ゴルフボールの「ディンプル」について考える
深読み! ギアカタログ|今回のテーマ【ディンプル】
ゴルフはプレーヤーの技術だけでなく、使っている道具の良し悪し、そして選び方が結果を大きく左右するスポーツだ。この連載では、そのゴルフギアについて深く深〜く「深読み」した話を紹介していく。今回はゴルフボールの「ディンプル」について深読みする。
GOLF TODAY本誌 No.599/150〜151ページより
ディンプルは数量だけでなく大きさや形状、配列で弾道のデザインに影響
ボール表面に配列されたディンプル(えくぼ)は、対称性を守りつつ、大小の組み合わせや深さ、数量、形状を変えることで弾道に変化をもたらす。
ルール適合でもまだ期待できる飛距離アップ
ゴルフボールはルールにより、初速、大きさ、重さなどの制限があるため、もう飛距離性能は伸ばせないのではないか、と思われがちだが、まだまだ開発の余地は残っている。
たとえば空力性能。打球のスピン性能と空気抵抗の生かし方で、キャリーを伸ばすことができる。この分野では今のところルール規制はないので、更なる改良が見込めるのだ。
スピン性能は、カバー材よりも主に構造によるところが大きい。現在は3ピースなどのソリッド多層構造が主流だが、コアが潰れやすく、それでいて復元力が高いものは、スピン量が減りやすい。逆に、コアが潰れにくいものほどスピン量は増える傾向となる。
一般的にアイオノマーカバーの2ピースのものは、スピン量が増えにくいが、これはコアが軟らかくて潰れやすく、カバーの硬さも含めて復元力が高いためだ。ただし、1990年代に登場したブリヂストンスポーツの『レイグランデWF』や『プリセプトMC』など、カバー材を軟らかくしつつ、コアを内柔外剛構造にすることで飛距離性能を落とさずにスピン量をアップし、ツアーモデルとして成功させた例もある。
飛距離性能と適度なスピン量を両立するには、3ピース以上の多層構造のほうが作りやすい。コアとカバーだけでなく、中間層の硬度や密度を変えることが可能だからだ。
多層構造の魅力は、番手ごとのスピン量を適正化できることにもある。短い番手になるほどヘッドスピードは落ちる。このときのコアと中間層の変形量を調整することで、その番手の飛距離に対して適正なスピン量を生み出すことができる。
具体的に言えば、ドライバーの飛距離はほぼ同じでも、UTやアイアンでは5〜10ヤード伸びる、といったボールが作れるわけだ。近年ではテーラーメイドの5ピース『TP5』などがそういったコンセプトを踏まえて登場している。
このスピン性能との兼ね合いで、弾道をデザインするのに必須なのが、ボール表面を覆うディンプルだ。スピン性能の変遷が続く限り、その形状や配列の進化にも終わりはない。バリエーションも増え続ける。
1980年代までは、ディンプルのサイズは均等のものが主流だったが、ダンロップ『DDH』が登場してから大小サイズ違いを組み合わせるパターンが増え、バリエーションも豊富に。
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弾道の頂点から落ち際までの揚力がカギ
元々、ディンプルが考案されたのは19世紀末ごろ、天然ゴムを固めた「ガッタパーチャ」ボールから。表面の傷がつくと、ツルツルの新品のものよりも飛ぶようになることに気づいたことがきっかけで、初期には突起状の凸凹(ピンプル)も登場。20世紀初期の糸巻き構造「ハスケル」に移行するころには、ディンプル加工は定着していた。
打球にバックスピンがかかると、ディンプルの効果で揚力が生じ、滞空時間とともにキャリーが伸びるわけだが、その最適値を求めるのは至難の業だろう。
糸巻き構造全盛の頃は、豊富なスピン量に合う〝風をくぐる〟ディンプルが求められたが、現在主流のソリッド構造はスピン量が抑えられているため〝落ち際で踏ん張る〟タイプが増えているようだ。
〝落ち際で踏ん張る〟というのは、スピン量が多少落ちる弾道頂点から落下地点までの滞空時間を増やすこと。ロングショットでは飛距離の伸び、グリーンを狙うショットでは止まりやすさを演出できる。
これは構造でも調整が可能で、たとえばコアの比重を軽くし、中間層の比重を重くすると、ボール自体の慣性モーメントが上がって、打ち出しではスピン量が急激に上がらず、落ち際ではスピン量が減りにくいという弾道になる。
構造とディンプルの組み合わせが上手くいけば、現在以上の〝飛んで、止まる〟が可能になるだろう。これはツアー仕様だけでなく、いわゆるディステンス系でも同じ。ウレタンカバーでなくても、弾道高さと〝軟着陸〟の両立で、ツアー仕様ではないグリーンなら難なく止められるようになる。実際、そういったタイプのボールも市場に増えている。
過去、ディンプル開発の最大の敵は〝塗装〟だった。塗料や仕上げのクリアコートがディンプルを埋めてしまうと、図面通りに仕上がらない。つまり、計算どおりの機能が発揮できなかったわけだが、21世紀に入るころには塗装技術が格段に進化し、現在はディンプルのエッジ部分まで精密に仕上がっている。弾道などの計測技術の進歩とともに、より優れたディンプルの開発に期待したい。
多層構造のボールは、外周の比重を重くすることでMOI(慣性モーメント)がアップ。落ち際までスピン量が持続しやすくなり、ディンプル次第でキャリーを伸ばすことが可能に。
プラズマ蒸着などの製法の進化により、塗料やクリアコートの塗りむらがなくなり、設計どおりに仕上げることが可能になった。ボールの空力性能は、まだまだ進化するはずだ。
文/戸川 景 イラスト/庄司 猛
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