【スイングの最重要ポイント】「クラブの重心をコントロールする」ってどーいうこと?
わかりやすい「ゴルフの力学」
本誌連載「世界のゴルフスイング事情」でお馴染み、ゴルフリサーチャーTASKが著した『ゴルフの力学』。発売直後からかんかんがくがくの議論を巻き起こし、ゴルフレッスン界の活性化に一役買っている。反面、アベレージゴルファーが理解するにはハードルが高いのも事実。そこでここではゴルフの力学の要諦をやさしく解説。何をすべきかを明確にする。
監修
松本 協
まつもと・たすく アメリカのゴルフラボ「Jacobs 3Dゴルフ」のアドバイザリーメンバー兼日本で唯一のオフィシャルアンバサダー。USGTFティーチングプロ。現在はMitsuhash iGolf Academyを拠点に活動する。
クラブ主体になるとダウンスイングからインパクトの動きはみんな同じになる。
クラブの特殊な構造がゴルフを難しくしている
クラブは「剛体の力学」に支配される。剛体とは力の作用の下で変形しない、あるいは変形を無視することができる物体のことだ。厳密に言えば、シャフトに柔軟性のあるクラブは完全な剛体ではないが、ここでは単純化して考える。
物体には必ず重心がある。重心を大雑把にいえば剛体の中心。剛体の重さを考慮した時に、その点を支えると全体を支えられるバランスポイントである。
物理的に不規則な形をしたクラブは、重量的にバランスがとれるシャフト上のポイント付近の空中に重心がある。グリップの延長線からはズレた位置に存在する、いわゆる偏重心の物体で、この特殊な構造がスイング、ひいてはゴルフを難しくしている。
しかし、サラッと振るだけで静止したボールを遥か遠くへ飛ばせることもまた事実。それゆえクラブの形状は600年来変わらないわけで、要はゴルフに最も適しているのだ。
この事実を踏まえれば、スイングはクラブが主、体は従と考えるのが合理的。教える側の主観で体の動きを制約されたり、感覚表現に頼った指導の入り込む余地がなくなる。
クラブの重心を管理することがスイングの本質
力を浪費せずクラブの重心を移動し続けると理想的なスイングになる
野球のバッティングでは、ボールがバットの芯に当たるバットコントロールが求められる。そこで自然と行われているのがバットの重心をコントロールすること。スイングも同様で、クラブの重心をコントロールできるとヘッドの芯でボールをとらえられる。スイングとはクラブの重心をコントロールする作業なのだ。
重心をコントロールするということは、クラブの重心を滑らかに移動させながら、プレーヤーが無駄なエネルギーを消費することなく、遠心力とともにボールに最大の運動エネルギーを与えること。
例えば、腰の高さからクラブヘッドをボールに向かわせると労せずに打てる。これはプレーヤーが余計な力を与えないことにより、クラブの重心がボールに向かうエネルギーだけで打てるからだ。
このように、力を浪費することなくクラブの重心を移動し続けられると理想的なスイングになる。正確に言えば、アドレスからハーフウェーダウンまででそれができれば、あとは自動的にヘッドがインパクトへ向かうので、その間、いかに重心をコントロールするかがカギを握る。
グリップを通じて出力されるエネルギーがクラブの動きを決める
スイング時のクラブアクションの全ては、プレーヤーの手がどのような動力をグリップに与えているかで決まる。ゴルファーはグリップを通じてしか、クラブを動かせないからだ。
つまり、我々がグリップを通じて与えたエネルギーに対して、クラブが反応する。その結果がスイングに現れるわけだ。
これまでグリップで出力されるエネルギーの計測は困難だったが、クラブと体の動きのキャプチャリングとロボット工学的解析を組み合わせることにより解明された。
両手とグリップの解析上の接点をハブと呼び、プレーヤーが与える動力の全てはハブに集中する。
しかし、エネルギーの与え方やタイミングは人それぞれ。クラブのスペックも一様ではないから、与えられた動力に対するクラブの反応も千差万別となる。
そのため、スイング中にハブが描く軌跡(ハブパス)はゴルファーの数だけ存在する。いわば指紋のようなもの。スイング作りは自分に最適なハブパスを探す作業だといえる。
ちなみにハブパスの形状は極めて不規則な三次元曲線で、スイングプレーンの解説で目にする整った平面の円ではない。したがって、きれいなプレーンを目指すとスイング作りは遠回りする。
重心をコントロールするとは重心を引き続けること
重心を引くほうが容易に剛体をコントロールできる
クラブの重心コントロールはグリップを「引く」ことでなされ、引くのをやめると管理できない。
雪上では後輪駆動車より前輪駆動車のほうが安定して走れるが、これは進行方向に重心が引かれるから。後輪駆動車は重心を押す形になるので安定しない。このように剛体をコントロールするには重心を引くほうがはるかに容易に意図する方向へ動かせるのだ。
スイングで迷った時には、重心を引っぱり続けていないプロセスがないかを疑うべきだろう。
例えば切り返しからダウンスイングで、グリップエンドを右腰のあたりに引きつけると重心を正しい方向に引けない。
引くことで重心をコントロールできるのは物理の原則だから、剛体のクラブを正しく動かす上で絶対に必要なのだ。
重心を引き続けると 正しい回転運動になる
直線運動エネルギーとスイングの円運動
重心を引くのは直線運動。それだけではスイングが成立しない。だが、クラブヘッドは回転運動している。なぜだろう?
