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スリクソンZX5|日米の共同開発で松山英樹の進化を超えたクラブに結実!

商品開発はドラマ!!!|今だから言える驚きのストーリー[第7回]

2021/08/05 ゴルフサプリ編集部

ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話をメーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はスリクソンZX5が主役のストーリー。

GOLF TODAY本誌 No.590/68ページより

ドライバーもアイアン同様にスクエアに構えられることが第1条件だった

松山英樹がマスターズ優勝という快挙を成し遂げた時の使用ドライバーとして、スリクソンZX5は今後も日本のゴルフ史に名前が残るクラブとなった。

ドライバーもアイアン同様にスクエアに構えられることが第1条件だった

2021年のマスターズは松山英樹が日本人男子として初めてメジャー大会を制した大会として、永遠に語り継がれることは間違いない。それもゴルファーなら誰もが憧れるマスターズである。この優勝を多くの関係者が喜んだことは想像に難くない。

その中でも、松山とゴルフ用品契約を結んでいる住友ゴム工業の喜びはひとしおであろう。松山英樹がマスターズで優勝したときに握っていたドライバーは住友ゴム工業の「スリクソンZX5」のプロトタイプである。

市販品との違いはほとんどなく、フェースの色がシルバーであること、ヘッドのクラウンとフェースの境目のトウの研磨と塗装のラインへのこだわりがあるだけで、基本的形状は同じである。

優勝後のインタビューで優勝を決めた最終日のベストショットは? との問いに「18番のティショット」と振り返っている。ZX5でのティショットである。

2020年までは他社のドライバーを使用していたので、もし契約外のドライバーを使ってのメジャー制覇であれば、用品契約先としてうれしい反面、複雑な心境となったであろう。

しかし、使っていたのは自社のスリクソンであった。ここに至るまでの経緯を松山のクラブについて詳しい、住友ゴム工業・広報部の浅妻課長に伺った。浅妻課長は現在広報担当であるが、クラブのデザイナー業務にも従事したことがあり、松山のクラブの変遷について熟知されている。

松山英樹は中学生の頃からスリクソンユーザー。2008年発売の体積425㎤の小ぶりなヘッドのドライバー、「スリクソンZR30」ロフト8・5度を使っていた。

松山のこだわりは「シャフトからフェースにかけて真っすぐに見えるクラブが絶対条件です。要するにアイアンの見え方です。ドライバーもアイアンと同じイメージであることが重要で、ベースはスクエアに構えられるアイアンであること」

松山は中学生の頃からスリクソンを使っていて、2008年発売の小ぶりで体積425㎤の中弾頭のドライバー、「スリクソンZR30」ロフト8.5度を愛用していたが、ヘッドが壊れたことで海外メーカーのクラブを使うようになった。

米国のデザイナーが外観をデザインしてこれまで培ってきた性能とを結実させて完成へ

松山はPGAツアーでも、アイアンのショットメーカーとして知られている。ルーツはアイアンへのこだわりにあった。

さらに、2011年にアマチュアとしてマスターズに出場しローアマを獲得したが、自分に足りない部分を認識し、技術とクラブへのこだわりが強くなった。それはヘッドの塗装にも表れていて、フェースのラインが決まる塗装位置を決めるマスキングは最初、自分でやっていた。

現在はダンロッププロ担当の宮野敏一氏がその部分を担当している。「ZR30」は2016年の日本オープンでの勝利にも貢献していた。ただ、このエースドライバーが長年の使用で、ヘッドが割れてしまい、それ以降、松山に合うドライバーを提供できず、他社品を使用する状況が続いていた。住友ゴム工業としても、それを黙って見過ごしていたわけではない。

米国にプロ担当の駐在員もおり、松山が2020年10月に今回の「ZX5」を使用するまでの4年間は、機会あるごとに100本以上のクラブをテストし、フォローしていた。

シャフトからネックの見え方のこだわりが分かっていたが、松山の中では他社のテーラーメイドやキャロウェイを使っていても「スリクソンが一番でなければならない。同じものでは嫌で、スリクソンでピタッと来るものを待っている」との姿勢だった。

スリクソンは2014年Z45、16年Z65、18年Z85シリーズを発表していた。インタビューさせていただいた浅妻氏は、以前商品企画本部デザイン企画グループのこのクラブのデザイン担当であった。スリクソンのZ85シリーズまでは、日本主体でデザインしていた。Z85シリーズは2019年全英オープンでシェーン・ローリーが使用して優勝している。グローバルで通用するデザインを社内で把握していたが、今回のZXシリーズは2007年に住友ゴム工業が買収した米国のロジャー・クリーブランドゴルフが外観をデザインした。

米国ツアーで戦っている松山が使っていた他社のクラブは米国メーカー。今回のスリクソンが米国主体でデザインしたことが、米国で戦う松山に響いた。2020年の2月頃に初めてZXの外観が出来上がったときに松山に見せに行ったときに「かっこいいじゃないですか」の一言。見せるだけのつもりであったが、「すぐに打ちます」と実打もした。第一印象が良く、テストでよく飛んでいた。形にこだわり、アメリカで戦う松山にとって、米国デザインがしっくりきた瞬間である。マスターズ優勝の1年2カ月前である。

住友ゴム工業がクリーブランドを買収して、共同でデザインを進めたとき、当初はお互いに相手を気遣い過ぎたのか、思うようなデザインが出来なかった。その壁が取り払われ、日本のスリクソンと米国のクリーブランドが一体となって出来上がったのが今回のZXシリーズである。合併の効果が結実したといってよいだろうか。

松山がPGAツアーで揉まれ進化しているなかで、メーカーとして先回りした開発を進めたからこそ松山の要望に応えることが出来た。これからも、松山の進化を超えるクラブを提供し続けることが出来るか、メーカーとしての真価が問われる。

住友ゴム工業の広報部の浅妻課長は現在広報担当であるが、経歴としてクラブのデザイナー業務にも従事。2014年Z45、2016年Z65、2018年Z85シリーズも手がけてきた。松山のクラブの変遷について熟知している。


取材・文/嶋崎平人


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