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2人のゴルファーが取っ組み合いのケンカでバンカー内に転がり込んだ…“大人の砂場”での決闘の行方

ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第27回

2023/07/29 ゴルフサプリ編集部 篠原嗣典

バンカー ゴルフボール

ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。

撮影/篠原嗣典

ゴルフデートすると別れるって本当?

「そう言えば、最近、あの二人を見かけないねぇ」
ほぼ毎週通っているゴルフコースで、月に2回ぐらいは目にしていた若い男女の組のことが話題になりました。
どちらも高身長で、見栄えのするカップルで、二人の関係を正確には知りませんでしたが、なんとなく恋人同士なのだろうと思っていました。
1回だけ、ちょっとしたことを注意したことをきっかけに、顔を合わせれば会釈をするようになっていました。超初心者だったのが、徐々にゴルファーらしくなっていく様子も見守っていたのです。

気が付いてみると、昨年を最後に、今年に入ってからは彼らを見ていません。
ゴルフデートをした恋人は別れるという説を思いだしました。

昔から言われているディズニーランドに行ったカップルは別れるという説と同じです。単純に、多くの恋人は別れるだけのことです。
永遠に同じ人同士で恋人の関係を続けられるというのは、夢の世界の話で、確率で考えれば、宝くじが大当たりするぐらい稀なことです。

もちろん、ゴルフデートがきっかけで、化けの皮が剥がれて、別れる日が早まった、という例はたくさんあります。
先日も、そういう悲しみ中にいる若者を励ましたのです。
「相手の我慢できない弱点を早く知れて、良かったんだよ。先延ばしして、良い思い出が増えたほうが、別れが辛くなるから」

二人の絆が強ければ、ゴルフの魔力をもっても、別れたりはしない例もたくさんあります。
令和のゴルフブームで、妻が復活ゴルファーになった、という話はたくさん耳にしますが、その中で、実にさり気なく、長くゴルフをやってきた夫がひっそりとゴルフをやめてしまうというパターンが出てきています。
「同じティーからやって、連続してグロス(ハンディなしのスコア)で女房に負けたらさ。ゴルフクラブ見るのも嫌になっちゃったよ。あぁ、もういいや、ってね」

夫婦の機微は他人にはわからないものです。
オトコの幼稚ともいえるプライドが、ゴルフをやめることで守られるという悲喜劇です。

夫婦歴が長いほど、一緒にゴルフデートしたことが原因で離婚になるケースは少なくなります。ゴルフを通して見える本性は、すでに、知り尽くしているからです。
恋人同士なら、別れる原因になる弱点も、相手をより嫌いになるマイナスにはなっても、少しぐらいの嫌いが増量しても、夫婦にとっては微々たるものです。

「あの二人は、別のコースをホームコースにして、ワンランク上のゴルフライフを楽しんでいるはずだよ」
消えてしまった若いカップルゴルファーについて、僕は自信満々に言い切りました。
もし、別れてしまっても、あれほど真剣に取り組んでいたゴルフまでやめるわけない、と信じたかったから、強いて楽観的な希望を口にしたのです。

コースのスタッフとそんな話をしていましたが、少し離れた練習グリーンで、二組のカップルが楽しそうにしながら、パッティングを教え合っていました。
別れがあれば、出会いもあるのです。令和のゴルフブームは、まだ、始まったばかりです。

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大人の砂場の決闘には掟がある

ゴルフはコミュニケーションツールだと書いたことに、抗議をして来た人がいました。
ゴルフのせいで、人間関係がおかしくなった、というのです。

コミュニケーションツールは、諸刃の剣です。使い方次第では、自らを傷つけてしまうこともあります。
ゴルフは、言動だけではなく、立ち振る舞いでも、語り合えてしまいます。小手先のマニュアル対応など、無意味で、むしろ、マイナスになってしまうことも多いのです。

僕がまだ10代の頃の話です。あるコンペでのこと。
一緒にプレーしていた40歳少し前の大先輩二人とその後輩に僕という4人組でした。
大先輩の一人が、パー3のホールでグリーン手前にあるバンカーに1打目を入れました。この大先輩は、バンカーが苦手で有名でした。
案の定、2打目、3打目、打ってもバンカーから出ません。ドスッ、という砂を叩く音が何回かして、気まずさと、緊張感が漂いました。

「11。12。はい、次、13打目ね」
バンカーの脇に立っていたもう一人の大先輩が、打つのに合わせて、いきなり言い始めたのです。

バンカーの中で真っ赤な顔になった大先輩は、持っていたウェッジをバンカー内に叩きつけて、怒鳴りました。
「次は、12打だよ」
外からもう一人の大先輩が笑顔で言ったのです。
「いやいや、ちゃんと指を折って数えていたから間違いない。早く打てよ」

ウェッジを放り投げて、バンカーから大先輩が猛ダッシュで出たのと、もう一人の先輩が手にしていたパターをグリーンサイドに投げるのが、同時に見えました。

大人同士が殴り合って、取っ組み合って、バンカー内に転がり込むのを生まれて初めて見ました。
「やめてください!」と泣き叫ぶキャディーさんの声に振り返ると、先輩たちの後輩は、グリーン上から「まあまあ、お二人とも」と呆れた感じで声を出していました。

