ドライバー選びにも役立つ。飛距離アップに欠かせない要素「反発性能」のアレコレ
深読み! ギアカタログ|今回のテーマ【反発性能】
ゴルフはプレーヤーの技術だけでなく、使っている道具の良し悪し、そして選び方が結果を大きく左右するスポーツだ。この連載では、そのゴルフギアについて深く深〜く「深読み」した話を紹介していく。今回は「反発性能」について深読みする。
GOLF TODAY本誌 No.583/140〜141ページより
反発係数の値が注目されたのは約20年前から
飛距離の3要素と言えば「ボール初速」「打ち出し角」「スピン量」だが、これらのパフォーマンスアップに関して、20世紀までは主にクラブの重量やレングス(長さ)、ヘッドの重心設計で開発が進められていた。だが、1995年にキャロウェイの『グレートビッグバーサ』が登場し、チタンヘッドが普及すると、各メーカーのヘッドによる飛距離性能の差が目立つようになってきた。
同じヘッドスピードでも、弾きが違う、ボール初速が変わる──。各メーカーの開発者は反発性能の違いに気づき始め、研究を進めていた。これを明確に市場に打ち出したのが2001年のキャロウェイ『ERC』だった。セイコーの『Sヤード』を研究し、フェースの薄さと反発性能に着目。この違いが飛距離性能を変えることをアピールしたのだ。結果、21世紀初頭は高反発ドライバーがブームに。「反発係数」の大小がユーザーの間でも語られるようになり、カタログにも掲載された。
実は「反発性能」については、パーシモンヘッドの時代から考えられてはいた。たとえば日本ダンロップは、フェースインサートとボールの固有振動数を合わせる「インピーダンス理論」を提唱したこともあったし、本間ゴルフは『プランサー』というメタルインサートの反発力を打ち出したこともあった。だが、それらは既存のモデルを大きく超える性能を発揮できず、廃れてしまった。ところがチタンヘッドは、その中空構造と大型化から打点エリアも広がり、反発性能の違いが明確になっていた。違いが出にくい芯の当たりでも10ヤード前後変わるとなれば、開発にも力が入る。
結果、その開発競争に危機感を感じたR&AとUSGAにより、ルール規制が行われ、2008年より施行。現在に至る。そのため、今どきのカタログからは「反発係数」の数値は消え、反発性能はルール適合内の上限を目指して仕上がっているものが大勢を占めている。ルール不適合の高反発を謳うモデルも根強く残ってはいるが。
ヘッドがたわむと反発が上がる
「反発性能」向上は、いかにボールの変形量を抑えつつ、フェースとの接着時間を延ばすかがポイント。現在はフェースだけでなく、ヘッド全体のたわみも考えて計算されている。
打点ごとに反発を変えて拡大するスイートエリア
ルールでは「ペンデュラムテストプロトコル」に定められた上限を超える「スプリング効果」を持ってはならない、と規定されているが、数値としても反発係数ではなく、特性時間(CT)が239+許容誤差18=257マイクロセコンド(μs)以下で適合となる。簡易な計測法もなく、数値もよくわからないだろう。適合か不適合かはメーカーがR&Aに提出したもののリストで判断するしかない。
さて、ルール規制で数値的には頭打ちとなった「反発性能」だが、現在もクラブのやさしさの進化には貢献し続けている。スイートスポットを外すとエネルギー伝達効率が落ち、飛距離も方向性も損なわれるはず。だが、前回解説した「慣性モーメント」とともに、打点ごとの「反発性能」を高めることで、そのエネルギーロスを削減することができるのだ。各メーカーもその方向で開発を進め、現在ではフェース面単体ではなく、ヘッド全体で「反発性能」の向上に取り組んでいる。
「反発性能」向上の基本は、エネルギーロスにつながる2つのポイントの改善にある。1つは、インパクト時のボールの変形量を抑えること。もう1つは、インパクト時のボールとの接触時間を延ばすことだ。分かりやすいイメージとしては、ボールが当たってフェースがトランポリンのようにたわめば、ボールの変形量は少なくなる。ただし、フェースの復元が遅れると、接触時間は短くなってしまう。だから、薄くて復元力のある鍛造チタンなどがフェースに採用されるのだ。
もともと構造的に「慣性モーメント」を大きくできないアイアンのほうが、「反発性能」でスイートエリアを広げられる可能性は大きい。近年のボックスキャビティ、アンダーカットキャビティ構造などは、深重心化だけでなく、フェース下寄りの「反発性能」を上げることにもつながっている。フェースの薄肉部をより下方向に広げることで、薄めの当たりに強くなっているのだ。ユニークなのは、テーラーメイドの『SIM』。ヘッド自体ではルール不適合なレベルまで高反発に仕上げ、最後にジェルを流し込んで適合値まで下げている。これならルール上限ギリギリを狙えるという。
このような反発性能を〝下げる〟技術を応用すれば、アイアンでは飛距離のバラツキをさらに抑えられるかもしれない。たとえばオフセンターヒットがスイートスポットの当たりの90%の飛距離の場合、その差は10%だが、あえてスイートスポットの反発力を抑えて飛距離を95%にしたら、差は約5%に縮まるからだ。
文/戸川 景