たかが、ゴルフボール。されど、ゴルフボール。
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第9回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
撮影/篠原嗣典
ゴルフボール革命を知って飛ばす!
ゴルフには数百年の歴史がありますが、その発祥については、諸説あってハッキリしていません。
ただ、用具の歴史を紐解いていくと、用具の大革命がゴルフを変えて、結果的に、ゴルフが広まっていく原動力になったことがわかります。
ゴルフボールも、然りなのです……
ゴルフボールの最初の革命は、フェザーボールと呼ばれる、水鳥の羽根を牛革の袋の中にぎゅうぎゅうに詰めたボールの登場でした。現在で最も近いものは、野球の硬球という感じです。
フェザーボールは、軽いのに、反発力があり、それまでの木製のボールの倍の飛距離が出ただけではなく、高いボールを打つことも出来たのです。
20世紀末に、フェザーボールを復元して、プロゴルファーが打ってみるという企画がありましたが、200ヤードを楽々越えて、もっと飛ばないはずだと予測していた賢者たちを驚かしました。
フェザーボールの出現で、ゴルフコースも現代のゴルフコースにかなり近くなり、ゴルフをする人口も増えたのです。
ほとんどのゴルファーは知りませんが、現在でも、このフェザーボールの影響を受けた上で、僕らはゴルフをしています。
ゴルフルールで、打った球が分かれてしまった場合は、無罰で打ち直しという条項がありますが、これは、フェザーボールの影響なのです。フェザーボールは、縫い目が弱くなって、打った衝撃で裂けるように中身が散乱することがあったからできたルールで、現在でも、そのまま残っているのです。
次の改革は、ガッタパーチャボールと呼ばれるゴムのボールです。
フェザーボールは、量産が出来ず、非常に高価という弱点がありました。
この当時、ヨーロッパ諸国は、東南アジアから送る荷物を保護するために、天然ゴムを緩和材として使用していました。19世紀初頭、荷物を受け取った後、ゴムはゴミになっていましたが、型に入れて熱を加えれば自在に形を変える性質に気が付いた人々は、ゴムを色々なものに加工し始めたのです。
ゴルフボールが作れるはずだと考えた人もいました。すぐに、ゴムを入れて、暖炉で熱してボールの形に成型する金型が作られて、バカ売れしたそうです。
ゴムで出来たボールは、金型があれば、タダ同然で、何個も作れますし、傷んだら作り直すことも可能でした。
ゴルフボールは微笑む
ガッタパーチャボールは、一気にシェアを増やしていきます。
フェザーボールが正当で、ゴムボールは邪道だという伝統対革新の論争も起きます。
ゴルフの歴史に欠かせない登場人物も、その論争がきっかけで表舞台に登場するという興味深いシナリオもありますが、それはまた、別の機会にします。
フェザーボールは、傷が付くと切れてしまうので、クラブの主流は木製のウッドで、アイアンを使うのは特別なケースだけでした。アイアンのリーディングエッジは、フェーザーボールを切ってしまう敵だったのです。
しかし、ゴムボールなら遠慮は無用です。アイアンがクラブとして、急激に進化して、増えていくのは、ボールの素材が変わったからなのです。
ゴムボールを使ってプレーしていて、ゴルファーたちは、あることに気が付きます。
新品のボールよりも、使い古したボールのほうが、飛距離も出るし、ボールも上がるのです。
科学的な理由はわからなくとも、ボールの表面が凸凹しているほうが良いのかもしれないということで、金型に凹みをつけて、突起のような凸が付いたボールが出来て、これが機能したことで、一気に広まりました。
この出っ張りがたくさんあるゴムボールは、通称で「pimple」と呼ばれました。日本語だと、「ニキビ」のことです。凸の部分は、使用しているとすぐに削られてしまって、飛ばなくなったり、不安定になってしまいます。
すぐに、凹のほうが長持ちしそうで良い、ということになって、凹みがたくさん付く金型が出ました。
凹みがたくさんあるボールは、狙い通りに、ニキビボールよりも優れていて、瞬く間に主流になりました。
これが、「ディンプル」の始まりです。
「dimples」は「えくぼ」のことです。
ゴルフボールは、この頃から、ゴルファーに微笑むようになったのです。
そして、ゴルフボールに魂が宿った
先人たちは、次々にボール革命を起こします。
20世紀になって、硬く小さな芯に糸ゴムを巻き付けて製造するハスケルボールが出現します。
引き延ばしたゴムを多層に巻き付けたほうが、より反発する力が強いことがわかったからです。
20世紀末になって、異なる素材を多層に重ねて、密封するように製造することで、糸巻きボールと同等か、分野によっては超える性能を発揮できるソリッドボールが開発されて、革命を起こします。
四半世紀が過ぎて、現在では、多層ソリッドボールが、ほぼ100%になっています。
ゴルフ史上、最も飛んで、最も止まって、最も入るボールを僕らは使える幸運の中で、ゴルフをしているというわけです。
ゴルフボールは何でも同じ、という声をよく聞きますが、本当でしょうか?
全てのストロークで使用する唯一の用具がゴルフボールです。
ぶっ飛ばしたいときも、どうにか乗せたいときも、絶対に入れたいときも、手にしているのは、ドライバーやアイアンやパターだったりするのに、ボールは変わらないのです。
万能であることをゴルフボールは求められています。
使い手のゴルファーのほうが、万能とは、ほど遠いので、ついつい開き直って、ボールは何でも同じ、と言ってしまいがちですが、自分に合ったボールを使うことで、少しずつですが、万能な機能を使えるようになります。
僕は、プレー中にボールに話しかけています。
通じ合えると信じているからです。
お願いは、かなりの確率で聞いてもらえますし、ときには、ボールに励まされたりもします。
これが、どのボールでも、というわけではないのです。
信頼し合っていなければ無理ですし、素晴らしいスコアが出たのに、意思の疎通を感じないボールもあります。
オカルティックで、馬鹿馬鹿しいと笑うのは簡単です。
しかし、よく考えてみればわかるはずです。400ヤードも離れた108ミリしかない小さな穴に、4回しか打たずにボールを入れる、ましてや、3回で入れることもできてしまうなんてことは、中学生レベルの数学を使って確率計算をすれば、ほぼ不可能であることが証明できるはずです。
でも、多くのゴルファーが、不可能を可能にしています。
ゴルフとは、そういうものなのです。
ゴルフボールに手足が生えるとかいうことではなく、魂が宿る程度はゴルファーの許容範囲です。
長くなりましたが、たかが、ゴルフボールなのも事実ですし、されど、ゴルフボールなのも現実なのです。
僕は調子が良く、諸条件も合えば、アンダーパーでプレーすることがあります。試打クラブでも、アンダーがでることはあります。
でも、合わないボールでは、どんなに素晴らしい機能が詰まったボールでも、90近いスコアになってしまうこともあるのです。クラブは腕前でどうにかできることがありますが、ボールは無理だからです。
ゴルフボールは、個人的には一番大事なゴルフ用具です。
2022年の春。新しく優秀なボールがたくさん出て、僕を誘惑するのです。それもまた、ゴルフの楽しさです。
篠原嗣典。ロマン派ゴルフ作家
篠原嗣典。ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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