ゴルフクラブの「重心深度」について考える
深読み! ギアカタログ|今回のテーマ【重心深度】
ゴルフはプレーヤーの技術だけでなく、使っている道具の良し悪し、そして選び方が結果を大きく左右するスポーツだ。この連載では、そのゴルフギアについて深く深〜く「深読み」した話を紹介していく。今回は「重心深度」について深読みする。
GOLF TODAY本誌 No.588/136〜137ページより
木製ヘッドは、重心が深いほど寛容性アップに
クラブヘッドを構造的にやさしくする手段として、おそらく最初に考えられたのが「重心深度」だろう。
羽毛を牛革に詰めたフェザリーボールを打っていたころは、クラブもホッケースティックのようにヘッドは細長かった。だが、フルスイングしてキャリーで飛距離を出すようになると、徐々にヘッドがボリューミーになってくる。
19世紀半ばにゴム製のガッティボールに移行するころには、板切れのようなアイアンヘッドと、私たちがよく知っているパーシモンライクなウッドヘッドが主流となった。おそらく、パターでもブレード型よりマレット型、ウッドならうりざね顔より丸顔というように、フェースからヘッド後方に大きく膨らんだ形状のほうがやさしい、と気づいた職人がいたのだろう。
ヘッドに鉛を埋め込んで重くしたり、ソールプレートを取り付けて丈夫にしたりする工夫の中で、ヘッド後方に「バックメタル」という重量物を取り付けたモデルが登場するようになる。
ヘッドの重心が打点(フェース)から後方へ深く離れるほど、スイートエリアは広がる。また、重心角も大きくなるため、つかまりやすくなり、打球も上がりやすくなる。これを、ヘッド形状に頼らずに特化した「バックメタル」は、まさに深重心設計のはしりと言える。
ちなみに、パーシモンヘッドはネックが太くて重く、設計自由度も低かったが、耐久性を上げるためのパーツであるソールプレートやフェースインサート、埋め込み鉛での重量調整で重心位置の適正化を図っていた。たとえばFWはソールプレートを重いブラス(真鍮)にして低重心化していた。
そういった中、必要ではないはずのパーツ「バックメタル」で深重心化を目指したのは、寛容性向上に対する重心設計の重要性に気づいていたからだろう。だが、1980年代後半にウッドヘッドが中空構造のメタルに移行したことで、深重心化と寛容性アップはほぼ無関係になっていく。周辺重量配分による慣性モーメントアップが重視されるようになっていった。
重心深度の測定方法は2通り ①スイートスポットから ②リーディングエッジから
ヘッド重心からフェースまでの垂線の長さが「重心深度」。これは全クラブ共通だが、アイアン以外ではリーディングエッジからソールに沿って重心までの距離を測る場合もある。
寛容性ではなくつかまり具合の基準と考える
重心深度が非常に浅いアイアンでもキャビティバックでスイートエリアを広げたように、メタルの中空構造はウッドヘッドのスイートエリアの概念を変えた。
ヘッドのMOI(慣性モーメント)が向上したことで、打点のズレによるギヤ効果が減り、打球の直進性がアップ。インパクト時のフェース向きを適正に戻せることと、打球の打ち出し角とスピン量を調整することが重心設計では重要になった。
つまり、重心深度は重心距離とのバランスを取ることで、フェース向きが適正に戻るよう設計されるようになっていったのだ。
現在、ウッドヘッドは460㎤、ヘッドMOIは5900g・㎠までにルールで規制されるようになっているが、数値の上限に近づくほどネック軸回りMOIも大きくなりがちだ。すると、フェース向きが戻り切らずつかまりが悪くなる。つかまりを良くする手法としては重心距離を短くしてネック軸回りMOIを下げるか、重心深度を深くして重心角を大きくするのが基本。
だが、現在の主流はヘッドサイズがほぼ最大値の460㎤のモデルばかりなので、重心距離も38〜41ミリに収まっており、ネック軸回りMOIも大きいものがほとんど。
となると、逆に重心の深さ=重心角の大きさ=つかまり具合とシンプルに捉えることができる。数年前までは打球の低スピン化で飛距離アップを目指すための浅重心設計が人気になることもあったが、極端なつかまりの悪さからフェードアウト。現在は適正なつかまりを生む、浅すぎず深すぎない重心設計が求められている。ちなみに、重心深度の数値はフェースと重心の距離で表されているが、重心角はFP(フェースプログレッション)も大きく影響する。オンセットのウッドとは異なり、オフセット(グースネック)のアイアンやUTはシャフト軸線からの重心の深さをチェックする必要がある。
特に、飛距離性能とつかまり具合のバランスを求められるFWとUTは、重心深度のバリエーションが豊富だ。自分のスイングタイプに合うものを探してほしい。
文/戸川 景