三菱ケミカル|テンセイのシャフトが世界を制する必然(1/2)
PGAツアー200勝以上を誇るミツビシ/海外メジャーは直近12試合で11勝
選手との使用契約がないシャフトにおいて、三菱ケミカルは圧倒的な数字を残している。PGAツアーでは過去15シーズン中14シーズンで勝利数No.1を記録。最近の4大メジャーでは『テンセイ』が使用率1位を継続し続けている。なぜ三菱は圧倒的な支持を集めているのか?そこには必然とも言える開発背景があった。
●テンセイが世界を制する必然
(1/2):原材料から開発できる世界唯一のシャフトメーカー
(2/2):-元調子の常識を超えた新素材とカーボンの融合
タイガーが使った初代青マナのプロトは1週間で作られた
この写真は発売された製品ではなく、初期プロトタイプのデザイン。04年11月に宮崎で開催された「ダンロップフェニックス」でタイガーが使用して、優勝を飾った。
18年の4大メジャーはテンセイが4試合とも使用率1位
18年のシーズン前半からPGAツアーでは『テンセイ』の愛用者が増え、18年の4大メジャーでは三菱ケミカルのシャフトが全試合で使用率1位となり、『テンセイ』がモデル別使用シャフトとしても1位だった。
原材料から開発できる世界唯一のシャフトメーカー
~初代青マナから15年! PGAツアーで最も勝ち続けた理由~
約15年間のPGAツアーにおいて、200勝以上を記録している三菱のシャフト。そのはじまりは、2004年の青マナだった。初代の青マナから、最新の『テンセイ』まで開発のキーマンが語った三菱ケミカルの強みとは?
MCCコンポジットプロダクツ㈱開発部長
渥美哲也
入社から約27年の渥美は「クラブメーカーからの受注であるOEMを含めたシャフトの供給量は世界1位だと思います。その中で自社ブランドのシャフトはフラッグシップでもあるので常に最先端のテクノロジーに挑戦しています」と語る。
三菱ケミカル㈱コンポジット製品事業部マネジャー
伊藤成就
PGAツアーでの使用率No.1について伊藤は、「私も米国のツアー担当に聞いたことがあるのですが、選手からは1本1本の製品のバラツキが本当に少なくて、純粋にパフォーマンスが高いから使っているという声が多いようです」と語った。
『テンセイ』という名前には多くの材料が高性能シャフトに“転生”するという重要な意味がある。それは三菱ケミカルにしかできないことでもある。同社のマネジャー伊藤は、
「当社のシャフトは材料選び、材料開発からはじめていますが、シャフトメーカーで材料開発からシャフトの成型まで一貫してやっているメーカーは世界で唯一、三菱ケミカルだけです」
実際に他のシャフトメーカーでは、カーボンシートを購入して加工している。長年、開発部長を務める渥美は、
「他のメーカーさんと違い、当社ではアクリロニトリルという原料から自社で製造。そこからプレカーサーと呼ばれる糸を紡いだ繊維を作り、プレカーサーを焼成したものがカーボンファイバーになります。通常のシャフトメーカーはそれをシート状に加工したプリプレグを購入していますが、当社ではその“原料の原料”から開発しています」
そんな三菱ケミカルのシャフトが一躍、有名になったのは04年に発売された初代青マナ(ディアマナ S)をタイガー・ウッズが使用したことがきっかけだった。これは三菱が初めて発売した自社ブランドのシャフトだったが、渥美は初代青マナの開発者でもある。そして意外な秘話を語ってくれた。
「実は米国の選手用に送った青マナのプロトタイプは発注から納品まで1週間でした。当時のPGAツアー担当者から『1週間以内に持ってきたらテストのチャンスがある』と言われて、急いで作りました。1週間となると当日に図面を作って、翌日か翌々日には『色なしのシャフト』がないと間に合いません。しかも、当時はスペックの指定や重量や振動数の数字もなく「ガツーンと打てるもの」というシンプルなリクエストでした」
なぜ、1週間でタイガーも認めたシャフトが完成したのか?
「15年前の青マナは自社ブランドとしては初めてのシャフトでしたが、それまでも大手メーカーのシャフトはOEMで生産していましたし、三菱のシャフト事業には40年近い歴史があります。その中で培った経験やノウハウがあったので、最初から完成度の高いシャフトを開発することができたと思います」
その後、『ディアマナシリーズ』は白マナ、赤マナも追加され、4代続くロングセラーとなっている。『ディアマナ』が王道であるなら、『クロカゲ』そして『テンセイ』は最新トレンドを取り入れたシリーズ。『テンセイ』には、材料から開発できるメリットが最大限に生かされているが、実は開発部長の渥美は元々、材料部門の出身であった。
「自社ブランドシャフトへの参入事業は2000年頃からですが、私は材料部門にいて、その中にゴルフシャフトの設計をやるチームがありました。だから、今でも材料チームとのミーティングはもちろん、普段から『こういう材料があるけど使ってみない?』とかの提案があります。当社のシャフト開発には制限がありませんし、材料の選択肢も無限にあります」
材料から開発できる環境だからこそ、“転生”による高性能なシャフトが生まれたのだ。
海外の低スピン系ヘッドとも相性が良いと言われる『テンセイ CK プロオレンジ』。日本では『オレンジ』のみの発売だが、米国では『ブルー』『ホワイト』『レッド』も発売されている。
《2004年》
2002年頃まではドライバーにもスチールシャフトを入れていたタイガーが、初めて本格的なカーボンシャフトを使用したのがディアマナS 83X(初代青マナ)。05年には同シャフトで「マスターズ」「全英オープン」に勝利。
《2018年》
初代青マナ以降も、白マナ(ディアマナD 83X)など三菱のシャフトを長く愛用していたタイガー。昨年は2位になった「全米プロ」で「テンセイ CKプロオレンジ70-TX」を使い、劇的な優勝を飾った今年の「マスターズ」は長年のエースの後継機種「ディアマナD+リミテッド60-TX」を使用。
海外モデルも日本モデルも豊橋が開発の拠点
米国で人気の『クロカゲ』や『テンセイ』も開発拠点は愛知県・豊橋市の三菱ケミカル愛知事業所にあるMCCコンポジットプロダクツ㈱で開発。
GOLF TODAY本誌 No.567 105〜107ページより