【東京五輪ゴルフ特集】OLYMPIC GAMES TOKYO 2020|一打の重み
ゴルフの価値
賞金のかかった世界のプロツアーと違い、オリンピックのゴルフは国の代表としての名誉を背負っての戦い。おのずと同じゴルフのプレーをしていても1打の重みも価値も違ってくる。
「私が今日ここにいることは、とても幸運なことです。私はただ感謝しています。ここにいられることに。そして、スロバキアを代表してこの場に立ち、国旗が掲揚されるのを見て、とても誇りに思いました」とローリー・サバティーニ。
ゴルフ通のなかには彼が南アフリカ出身のプロとしてPGAツアーでも活躍したことを知っている方もいるだろう。サバティーニがスロバキア代表になったのには理由がある。「妻がスロバキア人で、そのいとこがスロバキアのゴルフ協会の副会長だったことがきっかけで、2019年に国籍をスロバギアに移したのさ。目的は次世代のゴルファーの育成と、オリンピアン生み出すため。まだスロバキアには代表となるゴルファーがいないんだ。アイスホッケーや他のスポーツと比べて、それほど人気がないからね。でもこれでジュニアゴルファーには関心をもってもらえるかもしれないよ」
最終日に驚異的な追い上げで銀メダルを獲得したが、実はとても調子が悪かったと打ち明けていた。「妻がキャデバッグを担いでくれていて、同じ組の台湾のC.T.パンも彼の妻が担いでいて、私のグループはとてもリラックスした環境でした。それが良かったのだと思います。正直いうと好スコアは期待していなかったのですが、10アンダーというアグレッシブなゴルフができて幸運でした。これでスロバキアでももっとゴルフに興味を持ってもらえるとうれしいよ」と笑顔のコメント。 オリンピックのゴルフだからこそ出場できたし、そこで結果を残したことはスロバキアのゴルフにとっては大きな一歩を踏み出したといえる。
「アメリカにおける評価をいえば、7月14日以降にアメリカで発進された五輪関連の英語の記事は5000本を超えており、これはとんでもない数字です。実際に出場したマキロイやポール・ケイシー、トミー・フリートウッドやジャスティン・トーマスらが、自分たちの経験したことを赤裸々に語っており、コロナ感染防止対策によって、日本への入国や滞在がどんなふうにどのくらい大変だったかなども語っているため、出場しなかった選手たちもファンも、東京五輪を身近に感じることができている。
選手が語りたがるということは、彼らがいい経験、貴重な経験をしたと感じている証だと思うので、五輪ゴルフの雰囲気や楽しさ、興奮が世界へ広められていくことは、この五輪ゴルフが成功を見たと言っていいと私は思います。
また「アメリカや日本では、すでにゴルフはビッグなスポーツですが、まだそれほど盛んではない国にとっては、この五輪ゴルフは大きな意味があったと思います。台湾のC.T.パンがメダルを獲ったこと、メキシコのロペスが開会式でフラッグを持って行進したこと、インドのヤングレディの奮闘も、インドにおけるゴルフの認識を高めるはずです。
マキロイのコメントにも表れていたように、3位(銅メダル)をかけて全力を尽くすということからも、五輪は特別な力を持っていると思う。また、順位に対する選手たちの情熱のかけかた、モチベーションの高さは、通常の試合に比べて五輪のほうが圧倒的に強く、高いと感じられた。しかも、それが「賞金のため」ではないところが、また大きな違いだ(マーク)。「五輪らしい配慮なのかな」と思ったのが、表彰式でのリハーサルのこと。表彰台の位置、カメラマンの配置、選手入場の場所などを確認するのは普通のトーナメントと変わりないですが、国旗掲揚のリハーサルがあるんです。その国旗掲揚で使われる国旗が、失礼な言い方かもしれませんがマイナーな国の国旗なんです。女子ゴルフでいえば、優勝候補はアメリカ代表ですが、トップ選手の国の国旗を使用してのリハーサルはちょっと…という配慮なんだろうと思います。これは五輪っぽいなと思いました(田辺)。
ゴルフのトーナメントは世界中で見られるものですが、それはゴルフファンが見るものだと思うんです。でも、五輪ではスポーツファンが見てくれる。もっと言えば、スポーツファンではない人も見てくれる可能性があって、そういう意味では数々あるスポーツと肩を並べて、ゴルフも見てもらえるということはものすごく意味があると思います。すぐに効果が生まれるとは言えないですけれど、ジワジワと「ゴルフってかっこいいね。面白いね」というふうに伝わる機会としては、絶好の機会だと思います。
後進国やマイナースポーツという位置付けの国に、ゴルフをアピールすることができるのが、五輪という舞台だということですよね。五輪ではゴルフがマイナーな国でも、中継されて、取り上げられますものね。それに、五輪ではゴルフ後進国の選手も参加できます。それがモチベーションになって、より頑張るようにもなる。こうした色々なことを生み出すのが五輪の力だと思います。
オリンピックならではの光景となった。なんと3位の銅メダルをかけての7人のプレーオフ。プロツアーでは優勝のためのプレーオフはあるが、3位を争うのは初めての経験。そのなかには我らが日本代表の松山英樹、アイルランド代表ローリー・マキロイなど世界のトップランカーも。他にはアメリカ代表のコリン・モリカワ、イギリス代表のポール・ケーシー、コロンビア代表のセバスチャン・ムニョス、チリ代表のミト・ペレイラ、そして最終的にメダルを獲得した台湾代表のC.T.パンの7人。7人の選手はホールアウトの早い順に第1組に4人、第2組に3人で分けられた。プレーオフ1ホール目は18番・パー4、次に10番・パー3。そして3ホール目も18番・パー4、4ホール目は10番・パー3と交互にホールを変えて行われた。松山とポール・ケーシーは、ともにパーセーブできず1ホール目で脱落。3ホール目ではローリー・マキロイが脱落。次ホールは5人でプレーオフを進めた。最後(4ホール目)は、コリンとC.T.パンの一騎打ちで、パンが最終的に銅メダリストになった。
Men's Round July29-August1~初めてのプレーオフ~
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