それは、ある円周上で物体を一定速度で運動させるには、円の中心方向へ加速度をかける必要があるからだ。
ヒモを結んだ5円玉をクルクル回す場合、我々はヒモの端を中心方向に向けて引っぱり続けている。円の中心方向に加速度を与え続けることで円運動が継続されるわけだが、それには紐の端を引っぱる直線運動のエネルギーが不可欠になる。
スイングもこれと同じで、グリップエンド方向にクラブを引き続けているからこその回転運動。これによって醸成される遠心力が飛距離の源になる。
グリップに3次元のエネルギーを与え重心をコントロール
プレーヤーがクラブに与える能動的な3次元エネルギーは、3つのフォースと3つのルクが、それぞれ2方向に発する12種類が全てとなる。
与えられたエネルギーが3つの軸方向に出力
プレーヤーはグリップに3次元のエネルギーを加えている。クラブの重心に直接エネルギーを与えるとすると、傾いたシャフトに対して、重心を中心に直角な3次元軸方向に出力される。
プレーヤーが与える直線運動エネルギー「フォース」
クラブの重心を直線上に動かすエネルギーを「フォース」という。フォースはプレーヤーが能動的に与えるエネルギーで、クラブ全体が3次元方向に直線移動する。
プレーヤーが与える回転運動エネルギー「トルク」
プレーヤーがグリップを握った状態で、手首を手のヒラ側、甲側、親指側、小指側に曲げる、あるいはヒジから先を左右に回すとクラブが回転する。この回転運動をトルクと呼ぶ。トルクはプレーヤーが能動的に与える回転運動エネルギーである。
偏重心構造がもたらすクラブ特有の回転運動「ローテーション」
グリップを持つ以上ローテーションは必ず発生する
重心付近を握るとかなり自在にクラブをコントロールできるが、実際にはプレーヤーは重心から離れたところを握る。これによりクラブには複雑な力学的作用がもたらされる。
例えばプレーヤーがβ軸に沿ってグリップを30センチ直線移動させるフォースをかけても、重心は10センチも直線移動しない。そればかりかクラブは重心を中心に回転する。
このように、フォースをかけた結果、二次的に生じる回転運動をローテーションと呼ぶ。グリップを持つ以上ローテーションは必ず発生する。とりわけα、β軸方向へのフォースによって派生するローテーションは、クラブの挙動に大きな影響を与える場合が多く、ゴルフを難しくする一因となる。
クラブはプレーヤーがグリップに与える能動的なエネルギーのフォースとトルクで動くが、スイング中のトルクはフォースで発生したローテーションを抑えるためにかけられることが多い。
クラブ視点から見たスイングのテーマ
1
テークバックでは効率的に重心を管理=不必要なローテーションをトルクによって相殺する。
2
切り返し以降はクラブを引き続けてフォースのベクトルを管理。補助的な動作が必要なほどエネルギー効率は低下する。
3
ダウンスイング以降は継続的にクラブを引いてフォースの最大化を図る。
4
偏重心のゴルフクラブは右回りするのが基本。正しく扱えば必ずシャローアウトする。
解析を受けた多くの選手が結果を出してくれるものと期待しています
活動の拠点とさせていただいているMGA(MITSUHASHI GOLF ACADEMY)では、三觜喜一プロのコーチを受けている女子プロたちのスイング作りに貢献できました。ツアーやプロテストをはじめ、コロナ禍のせいで、その成果を披露する場が奪われているのが残念でなりませんが、『日本女子オープン』予選をトップ通過した幡野夏生プロなど、スイングの見た目がガラッと変わった選手もいます。そう時を待たずして、多くのプレーヤーがさまざまなフィールドで結果を出してくれるものと期待しています。
MGAは8月にリニューアルされ、徐々にではありますが。アマチュアの方にも予約制でジェイコブス3Dによる解析が受けられるようになってきています。また、YouTubeでも配信をはじめましたので、そちらも覗いてみてください。
アメリカではさまざまな分野でゴルフサイエンスの研究が進んでいますが、そのぶんジェイコブス3Dのように新しい分野は進展が遅くなりがちです。
それに比べると日本では進展が早く、その点はマイケル・ジェイコブスも大いに注目しています。本国からさらなる協力を得て、プロアマ問わず一人でも多くのゴルファーが自身にフィットしたスイングに出会えるよう、これからも頑張っていきたいと思います。
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撮影トーナメント/ZOZOチャンピオンシップ
GOLF TODAY本誌 No.580 64〜72ページより