「お前ら! 何やっているんだ!」
後ろの組を回っていた会長というあだ名の50代のリーダー格が、ティーから駆けつけて、二人を引き剥がしました。僕は、ただただ、ビビって、足が動きませんでした。

「経緯はあとから聞くけど。まずは、両者。右手を出せ」
会長が言うと、二人の大先輩は、肩で息をしながら双方に右手を出しました。会長はその手を握手させて、言ったのです。
「はい。ごめんなさい、って言え」
大先輩たちは、子供みたいにお互いに、頭を下げて、ゴメン、と言い合ったのです。

「バカヤロウが。子供じゃねぇんだぞ」
会長は、捨て台詞を残して、ティーに戻っていきました。
信じられないことに、その後、何もなかったように、僕らは、ゴルフを普通にしたのです。

あとから会長から聞いたのですが、大先輩二人は、幼稚園から高校まで同じ幼なじみで、大親友。どっちらも、頭に血が上りやすく、手も早いから、こういうことは日常茶飯事だというのです。思いっ切り殴り合って、スッキリして後腐れなし、なのだそうです。

「でもな。この件からお前さんが学ぶのは、ゴルフの喧嘩では、道具を投げたときがゴングってことよ。男の喧嘩は素手でする、ってのは、掟だからな」

19歳の夏の大事件でした。ちなみに、その後、5年間で、二人の喧嘩を僕は4回ほど、目の前で見て、4回目のときは、仲裁して、握手でごめんなさい、という儀式を取り仕切ったのでした。

人間関係は、ときには、鉄よりも固く、ときには、ガラスのように壊れやすいものです。
ゴルフは、人間を剥き出しにする側面がありますから、抵抗しても無駄で、その関係を大事にしたければ、素直にわかりやすく行動するしかないのかもしれません。

ゴルフのコミュニケーションの失敗は、見栄や嘘を見抜かれたときに、誤魔化したり、逃げようとするからだと、僕は過去の経験から強く思うのです。

ゴルフは本性を剥き出しにする悪魔のゲーム

ゴルフで剥き出しにされる本性の代表は、意地悪な性格でしょうか。

「右はOBが近いですよ」
「これを入れれば、パーですね」
当事者からすれば、親切なつもりの応援かもしれませんが、言われたほうは、余計な力が入ったり、集中力を削がれたりしてしまうことも多々あるわけです。

負けず嫌いなんかも、わかりやすく露呈します。
人としての器の大小も出やすいものです。
せっかちだったり、マイペースだったりも、最高と最悪の極端な形で明白になります。

根っからの性格は直せませんが、自分に置き換えて、やられて嫌なものはしない、ということを徹底すれば、不愉快なゴルファーだと嫌われることは避けられます。
これに気がつけるかどうかで、ゴルフが、自分を貶める悪魔のゲームになるかのボーダーラインになるのだと思います。

ゴルフは、人間関係を強固にもすれば、ぶち壊しもします。

相手を知らなければ、オーソドックス+くそ真面目に、失礼がない大人しいゴルフをすれば無難です。

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僕は10代から20代までは、競技ゴルファーでしたので、原則としては、大人しく自分の世界に閉じこもるようなゴルフを得意としていましたし、同伴者を言い訳にしないことを良しとして、気にしないような訓練もしていました。
今考えると、ゴルフが上手いだけで、つまらない人間だという評価をされることも多かった気がします。

気の置けないゴルフ仲間と、互いのミスショットでも爆笑し合えるゴルフを楽しめるようになったのは、40歳を過ぎてからかもしれません。
相手を知った上で、自分のことも知ってもらっているから、可能になる関係性は、ゴルフを通して、より強くなったことは間違いありません。

若い頃は、嫌な思いをすることを恐れて、一緒にゴルフをした相手の本性が剥き出しになるようなシーンを嫌っていました。
最近は、年を重ねて、図々しくなったからなのか。ゴルフコースで、無邪気に、本性を剥き出しにしているゴルファーたちを受け入れる自分を楽しめるようになりました。

勝っているときには想像もできなかった本性が、負けたときには出てしまったり、失敗が続くと無意識に、自己中心的な振る舞いをしてしまったり、つまりは、人間としての弱さが悪い本性の正体といえるようです。

人生は選択の連続で構成されているという考え方があります。
年をとれば、選択肢の数は減っていきますが、選択することは上手になります。自分の弱さがわかっているから、それを避けるように選択するのは、セオリーであり、知恵です。

ゴルフも、間違いなく選択をし続けるゲームです。
人生と違うところは、自分の弱さから逃げる選択肢が用意されていないことです。それどころか、複数の選択肢が、常に、自分の弱さと対峙するものだったりします。

自分の弱さを知り、正面から向き合う先に、ゴルフの神髄があるような気がします。
たくさんのゴルファーとの出逢いと別れを繰り返しながら、僕らはそこへ辿り着こうとしているのです。

篠原嗣典

篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。


ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】

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