独自の視点と考察を交えてお届けします!

GOLF TODAY本誌 No.584/124ページより

ゴルフスイングにおける 最重要パート・切り返し

切り返しは、助走ともいえるテークバックからダウンスイングへの流れを繋ぎ、ゴルフクラブの機能として重要な右回りのルーピングが発生する、最も大切な部分といえます。そして、ゴルフのスイングにおいて、最も難しいパートだとも言えるでしょう。では、なぜ難しいのか、考えていきましょう。

PGAツアープロのテークバックから切り返しにかけてのキネマティクス(外観)は、とても個性的です。ですが、デリバリーポジション(以下P6※)以降のクラブヘッドの挙動やキネティクスエネルギーには、ほとんど差がないのです。
※デリバリーポジション(P6)はダウンスイング中のクラブが地面と平行になったところのこと。

つまり、インパクト付近のエネルギー効率とその再現性は、皆同様に確保しているのです。このことから、重要なのは切り返しで重心を管理し、P6をどのようなエネルギーのベクトルでクラブを通過させることができるかだと言い切れます。

約1秒で行われるスイングに「起承転結」があるとすれば切り返し直後は「転」であり、それは「起・承」にあたる始動からバックスイングでクラブに与えてきたエネルギーを正しいベクトルに、わずか0.2秒程度の間で修正変換をしてP6にヘッドを向かわせるプロセスなのです。

テークバックからダウンスイングまでに最も効率的に重心管理をしているのは、タイガーウッズです。クラブの重心が、常に直線的に移動するため、極めて淀みのないクラブヘッドの流れとして観測されます。アマチュアプレーヤーが、このタイガーのような重心管理をできない理由は何でしょうか。

それは切り返し時点でクラブヘッドには一時的に遠心力がかかっておらず、円弧が小さいからです。すなわちヘッドが描く円の中心(曲率中心)はシャフト上のどこかにあり、さらに、その曲率中心はスイング中でプレーヤーの身体の重心に最も近く位置するため、ヘッドは極めて小さなエネルギーでどのようにも動いてしまうのです。

切り返した後、約0.2秒で正しいベクトルでP6にヘッドを通さねばならないのに、切り返し時点でクラブヘッドが自由に動いてしまうことが難しい理由なのです。

よって、アマチュアプレーヤーがゴルフクラブを右回りさせられずに切り返しに向かうと、ダウンスイングのエネルギーベクトルはあっという間に破綻します。

オーソドックスな切り返しではクラブのヘッドは比較的自由に動く。その際にはヘッドが描く円弧の曲率中心は、シャフト上近くに位置しており、曲率半径は最小。

ショートアームと呼ばれるジョン・ラームの切り返しにおける重心の移動は最小。だが、その時点のヘッドが描く円弧の曲率半径は比較的大きく、曲率中心はグリップ付近にあると思われ、かなり抵抗値が高い中で切り返しをしなくてはいけない。

やっぱりお手本にするならタイガー・ウッズということ

切り返しの際、クラブヘッドの円弧を大きく保ったままダウンに向かわせているのはジョン・ラームです。おそらくその曲率中心はグリップ付近であり、テークバックからの遠心力をかけたまま切り返すため、ヘッドが自由に動いてしまうことを制限してベクトル管理を達成していると考えられます。ただし、このタイプは曲率半径が大きい段階で切り返されるため、身体側への抵抗値が極めて大きくなります。

また、個性的な切り返しの代表はマシュー・ウルフでしょう。テークバックの後半から重心を大きく動かし、トルクエネルギーを発生させて飛距離につなげています。

しかし、ここまで大きく重心を移動させるとP6までの間に、遠心力とともに極大化するエネルギーを正しいベクトルに変換していくのは非常に難しくなります。それをマシュー・ウルフは、強靭なフィジカルで封じ切っているのです。

アマチュアプレーヤーは、この両者のように強いフィジカルが要求される切り返しよりも、タイガーウッズのようなオーソドックスな切り返しを目指すほうが合理的かもしれません。

ただ、その場合には少しのエネルギーがベクトルを変えてしまう力学特性を念頭に、テークバックからP6にかけて「マッチアップ」といわれるエネルギーベクトルの修正を最小に保てるようなスイングを目指すべきだと言えます。切り返しについてアーニーエルスは「Just a little drop」と表現していますが、腕を自然落下させる感覚程度のベクトル管理で達成できる切り返しが、アマチュアにとっては理想的と言えるのかもしれません。

タイガー・ウッズの切り返し時のクラブの重心は静かに直線的に移動する。
マシュー・ウルフの切り返し時のクラブの重心は身体の前から後方へ大きく移動する。
ジョン・ラームの切り返し時のクラブの重心移動はほとんどないが身体の重心から遠い。

ゴルフリサーチャー・タスク
国際金融マンからゴルフリサーチャーに転身。米国のゴルフサイエンス団体Jacobs 3D GOLFのアドバイザリーメンバーであり、日本のアンバサダー。USGTF Teaching Professional、TPI Certified資格を所持。


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