ゴルフクラブの「レングス」について考える
深読み! ギアカタログ|今回のテーマ【レングス】
ゴルフはプレーヤーの技術だけでなく、使っている道具の良し悪し、そして選び方が結果を大きく左右するスポーツだ。この連載では、そのゴルフギアについて深く深〜く「深読み」した話を紹介していく。今回は「レングス」について深読みする。
GOLF TODAY本誌 No.592/124〜125ページより
メーカーごとに計測方法が違っている
クラブのレングス(長さ)は、グリップエンドからシャフトに沿ってソール面に届くところまでを測る。問題は“ソール面の定義”の難しさだ。
ヒールエンドが曖昧になる過程で「60度測定法」に
クラブのレングス(長さ)表記の数値が同じでも、メーカーによって実測値には違いがある、ということをご存じだろうか。
海外メーカーと国内メーカーの違い、というわけでもない。たとえばキャロウェイとテーラーメイドでも、半インチくらいの違いがある。
実は、レングスの計測方法は大きく2つの流れがある。「ヒールエンド測定法」と「60度測定法」だ。
「ヒールエンド測定法」の歴史は古く、ヒッコリーシャフト時代には存在していた。グリップエンドの端から、クラブヘッドのヒールの角、つまりヒールエンドまでの長さを測る方法だ。メタルウッドの初期までは、この方法が唯一だった。
ところが、メタルヘッドの大型化に伴い、ソールが極端に丸みを帯び、ヒールエンドが曖昧になってきた。現在の大型チタンヘッドも、同様の流れにある。
そんな中、2004年にルール上でレングスを規制する際の基準として「60度測定法」が正式に採用された。具体的な計測方法は、クラブを水平面に置き、ソールを角度60度の面に当てて行われる。クラブの長さは「二つの面の交差点からグリップの上端までの距離」と定義された。
丸みのあるソール面では、どこがボトム(最下点)となるかもわかりづらい。そこでシャフトと60度をなす面にソールをあてがった状態を目安にしようというわけだ。
ドライバーからウェッジまでのライ角は55~65度にほぼ収まるので、60度は中間的な値とはいえる。だが、アイアンだけを取り上げると、明らかに番手ごとにソールのボトムと60度の面とは接点がズレる。「ヒールエンド測定法」を用いて半インチ刻みでセットを揃えてきたメーカーとしては、このズレを受け入れられないのではないだろうか。
そこでJGGA(日本ゴルフ用品協会)は、独自に「シャフト軸線とヘッド正面から見たソールラインとの交点から、グリップキャップラインまでの長さ」を測定基準に推奨している。だが、海外メーカーはもちろん、国内メーカーもすべてこれに準じているわけではない。合理的だが、世界基準ではないのだ。
ルールで認められているのは「60度測定法」のみ
ソールのボトム(最下点)を決めるうえではシンプルだが、ライ角次第では従来の「ヒールエンド測定法」との差が大きくなる。
ユーザーが注意すべきはモデルごとの違い
問題は、計測方法の違いにより、実際にメーカーやモデルごとで実測値が異なってしまうことだ。基本的に「60度測定法」もJGGAの測定法も、「ヒールエンド測定法」より長い距離を測る。その結果、ソールの丸いドライバーでは半インチ、1㎝以上もの違いが生じてしまうのだ。
「ヒールエンド測定法」で47・5インチでも、「60度測定法」では48インチを超えてルール不適合、ということにもなりかねない。
アイアンのことを考えると、JGGAの測定法がベターな気もするが、キャロウェイの「S2H2」ホーゼルのようにヒールが極端に切り上がっているモデルなどはどうするのか。ちなみにミズノは、設計ライ角に設定したプレートにソールを合わせ、そこから8分の3インチ上をヒールエンドとして計測している……もはや、複雑すぎてわかりにくい。やはり「60度測定法」に統一すべきなのかもしれない。
ともかく、現状としては各メーカーが独自基準で計測していることを踏まえ、あらためてユーザー自身で計測することをオススメする。そうしないと、クラブを買い替える際に表示された長さを鵜呑みにして、半インチも違うものを手にすることになりかねないからだ。
単純に、ショップなどで長さを比較するだけなら、グリップエンドを地面につけて並べ、ソール位置を比較するだけでもいい。どちらが長いか、一目でわかる。
もうひとつ、気をつけてほしいのは、クラブ工房などでのリシャフトだ。工房ごとにレングスの計測方法も変わってくる。また、方法は同じでも、グリップ装着前のシャフトエンドで測定し、グリップキャップの厚みぶん、長く仕上げるクラフトマンもいる。
グリップキャップの厚みは、5ミリ前後。4分の1インチ弱なので、シャフトエンドで37インチに仕上げたうえで、キャップの厚みぶんを足して「37・25インチ」と表記しているメーカーもある。
リシャフトするなら数値で指定せず、まず「元の長さ」を計測して、同じにするのか意図的に変えるのかを指示するようにすべきだろう。
ライ角が気になるアイアンの測定法は?
アイアンは「60度測定法」ではライ角がフラットな番手ほど、従来の「ヒールエンド測定法」より短く仕上がる。それを嫌う各メーカーやJGGAは独自案を打ち出している。
キャップラインとグリップエンドの違い
JGGAでは、グリップエンドのふくらみ部分を含めない、キャップラインまでの長さで計測することを推奨。合理的というが、この微妙な差は考慮する必要があるのだろうか。
文/戸川 景 イラスト/Mercury