ゴルフクラブの「バルジ&ロール」について考える
深読み! ギアカタログ|今回のテーマ【バルジ&ロール】
ゴルフはプレーヤーの技術だけでなく、使っている道具の良し悪し、そして選び方が結果を大きく左右するスポーツだ。この連載では、そのゴルフギアについて深く深〜く「深読み」した話を紹介していく。今回は「バルジ&ロール」について深読みする。
GOLF TODAY本誌 No.587/134〜135ページより
打面を平らにしなかった理由はへこみ対策だった
およそ球を打つターゲットゲームの道具で、打面を意図的にフラット(平ら)にしないのは、ゴルフくらいだろう。
アイアンは平らだが、ウッドにはフェースがふくらむようなアール(丸み)がつけられている。トゥからヒールへの左右方向は「バルジ」、フェースの上下方向は「ロール」と呼ばれており、設計段階から数値化されている。
テニスや卓球のように、打面は平らなほうが打球をコントロールしやすいはず。ウッドも、羽毛を牛革に詰めたフェザリーボールを打っていたころは平らだった。
ところが19世紀半ばに、ゴム製の硬いガッティボールに移行すると、フェースが打球の衝撃でへこんだり傷んだりするようになった。そこでフェースの中央を突き出すように、ふくらみを持たせるようになったのが、事の始まり。
ガッティは傷つくとキャリーが伸びるようになったことから、ディンプルの発想が生まれた。同時に、フェースには丸みをつけたほうがコントロール性は上がることも次第にわかってきた。
フェースの上下左右のラウンド(丸み)は大型ヘッドでは減少
ウッドのフェースの左右方向のラウンドを「バルジ」、上下方向のラウンドを「ロール」と呼ぶ。大型ヘッドはMOIがアップし、ラウンドは減ってフラットに近づく傾向にある。
打点の芯(スイートスポット)を外すと、いわゆる〝ギア効果〟が働く。
打球のスピンと空力で弾道は曲がるが、適度なバルジとロールが打点ごとの打球のスピン軸やスピン量を調整し、ターゲットエリアに〝効率よく戻す〟ことがわかり、意図的に調整されるようになったのだ。
打点ごとのギア効果は、ヘッドの重心深度と、ヘッドMOI(慣性モーメント)によって変わってくる。約40年前に主流となった中空構造メタルウッドでは、重心が浅く、MOIもパーシモンより格段に大きくなったために、ギア効果が薄れたため、フェースのラウンド(丸み)自体が減る傾向となった。
その後、重心深度が深いキャロウェイのメタル『ビッグバーサ』でギア効果が復活。後のチタンヘッドでも、バルジとロールは活用されるようになった。その代表的なモデルはブリヂストン『プロ230チタンエイト』。8インチ径のバルジを採用、飛距離性能で大ヒットとなった。
ヘッド軌道とフェースターンのズレを吸収する
さて、最新のドライバーではバルジとロールの考え方はどう進化したのだろうか。
ヘッドサイズは460㎤、ヘッドMOIは5900g・㎠までにルール規制されるようになったが、こうなるとスイートスポットを少し外した程度では、バルジのギア効果によるサイドスピンは期待できない。
フェース向きがオープンなら右に、クローズなら左にほぼストレートな弾道で飛んでいくミスが増えるようになっている。
またロールの場合、上下の打点を生かして打ち出しの高低を調整することには役立つと思うが、実際には打点ごとの弾道のバラツキを増やしてしまうだけ。すでにほとんどなくなる傾向にある。
となれば、スイング技術はスクエアヒットを目指し、フェースはシンプルに平らにするのが正解のようだが、テーラーメイドは新しい発想を投入してきた。2018年に発表した「ツイストフェース」がそれだ。
常にスクエアヒットを前提としたマシン試打と、ヒューマン試打ではオフセンターヒットでの弾道が異なることに着目。つまり、人間が打つと、トゥヒット時にはフェースはスクエアではなく、すでにフェースがかぶり気味になって当たっているケースが多いという。
そのトゥ寄り打点のフェース向きを〝少し上向き+少し外向き〟にしてあれば、打ち出し方向、弾道高さのブレを軽減できるはず。ヒールヒットはその逆で、フェースが開き気味であるから、ヒール寄り打点のフェース向きは〝少し下向き+少し内向き〟に設定すればいい。
結果、トゥ上からヒール下にかけて斜めのラウンドがついた「ツイストフェース」となるのだ。
実際のラウンド自体は見た目ではわからないほど微妙であり、ロフトがあるためにさらに判別しにくいが、ツアープロの評価は上々。確実に効果を発揮しているようだ。
スイングが円運動であり、シャフト軸線がヘッド重心から外れている限り、ヘッドターンは抑え切れない。その動きに馴染むフェース面の形状は、ヘッドの進化とともに、さらなる変化を遂げる可能性がある。
文/戸川 景