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乗用カートの上座下座にガッチガチにこだわりすぎると、逆に気遣いができないゴルファーだと思われる

ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第28回

2023/09/04 ゴルフサプリ編集部 篠原嗣典

ゴルフ場の乗用カートと夕日

ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。

撮影/篠原嗣典

キャディバッグの位置のスコア占いには必勝法がある

例えば、4人でゴルフをするとして、乗用カートには4つのキャディバッグが積まれています。
左から、1番目と数えて4番目までの位置で、その日のゴルフを占う、という人がいます。朝一番の運試しです。

3番目の位置がラッキーという人もいれば、1番目のときがスコアが良いという人もいます。
根拠があるわけではなく、その位置だったときに、ベストスコアが出たり、良いことがあったりしたというような個人的な思い入れに過ぎない他愛のない占いごっこです。
ゴルファーは弱い生き物で、そんな不確かなことにでもすがりたいのです。一緒になって占うのも良し。もしくは、黙って見守るのがゴルファーとしての粋というものです。

「バカだね。1番目が上座だから、1番目が一番に決まっているんだよ」
と一笑する野暮なオールドゴルファーがいます。それを言っちゃお終いよ、です。

キャディバッグの位置に、上座があるのは事実です。
乗用カートの場合は、1番左の位置が、右利きのゴルファーの場合、クラブの出し入れがしやすいという理由で上座になります。接待する相手が左利きであれば、左端の4番目の位置が上座になります。

キャディー付きの歩きのゴルフのときは、電動カートの中央の2つの位置が上座だという考え方もありました。キャディーの目の前にあることと、端っこは下座に繋がるという考え方があるからです。

ビジネスマナーの奥義のような世界の話になると、企業によって違いがあったり、関西と関東では違ったり、ということも多々ありました。
当事者は大変だったと思いますが、文化として観察すると非常に面白かったのです。

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昭和の時代には、朝、キャディマスター室前で、自分たちの関連する組のバッグの積み込みを手伝いながら
「この人は、右。こっちは、左ね」
と順番を指示している名幹事みたいな人がいたものです。
基本の上座下座をベースに、臨機応変に対応する手腕に感心したものです。

令和の時代でも、コースでバッグの順番を決定して、それを変更できないということはありません。
この位置が好き、ということがあれば、積み込むときにカートの所に行って、自分のバッグをここにしてください、とお願いすれば可能ですし、積み込んだ後であっても、自分で位置を変えても問題はありません。

キャディバッグの位置でスコア占いをするゴルファーに、ラッキーを演出してあげることも出来ます。インチキかもしれませんが、ある意味で、必勝法なのです。

ちなみに、僕は1番左の位置が好きなので、余程のことがない限り、その位置でゴルフをしています。

本当にあったゴルフの上座下座の真実

上座と下座のマナーは、様々なシーンで、令和になっても有効だったりします。
一度覚えれば、応用も何もなく、楽と言えば、これほど楽なことはないですし、マニュアル的に盲信しやすいところも受け入れやすいのです。

しかし、ゴルフの上座と下座は混迷を極めています。
社用族がゴルフの主役だった時代ですら、企業やエリアで違いがあったのですから、社用族が少数派になった現在では、判断基準がより曖昧になってしまっても不思議なことではありません。

ビジネスマナーの席次の上座下座は、室内の場合は、出入り口に一番近い席が下座、遠い席が上座です。
ゴルフコースのレストランでは、どうなるのでしょうか?

同じように考える人もいます。4人掛けテーブルの場合、出入り口から見て、一番奥が上座、一番手前が下座、上座から見て左側が、3番目
さて、このように着席した場合、多くのコースでは、上座は大きな窓を背に座ることになります。
クラブハウスのレストランは、眺望を楽しめるように一面が天井から床まである大きな窓ガラスになっていたりします。だから、眺望が楽しめる席を上座とする考え方もあるのです。

また、ホールスタッフが控えているのは、その窓の反対側です。定番の下座に座っている人がスタッフを呼ぶには、振り返る必要がありますが、窓を背に座っている人のほうが、スタッフを呼びやすいという現実もあります。下座の役目は、この位置のほうがやりやすいのです。

