第2のAI革命が導いた最速|Callaway EPIC|ギアモノ語り
〜キャロウェイのAIがフェースの次に開発したカタチ〜
はじめてキャロウェイがAIを使ってフェースを開発したのが、2年前の『エピックフラッシュ』。今年の新『エピック』ではフェースだけでなく、『エピック』の象徴的なテクノロジーをAIが設計。それが最速のスピードにつながった。
GOLF TODAY本誌 No.586 97〜101ページより
2つのAI設計が浅重心をやさしくした
「コロナ禍でもキャロウェイのAIは動いていました」
そう語るのは、キャロウェイゴルフの開発部門で指揮を執るアラン・ホックネル氏。今回、リモート形式で取材に応じてくれたアラン氏は、新『エピック』について、新しいAIの使い方があったと語る。
「今まではAIをフェースの構造において最大初速や耐久性を追求する設計に使ってきましたが、今回はフェースと同時にジェイルブレイク(2本の柱)の部分も一緒に設計する新しい試みをしました」
ジェイルブレイクは近年のキャロウェイドライバーにおける象徴的なテクノロジー。2本の柱には、ボールスピードを上げる効果があり、『エピックフラッシュ』や『マーベリック』は他メーカーのドライバーと比べてもボールスピードは№1だと言われていた。その部分をAIが設計したことで、2本の柱がフレーム型に生まれ変わったのだ。
「2本の柱があることで、インパクト時の縦方向のたわみが抑えられて、フェースが最大限に反発するようになっていました。しかし、インパクトの瞬間には横方向のたわみもあります。それを抑えたのが今回のフレームです。フレーム型になったことで、横方向へのたわみも抑えられて、約27%もねじれに対する剛性が高くなっています」
たわみ、ねじれを抑える効果を上げたことでボールスピードはさらに速くなる。しかし、フレーム型のメリットはそれだけではない。
「フレーム部分を見てもらうと、実は今までのような円柱構造ではなくなった分、フェースに近い部分に配置できるようになりました。その分だけインパクトエネルギーを近くで受け止めれるようになったことも、たわみを抑えることにつながっています」
フレームがフェースに近くなったことで、ヘッドは浅重心になった。
2本の柱をAI設計がフレームに変えた
「フレーム部分は約8グラムあって、前作までのジェイルブレイクよりも約2グラム重くなっています。それがフェースの近い部分にあるので、特に『エピックスピード』は浅重心設計になっていますね」
今までは、浅重心=難しいというのが定説だった。しかし、日本でマーケティングディレクターを務める寺門氏に話を聞くと、新『エピック』はそれを覆していると語る。
「浅重心だとインパクトでロフトが立って当たりやすいので、ボールスピードは上がりやすいのですが、ロフトが立ってしまうことでボールが上がりにくいと感じるゴルファーもいました。一方、深重心だとインパクトでロフトが少し寝る傾向があるので打球は上がりやすく、慣性モーメントも大きくなるのでミスヒットにも強い。だから深重心はやさしい、浅重心は難しいという印象が強いと思います。しかし、キャロウエイはAI設計によってミスヒットしても初速が落ちにくいフェースをすでに持っています。だから、浅重心のデメリットがない。フレーム型になったことで、やさしさもスピードも向上しているのです」
進化したのはAIの部分だけではない。アラン氏に話を聞くと、もう一つ、ボールスピードアップにつながった要素があると語った。
「それはフェースの熱処理です。高強度のチタンフェースに熱処理を加えることで、耐久性が高くなって、フェースを薄くすることが可能になる。だから、熱処理がボールスピードアップに驚くべき効果があることはわかっていました。キャロウエイでは4、5年前から熱処理を使っていましたが、今回はさらにアップグレードした熱処理を施したことで、フェース裏側の薄い部分と厚い部分の差を強調することで広いエリアでボールスピードを上げることに成功しました」
アップグレードした熱処理を市販品に搭載したのは、新『エピック』が初めてだと言う。
「今まではツアープロやドラコン選手用のヘッドで試していた熱処理を、今回はじめて市販モデルに採用することができました。この熱処理に関しては、AIというよりもキャロウェイの開発チームがやってきた王道のスタイルです」
熱処理の進化は、3モデルの個性を明確に分けることにもつながった。
前作までの2本柱より、さらにフェースに近い!
