キャスコが生み出した世界初のソリッド4ピースボール「ROCKETS」がド級のロケットスタートを切った背景
【第31回】商品開発はドラマ!多層コアの先駆け!キャスコが生み出した世界初のソリッド4ピース
ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話を、メーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はROCKETS(ロケッツ)(キャスコ)が主役のストーリー。
GOLF TODAY本誌 No.614/70〜71ページより
写真/ゴルフトゥデイ編集部 取材・文/嶋崎平人
「新発想」「新素材」「新技術」「新構造」で他社にないものを、というキャスコ企業理念理念のもとボール開発をスタート!
1997年4月にキャスコが世に送り出した、世界初の〝ソリッド4ピースボール〟「ROCKETS(ロケッツ)」
世界初の〝ソリッド4ピースボール〟を生み出したのは、ブリヂストンでも、ダンロップでも、タイトリストでも、キャロウェイでもなく、キャスコ株式会社である。
1997年4月1日に発売された「ROCKETS(ロケッツ)」がそれだ。
この画期的な4ピースボールがどのように生み出されたか、当時若手として開発の中心にいた、キャスコ株式会社開発・企画部ボール開発グループボール開発係係長・福井康弘氏にお話を伺った。
ロケッツの開発の中心にいた、キャスコ株式会社 開発・企画部ボール開発グループボール開発係係長・福井康弘氏
キャスコは1959年に創業し、高級ドレス手袋の製造を始めた。その後、ゴルフ用手袋に進出し、OEMを中心に業績を伸ばす中、自社ブランドでのビジネス展開を考え、1982年に岡山のゴルフボールメーカー、ファーイースト社を買収。
自社ブランドのゴルフ用品であるゴルフボールの開発・製造・販売をスタートさせた。
1983年にゴルフボール志度工場を落成させ、最初の自社開発の2ピースボール「RS-1」を発売。
当時契約していた杉原輝雄プロの「硬いボールが飛ぶ」とのアドバイスから、カチカチのボールであったとか。
その後、「新発想」「新素材」「新技術」「新構造」で他社にないものをというキャスコの企業理念のもと、1986年に世界初の2層コアソリッド3ピースボール「DC432」を発売した。
DCはデュアルコアの意味で、この2層コアの開発、製造方法を含めて開発陣は相当苦労したという。そのかいもあり、2層コアの「DC432」を杉原プロが試打すると、今まで使用していた2ピースより、「軟らかい打感ではるかに飛ぶ」と高評価。
すぐさま試合でも使用する一方で、市場でも高評価が続き、ピーク時は月50万個を販売する人気ぶりでキャスコの業績を支えた。
ボール開発の苦難
1988年に入社した福井氏はボール開発グループに配属された。しかし、ここからいきなり世界初のソリッド4ピースの開発が始まったわけではない「DC432」はヒットしたが、カバーには硬いサーリンカバーを使用しており、一部のプロを除きスピン性能を満足させるものではなかった。
「DC432は止まらないね」とのプロ・上級者の声に応えるべく、設備投資も行い糸巻ボールの開発・製造に着手した。とはいえ後発メーカーであり、当時圧倒的品質を誇っていたダンロップの「ロイヤルマックスフライ」やタイトリストの「プロフェッショナル」に対抗できるものを開発するのは厳しかった。
それでも1991年には糸巻ボール「WX432」を製造・発売。開発にかかわった福井氏は、「なかなか難しかった」と当時を振り返る
100以上の試作を重ね誕生した、世界初の4ピース。
前モデルはヘッドスピードごとに5種類のラインナップを取りそろえていたが、一つのボールで幅広いターゲットに対応するべく3層コアの発想が生まれ、4ピースボールが誕生した
後発メーカーとして、‘‘他社にないもの、世の中にないもの‘‘を常に目指しており、企画開発はまずそこがスタートになる。
「DC432」は成功したが徐々に売上もダウン、またヘッドスピードごとに5種類ラインナップしていたが、一つのボールで幅広いターゲット全領域に対応できるものはないかとの検討が始まり、3層コアの発想が生まれた。
コアが増えると硬さ、比重、形状などバリエーションが無限大に増えるため、試作は100種類以上にのぼった。
当時、ボールの開発担当は3名で、福井氏を含め30代のバリバリの若手が集まっていた。キャスコは「上から言われるのではなく、自分から発想する」という社風。
ボールに関する知識、やりたいことが明確になった若手3人がニューボールの開発に没頭し、わずか1年で世界初のソリッド4ピースボール「ロケッツ」を作り上げた。
福井氏はコアとディンプルの開発を担当。重責とともに開発のやりがいを感じていたのではなかろうか。ディンプルは432個であるが、性能を上げるため新しい配置でディンプルの占有率を上げている。また、コアも新しい配合や材料を取り込んで性能を上げることで、苦労しながら作り上げていった。
ブランド名は、〝飛ぶイメージ〟の「ロケット」から命名!
他社の製品が「メタルミックス」、「筋肉2ピース」などキャッチーな名前が多く、飛ぶイメージのある「ロケッツ」という名称に。
さて、「ロケッツ」という印象的なネーミングは一体どこからきているのか。
こちらはボール開発担当者ではなく社内で創作したそうだが、他社が「メタルミックス」、「筋肉2ピース」などキャッチーな名前が多かったため、飛ぶイメージのある「ロケッツ」に決まったとのこと。
福井氏の開発ノートも最初「4ピース開発」であったが途中から「ロケッツ開発」になっており、商標を調べると、1996年6月で発売の10か月も前に出願されている。
それまでキャスコはボールのCMを展開していなかったが、世界初ソリッド4ピース「ロケッツ」として初のCMを制作。1997年4月4日のプロ野球巨人の開幕戦でCMの放映を開始。
福井氏は当時を振り返り「巨人の開幕戦をテレビの前で、ロケッツのCMをドキドキしながら待っていた」と話す。
1997年発売の「ロケッツ」はまさにロケットスタートを切ることができ、1機種で月20万個を売るヒット商品となった。多層コア技術は現在各社が取り込んでいるが、その先駆けとなりキャスコのボール技術のコアとなるもので、最新の「KIRA」にも継承されている。
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