「1勝の重み」を何よりも大切にする米国のPGA TOUR
レックス倉本のGOLFアメリカンな話”ちょっと聞いて〜や‼︎”/第19回
3月10日(木)から大雨のために1日伸びて3月14日(月)まで開催されていたThe Players(ザ・プレーヤーズチャンピオンシップ)の現地から戻ってきました!いやー、今年のThe Playersは初日から松山選手の直前の棄権というショッキングなことから始まり、雷雨の悪天候でほとんどプレーが進まず、2日目が終わった時点でファーストラウンドを消化していない選手が多数。3日目もスタートが12時となり、今度は寒さと強風でセカンドラウンドも多くの選手が消化できず。やっと晴れた4日目になんとか最終組が日没ギリギリでサードラウンドの9ホールを終え、結局のところ試合は月曜日フィニッシュとなりました。一時は火曜日フィニッシュも囁かれたそんな長ーい1週間を振り返ります。
メンタルの強さが際立つ優勝したキャメロン・スミス
まず、今年のコースコンディションについて。いつもはこんなビックイベントではフェアウェイもグリーンも硬くてなかなかボールを思い通りに止められないような設定になっているんですが、今回は大雨が続いたことで第3ラウンドもファイナルラウンドの月曜日もグリーンはピッチマークがベタッとついてボールもしっかり止まるほど柔らかかったのが見てわかりました。
このコースは数年前に大改修をしてグリーンの下にサブエアーという換気扇が設置されていて、今回のような雨の時に換気扇を回してグリーンを乾かすことができるんですが、先週はそれをあえてそれほど利用していなかったのではないかと想像しています。ツアーの進行がいかんせ押せ押せの状態だったので日曜日も月曜日も極力ホール数を消化したいので、いかにプレー進行を早くするのかを考えたら、グリーンを柔らかくするのが一番コースの難易度を下げることになってプレーも早くなる。PGA TOUR側はそのことを前提にセッティングをしたんだと思います。
だから最終日ダスティン・ジョンソンは63、キャメロン・スミスも10個バーディを取る、いつもとは違った展開になりました。このコースの面白いところは、そんなセッティングでも大叩きをする可能性も含んでいること。スミスの18番の池ポチャがあったようにいろんなところに罠がある、本当に面白いコースです。
その18番、私が放送中のホール紹介で「セカンドショットが右の林の中からの場合、木の下を抜くショットが左の池に入る危険性が大である」と話したのですが、その罠に優勝争いをしていたブラッドリーもスミスもハマってしまいました。右の林の中からは低い弾道で木の下を抜くことになり、必然的にフック系のボールになります。その球筋とフェアウェイが左の池の方に傾いていることが重なってボールの転がりが止まらず池に到達してしまうんです。だからあの2打目は難しいんです。うまいこと作っていますよね。
さて、優勝したのはオーストラリアのキャメロン・スミス。メンタルが強いですね。こちらの人たちはよくGRAINDER(グラインダー)と表現します。グラインドというのは、食いついていくと言うか、余裕を持ってプレーするんじゃなくて、一生懸命1打1打なんとかショートゲームでパーを重ねてスコアーを伸ばしてなんとかスコアーを作るタイプの選手のことを言うんですが、スミスはショートゲームが上手いこのタイプ。
そして、毎年毎年ボールストライキングの精度も積み上げてきていて、根本的にグラインダーのしぶとく頑張っていく選手が見事に花開いてきましたね。18番の池に入れた後のアプローチも見事でした。精神的にすごく追い詰められた状況でも自分のプレーがしっかりできる、これまで培ってきたグラインダーのメンタルが見て取れる素晴らしいプレーでした。
ナントしても72ホールを消化させようとするPGA TOUR
そして最後に、私が今回のこの悪天候の試合で注目したいのはコースメンテナンスチームの大活躍です。この試合のために総勢185人のメンテナンスクルーが連日コース整備にあたり、PGA TOURが72ホール競技の成立を目指して走り回りました。
PGA TOURの考えとして、「1勝の重み」をすごく大切にしていて、PGAの冠の試合だけでなく普通の試合でもナントしても72ホールを消化させようとします。なので月曜日フィニッシュがこれまでも何度かあります。ツアーとしては月曜日フィニッシュをしてメリットはなく、54ホールにして日曜日のゴールデンタイムに優勝シーンを流した方が盛り上がるんですが、「1勝の重み」をすごく大切にしているのでナントしても72ホールを消化させようとします。だからこそ、このツアーで1勝を飾った選手はその1勝の重みもあるし、ツアーの運営側もそのことを大切に扱うと言うのがこのツアーの根本的なポリシーなんです。それが徹底されていることを今回目の前で見て、PGA TOURの意気込みをすごく感じました。
まだまだここに書ききれなかったことがいっぱい。さらに詳しい話の続きは、下記「レックス倉本のBYTC GOLF」のYouTube音声動画で引き続きお楽しみ下さい。Podcast、Anchorでも配信中。「レックス倉本」で検索してください。
▼レックス倉本 プロフィール
本名は倉本泰信(くらもとやすのぶ)。1991年プロゴルファーに転向/コメンテーター歴14年広島出身。広島カープの大ファン。毎朝、目覚めとともにカープの試合状況をチェックするのが日課。大学時代をアメリカで過ごしたとき、唯一日本のブリヂストンのボール”Rexter”を使っていたのでゴルフ部のチームメイトから”REX”(レックス)と呼ばれるようになる。アマチュアゴルファー時代は、広島県の瀬戸内高校ゴルフ部からアメリカのオクラホマ州立大学を経てイーストテネシー州立大学ゴルフ部で腕を磨く。在学中には2度オールアメリカンに選出され、1990年に日本アマチュア選手権優勝、全英オープン出場を果たす。大学卒業後、1991年に日本のプロテストを合格しプロデビュー。その後、ヨーロピアンツアー、カナダツアー、アジアツアー、日本国内ツアー(1995年2部ツアーの賞金王に輝く)に参戦。2007年より米国ゴルフチャンネルでUS PGA Tour 、European Tour、US LPGA Tourなどのコメンテーターとして活躍。現在はフリーランスとしてGOLF TVでの解説のほか、 NHK、WOWOWでUS PGA Tour、US LPGA TOURの現地レポーターとしても活躍中。
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