XXIO|読めないブランドを生み出した502号室に集まった7人の侍
商品開発はドラマ!!!|今だから言える驚きのストーリー[第3回]
ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話をメーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はゼクシオが主役のストーリー。
GOLF TODAY本誌 No.586/69ページより
開発コードネームは「Cブレーク」神戸本社502号室でそれはスタートした!
開発コードネームは 「Cブレーク」 神戸本社502号室で それはスタートした!
「XXIO」は知らない人は読めない、英単語の文字列である。特許庁の検索ページで商標を調べてみると、「XXIOゼクシオ」で登録されている。最初の出願は1999年7月29日、商品発売2000年2月1日に遡ること半年前である。出願された商標は呼称として「ゼクシオ」と英文をそのまま読む「エックスエックスアイオオ」の2つが出されている。ある意味、最初から読めないことも想定した確信犯のブランド名である。発売から20年のこの意味不明のネーミング「XXIO」が、誰でも読める日本のゴルフの大ブランドになった。このブランドがどのようにして生まれたか、当時の若手社員でスポーツ企画部の企画を担当し、現在㈱ダンロップスポーツマーケッテイングの専務取締役ゴルフ事業部長の木越浩文氏の話を交えながら、開発のドラマを紐解いていく。
1998年当時、住友ゴム工業(ダンロップ)のゴルフ事業の売上の半分以上は、輸入販売代理店契約を結んでいたキャロウェイゴルフのクラブであった。その金額は100億円以上。その契約が、1999年をもって終結するとの話が持ち上がっていた。社内では、これだけ売っている販売力があるので、契約は継続するとの楽観論もあったが、1998年に社内では契約解除を前提に極秘でプロジェクトチームがつくられた。
プロジェクトのメンバーはキャロウェイとの契約がなくなれば、売上が半分になり、人員も要らなくなり、ひょっとしたらゴルフ事業、スポーツ事業が潰れるのではないかと、必死の思いを共有していた。その事務局を担当したのが木越氏であった。
プロジェクトチームにチーム名はなかった。開発、企画、営業部門を中心に7名のメンバーであった。この7人の侍を中心に、キャロウェイに対抗できるクラブの商品企画・開発をすすめていった。開発商品コードネームは「Cブレ―ク」。キャロウェイをブレークするという意思が込められていた。プロジェクトは神戸本社の502号会議室で週1回程度行われた。この502号室はいろいろなことが起こった会議室で、社内では「The502号室」と良くも悪くもそれなりのイメージのある部屋であった。
ネーミングは専門会社に依頼200件のリストから“21世紀の王者“を選択
モノの開発と並行して、ブランドのネーミングの検討は1988年の春ごろから始まっていた。「Cブレーク」というコードネームで行こうとの議論もあったが、ネーミングに関しては絶対に失敗できないとの思いで、「DoCoMo」「au」などの実績のあるネーミング会社、㈱ジザイズ(ZYXYZ Inc.)に依頼することになった。
木越氏は、上司と2人で大阪の中津にあるホテルのロビーで最初にミーティングした記憶が、鮮明に残っている。およそ2カ月後に200件くらいの候補のリストが提案された。自然から派生したイメージなどタイプ別にネーミングがあった。当時は紙でのやり取りで、残念ながらそのリストは残っていない。先方とのやり取りや社内で議論があり、30程度に絞り込み、さらに最終的には5つに絞り込んだ。
その中で、「グラン〇〇」などが記憶に残っているが、「XXIOエクセシオ」もあった。商標チェックをすると呼称の「エクセシオ」が他社の商標に引っかかることが分かった。ただ文字列の「XXIO」には商標の問題がなかった。この綴りで行こうと社内は固まっていった。それは、この文字の込められた、XXI:21世紀、O:王者=XXIO:21世紀の王者たれというメッセージである。ただ、1999年10月のプレスリリースではXXI:ローマ数字の21(=新世紀)、O:ONのOで~に向けて突き進むの意、であると対外的には少しマイルドに表現されている。
あとは読み方である。社内ではどうせ読めないなら、力強いイメージがある濁音を交えた読み方を考えた。木越氏が当時結婚情報誌の「ZEXYゼクシィ」からイメージで、XXで「ゼ」くらい読めるでしょうと「ゼクシオ」にたどり着いた。商標も問題なく、ネーミング会社とも協議し、「ゼクシオ」で決まった。
それでも、木越氏は「読めないとの不安はずっとあった。」という。トップを含めて社内稟議があり、当時の企画部長から決まったとの連絡があったのは1998年の年末頃であった。新しいブランドの誕生である。木越氏の読めないのではないかとの不安は、XXIOが発売されると払拭された。苦境に立っているダンロップを応援しようとの販売店が、一生懸命に名前を覚えてくれたのである。初代は販売本数が30万本を超えるヒット商品となり、ブランドが定着した。
木越氏に、最後に、現在累計販売本数2200万本を超え大成功しているXXIOのブランドへの思いを聞くと、XXIOのことを考えると今でも「苦しい」と意外な答えが返ってきた。会社の屋台骨を支えるブランドとして、XXIOは初代から売れなければならない宿命を背負っていた。常にプレシャーをかかえてきた。これからのXXIOはどうなるか。「苦しさ」は続くのかもしれない。
取材・文/嶋崎平人