ゴルフ界にも女性差別が近年まで残っていたことを知っていますか?
頑迷に続いた英名門クラブの「女人禁制」/最近のR&Aは女性ゴルファーの普及に努めているが…
今年の夏、全英女子オープン(正式名称:AIG女子オープン)がスコットランドのミュアフィールドで開催された際、「1744年のクラブ設立以来、273年もの間、女性の入会を拒んできたミュアフィールドが2017年に女性会員を認め、そして今回、初めて女子のトーナメントが行われることになった」といった文章を何度か目にしました。
近年まで残っていたイギリスの名門クラブの女性差別
古くから女王が君臨し、女性首相も珍しくないイギリスには「ジェンダー平等の社会」というイメージがあります。しかし、全英オープンが開かれる名門クラブにはつい最近まで「女人禁制」の会則を掲げるところが複数ありました。
“ゴルフの総本山”とも呼ばれるスコットランドのロイヤル&エンシェント・ゴルフクラブ・オブ・セントアンドリュースでさえ、2004年に全英オープンの主催やゴルフルールの統括といったユニバーサルな活動を別組織の「R&A」に委譲。その後も、しばらくは頑迷に「メンズクラブ制」を固持。2014年にようやく、女性に閉ざしていた扉を開放しました。
その後、翌15年にイングランドのロイヤル・セントジョージズ。さらに16年にロイヤル・トルーン(スコットランド)、そして17年にミュアフィールドと、名門クラブが次々と女性の入会を認めたのです。
人種差別は早くに撤廃したイギリスの名門クラブが、なぜ女性差別は近年まで残っていたのでしょう。当時のR&Aのチェアマン、ピーター・ドーソンは「ニューヨークタイムズ」のインタビューに、「女性排除は、一部の男性が好む生き方(ウェイ・オブ・ライフ)なのです」と答えています。
社会的公正を超えた人生観の問題で、簡単には変えられなかったということでしょう。1980年代から全英オープンを取材してきた記者によれば、当時はクラブハウスの玄関で「No dogs or women allowed」(犬も、女性もお断り)と描かれた看板を目にしたそうです。
「ブラックユーモア」としても、今では考えられませんね
「女性差別」はつい最近までゴルフルールにも
「ジェンダー平等」が遅れていたのは、名門クラブだけではありません。ゴルフルールでも、つい最近まで女性の存在は“無視”されていました。例えば、ルールブックの「定義」にある「Line of play」(プレーの線)の説明ですが、2019年に大幅改訂された現行ルールでは、「The line where the player intends his or her ball to go after a stroke」(プレーヤーがストロークをして狙う、彼もしくは彼女のボールの方向)と書かれています。
ところが、前バージョンの2016年版では、「The “line of play” is the direction that the player wishes his ball to take after a stroke」定義の内容は同じなので省略しますが、2019年改訂版で「his or her」と両性で記された規則文がそれ以前は「his」だけなのです。2016年版を文字検索すると、「his」という単語は約200か所ありました。
ちなみに、日本ゴルフ協会発行の規則書では、「プレーの線」の定義は、「『プレーの線』とはプレーヤーが球をストロークした後その球にとらせたい方向をいい」と訳されています。
このように「his」は「その」、あるいは「自分の」という単語で訳され、ジェンダー問題はクリアしていました。
日本を含めた世界規模で、女性ゴルフ推進のイベントを計画
近年R&Aはもっと女性ゴルファーを増やそうと、環境の整備・改善に力を入れています。
日本においても、今年の日本女子オープンに合わせてR&Aの担当者が来日。開幕前日に日本ゴルフ協会と共同で「ゴルフ振興」に関する記者会見を開催。
そこで「女性とゴルフ」をテーマに、これまで女性ゴルフの普及やゴルフ界で働く女性の地位向上に努めた内容や今後の活動を紹介。そして、来年の「Women’s Golf Day」(女性ゴルフデー、来年は6月6日)では、日本を含めた世界規模で、女性ゴルフ推進のイベントを展開することを発表しています。
名門クラブでもルールブックでも、長く女性を“軽視”してきた“負の歴史”の挽回、つまりは「罪滅ぼし」なのかも。
R&Aは「SUSTAINABILITY」を重視
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小関洋一
出版社、編集プロダクションを経て、フリーランスのライターに。テレビ誌・トレンド誌などで、主にスポーツに関する記事を執筆。テレビ、ラジオのスポーツ番組の構成も手掛ける。現在はゴルフ誌を中心に内外の最新トレンドを伝えたり、ゴルフ場のレポートを担当している。東京ゴルフ倶楽部の年史製作に携わっており、ゴルフ史に関する執筆機会も多い。
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