熱処理に秘めた可能性と、3つの個性
3タイプのヘッドがある21年モデルの新『エピック』。そのラインナップについてアラン氏は、
「前作よりも3タイプの個性を明確に分けて、よりフィッティングを受けた方にベストな1本を選べるようにしています。飛距離性能を優先して、ヘッドスピードを高めることを追求したのがサイクロンヘッドシェイプの『エピックスピード』。慣性モーメントを高くしてミスヒットに強くなっているのが『エピックマックス』。そして、『サブゼロ』に代わる新しいカテゴリーが『エピックマックスLS』です。最近はプロでも大きめのヘッドを好むようになり、超ロースピンというよりは“ややスピンが少なめ”を好むようになってきた。それに対応したのが『エピックマックスLS』です」
前ページで語っていた熱処理の進化も、3タイプの個性につながっている。
「例えば『エピックマックス』では打点のバラツキが大きいゴルファーを想定していて、『エピックマックスLS』は打点が安定しているゴルファーが低スピンで初速を最大にできるAIフェースになっています。それぞれのフェース形状に応じた熱処理をすることで、より肉厚の強弱がついてモデル別のターゲットに合ったパフォーマンスを発揮してくれます」
この熱処理には、まだまだ秘めた可能性があるそうだ。
「フェースの設計に応じて理想的な熱処理の時間、温度は違っていて、すごくデリケートな部分。いわば熱処理はAIフェースのパフォーマンスを上げる最後のエッセンスになっていて、まだまだ性能を高める可能性を秘めている部分として開発を進めています」
タングステンの大増量で名器を再現
もう一つ、キャロウェイの21年モデルで注目なのが『APEX』だ。米国ではアイアン部門で人気№1を誇る『APEX』だが、2年振りとなる新作では鍛造アイアンで初めてAIフェースを採用しただけでなく、タングステンの量を2倍以上にして大幅な改良を加えていた。アラン氏にその狙いを聞くと、
「タングステン増量には2つの利点があります。まずはタングステンの重さで重心を下げてミスヒットに強くしたこと。特に下側ヒットのミスに寛容になっています。もう一つは、左右にタングステンをわけることでミスヒットしたときでもヘッドがブレにくい。その結果として初速が落ちにくい効果があります」
前作から2倍以上もタングステンを増やしたことについては?
「アイアンはヘッドが小さいので、それくらいタングステンを増やさないと重心位置を変えられない。タングステンは素材としてすごくコストがかかるのですが、間違いなく効果があることがわかったのでトライしました」
タングステンによる低重心化について寺門氏は、
「昔、キャロウェイでは名器と言われた『X14』などはネックがなくてシャフトのホーゼル部分が貫通していたアイアンがありました(スルーボア構造)。それはネックの重さがないことで重心が低く、センター付近になっていたのです。今回の『APEX』はタングステンを大幅に増やしたことでネックがあっても、『X14』に近い重心になっています」
コストをかけてでも優れたアイアンを作る。それはAIへの投資を続ける『エピック』ドライバーでも同じであり、“明らかに優れていて、その違いを楽しめる”というキャロウェイの開発理念を継承しているとも言えるだろう。
※ドライバーの『エピックマックスLS』、アイアンの『APEXプロ』はCALLAWAYSELECTEDSTORE限定発売。
Alan Hocknell アラン・ホックネル
キャロウェイゴルフ
R&D担当 上席副社長
2月中旬にリモート取材に応じてくれたアラン氏。1998年にキャロウェイゴルフに入社して、2009年から開発部門R&Dを統括する上席副社長を務めている。
Hiroki Terakado 寺門広樹
キャロウェイゴルフ
マーケティング プロダクトマネジメント スポーツマーケティング ディレクター
「日本のゴルファーには伝統的な形状を好むので、今回の3モデルでは『エピックスピード』の顔が好きな人は多いです。今年から契約したジョン・ラーム選手も『エピックスピード』のプロトタイプを使っています」(寺門)