ゴルフクラブの「バランス」について考える
深読み! ギアカタログ|今回のテーマ【バランス】
ゴルフはプレーヤーの技術だけでなく、使っている道具の良し悪し、そして選び方が結果を大きく左右するスポーツだ。この連載では、そのゴルフギアについて深く深〜く「深読み」した話を紹介していく。今回は「バランス」について深読みする。
GOLF TODAY本誌 No.586/134〜135ページより
シャフト重量が変化しないのが前提の数値化
ゴルフクラブのバランス=スイングウェイトの考え方を、ロバート・アダムスが発明してから約1世紀が経った。長さの違う道具の振り心地、重さ感をそろえるというのが目的であり、実際にクラブ製造に生かしたのは当時最大のクラブメーカーだったケネススミス社。長さの異なるクラブの製造管理の目安として採用したのが始まりだ。基本的に、長さが長いものはヘッドを軽く、短いものは重くすると振り心地は近づくように感じる。その数値化ということで、クラブを制作する側としては重宝したわけだ。
特にアイアンセットは、番手ごとに半インチ刻みで長さが変わる設定とした際に、ヘッド重量は約7gずつ変えることになるが、ロフトの大きい番手ほどフェースが大きくなるぶん、重くなることと整合性が取れて良かったのだと思う。ただし、振り心地をそろえるといっても木製のヒッコリーシャフトではかなりアバウトだったはずだ。重量は200g前後、トルクは非常に大きく、個体差もスチールよりはるかに大きかった。だが、1930年代に130g前後のスチールシャフトの登場により、重量管理がしやすくなり、バランスはスペック基準の1つとなった。
当初、革巻きグリップの先端があった14インチを支点としたバランス計からスタートしたが、それをケネススミス社がウッドとアイアンで少し異なる数値で合わせる12インチ支点の改良版を開発。1950年代に初めて日本に入ってきたのはこのタイプで、1990年ごろまで使われていた。現在は、14インチ計で統一されているが、このことからもわかるように、バランス計の支点に科学的根拠はない。さらに言えば、シャフト重量がカーボン(ウッド)とスチール(アイアン)で50gも違えば、バランス数値を合わせてもまったく振り心地は変わってしまう。シャフトが軽くなればバランス数値も軽くなり、それを補おうとヘッドを重くしたり、レングスを伸ばしたりすると、数値以上の重さ感と振りづらさを感じるようになるのが通常だ。
14インチ支点の『ロリスミック計』で計測が現代の主流
以前は、国内では12インチ支点の計測器が主流だったが1990年以降は14インチ支点の『ロリスミック計』に。近年は重りの移動式から、バネ式やデジタル計測式に進化している。
ヘッドタイプでシャフト別に考えるのが正解
では、現代のバランス数値はどう扱うのがベターなのか。各番手をシャフト別でくくり、考えるのが有効だと思う。この考え方は古くからある。スチールシャフト全盛だった50年前でも、ウッド用はチップ径が細く、ヘッドに入る部分も長かったため、アイアン用とは挙動も特性も別モノだった。そのため、バランスもウッドとアイアンは別で設定されていた。12インチ計はそのギャップを埋めるために表示を分けていたわけだ。
さて、現在ではドライバー、FW、UT、アイアン、ウェッジすべてに同モデル同重量のシャフトを装着していることは少ない。となれば、ヘッドタイプごとの同一シャフトでのみ、バランスをそろえるのが妥当だろう。
問題は、たとえばFWとアイアンの振り心地をそろえるためにはどうするか、ということだが、ここはバランスではなく「総重量」で考えるだけでいいのではないだろうか。グリップ、シャフト、ヘッドの重量全体で、短いほど重く、長いほど軽くするという程度で十分。
アイアンは同じように振りたいからそろえる、ドライバーはさらに振りやすさを追求したい、というように分けて考えれば、バランスはレングスに合わせた各パーツの重量配分の目安に生かせばいいだけだ。ただ、難しいのは同じパーツ重量でも振り心地が変わるケースが結構多い、ということ。たとえばヘッドの重心距離が違ったり、シャフト単体のバランスポイントが異なると、振った時の重さ感はまったく違ってくる。クラブ全体の慣性モーメントをそろえる、という考え方もあるが、それでも振り心地には違いが生じてしまうのだ。
そこで改めて、どの程度、振り心地をそろえたいのか、と考えてみてほしい。飛ばしたいドライバーと、コントロールしたいウェッジの振り心地を、どうそろえたいというのか。
人間はグリップを短く持っても打てるように、振りやすさに対してはかなり許容範囲がある。プロがヘッドに鉛を貼る重量調整も、大半はバランスではなくヘッドの挙動を変えるため。だからトウ寄りやヒール寄りに貼るのだ。
文/戸川 景