さらに、先に着席した場合に、座っている位置が後から来た人にわかりやすいのも窓を背にした席です。

心配りはゴルファーとしての基本ですから、新しい上座下座の席次が個人的には正しいと思っていますが……
「そんな屁理屈に意味はない。伝統的な上座下座で良い」
と叱られたことがありました。

そういう面倒臭い偉い人とゴルフに行くときは、先着しても席に行かずに、僕はレストランの入り口で、待つことにしています。そして、さり気なく、偉い人が自分で座りたいところに座ったのを確認して、対応した下座に座るようにしています。

基本的には、ゴルフコースでも上座下座にこだわって、叱るような人とは、一緒にゴルフをしない。というのが、令和ゴルファーの流儀かもしれません。

上座下座よりも優先すべきことがゴルフにはある

乗用カートが現在のように、ほとんどのコースにある時代が来るなんて、昭和の頃には想像も出来ませんでした。
「歩けなくなったら、ゴルフをやめる」
そんな暴言を吐いていた若き自分に、タイムマシーンで過去に戻って、説教したいです。乗用カートのお陰で、ゴルファーの寿命は確実に延びていますし、新しいゴルファーを生みやすくなったというプラスもあります。

乗用カートでも、車の席次の上座下座を常識なのだと押しつけるオールドゴルファーがいます。
ハッキリと断言しますが、これは大間違いです。

乗用カートのマナーがあるとすれば、それは、『臨機応変』なのです。

最もダメで、オジさんな雰囲気で、気遣いができないことを遠くからでも見せてしまうのが、座る位置が固定されているパターンです。

運転するカートは、免許証を持っているなどの条件があることもありますから、運転者は固定でもやむを得ないケースがありますが、それ以外の座席は固定してはダメなのです。
例えば、後部座席の左側にAさんが座っているとします。カート道路はフェアウエイの右サイドです。ボールを打った同伴者Bさんがカートに戻ってきたときに、Aさんがスッと右側の座席に移動すれば、Bさんはスムーズにカートに乗れます。
しかし、Aさんが、そのままの位置に座っていたら…Bさんはカートの後方に回り込んで、右側から座席に座らなければなりません。

「そんな些細なことを」と、馬鹿にするヤツが馬鹿なのです。
塵も積もれば山となる。数秒のロスが、1ホールで数回あれば、ハーフで20回ぐらいになります。合計すれば、秒ではなく、分の単位のロスになるのです。

ゴルフというゲームの本質は、いかに少ない数字でプレーするかを競うものです。
こういう細かい数字に大雑把な人は、このゲームには向かないことが多いのです。努力しても、成果が出ない、という悩みを持っている人には、こういうような無駄を減らす概念が弱い傾向があります。

いずれにしても、スロープレーに繋がる行為は、多くの人に迷惑を掛けます。
上座下座などは、その問題の前では、どうでも良いことですし、『臨機応変』とは対極にある悪習に成り下がるのです。

ビジネスシーンなどのTPOで、上座下座のマナーは不可欠です。
いくつかの条件を覚えれば、簡単に実行できるので、全てを否定するよりは、行うが易、だと考えます。

色々と考えてきましたが、そもそも、ゴルフシーンでは、上座下座みたいなものは要らないはずなのです。
コースに出てしまえば、全てのゴルファーは平等で、上下関係のような下界の柵は忘れるのがゴルフの神髄だからです。

心配りと気遣いという他者への配慮で、ゴルフは成り立っています。
上座下座などのようにマニュアルではなく、自然な立ち振る舞いが、ゴルファー同士の良好な関係を作っていくのです。

突き詰めるほどに、ゴルフには上座下座よりも優先すべき大切なことがたくさんあります。
全ては、ゴルフを楽しくプレーするための工夫だと考えれば良いのだと思います。
ゴルフはゴルファーを成長させるゲームですが、進化していくほど、心配りと気遣いのレベルアップがあって、魅力的なゴルファーが完成していくのです。

単なる球打ちとは違うことを立ち振る舞いで証明できるところが、ゴルフの素晴らしい特徴の一つです。
堂々と自分のレベルを誇るような立ち振る舞いができれば、それこそが、上座なゴルフになることは間違いありません。

篠原嗣典

篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。


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