慌てず、騒がず、焦らず…賢いゴルフをする人は「3ず」のゴルフができている これぞ”オールドマンパー”のこころ
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.13
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉一つひとつを、皆さんにお届けしていく。
GOLF TODAY本誌 No.613/68〜69ページより
本誌イラスト/北村公司
組み立てを考えた賢いプレーを心掛けよ
ボビー・ジョーンズから「オールドマンパー」の概念を学んだ中部銀次郎さんは、パーお爺さんとパーを基準に置いたプレーを常に心掛けることを基本にしながら、その真意を深く考えた。それは例えばパー4ならばドライバーショットをフェアウェイに打ち、セカンドショットをグリーンに乗せて2パットといった単純なものではない。
ホールレイアウトを詳細に見て、打ってはいけない危険な場所を知り、多少のミスをしてもペナルティにはならない安全なエリアにティショットを放つ。セカンドショット地点からはピンの位置とグリーンとグリーン周りの状況を入念にチェック、ボールのライを確認し、風を鑑みて、グリーンのどこにどんなショットを打つのがパーを最も取りやすいかを考える。となれば、セカンドショットのポジションによってはグリーンに乗せずにパーを取る方法も考えなければいけなくなる。
中部さんは言う。ーー「つまり、毎ホール毎ホール、どのようにしてパーを取るかを考えるわけです。コース攻略、コースマネジメントです。自分が練習してきたショットを使ってどう攻めるか。その組み立てを考える。『オールドマンパー』のゴルフを行うにはそのことが最も大切なのです」
アベレージゴルファーであれば、どのようにしてボギーを取るか。つまり『オールドマンボギー』のゴルフを行うための組み立てが大事になる。どのようなクラブでどんなショットを使ってどこを狙い、ボギーオンを果たすかということ。それができれば、ボギーお爺さんと楽しくプレーができることになる。
中部さんは続ける。ーー「パーお爺さんと楽しくプレーをするのならば、イチかバチかといった無謀なショットや攻めはしません。極力安全にプレーします。飛ばそうなどとは考えず、脱力してスムーズなスイングを心掛け、8割の力で目標に打ちます。
つまりコントロール重視のショットを行うことになります。こうしてボールを目的地に運んでいく。そうです。ボールを打つというよりも運ぶという表現がいいのです」
ゴルフは安全運転?陸上競技のリレー?
これは例えばクルマでお客さんを運ぶといった感じでプレーすることを意味している。
ドライバーというクルマで目的地までボールというお客さんを安全に運ぶ。そのまま次の目的地までも安全に運んでいく。
事故が起きないようにいつも安全運転を心掛ける。法定速度を守ってスピードを出しすぎないようにする。周囲に気を配って、突発的のことが起こっても冷静に対処する。ゴルフは安全運転が大事なのである。
中部さんは高校生の時に運転免許を取り、生まれ育った地元山口のワインディングロードを楽しく走った。甲南大学時代にはスポーツカーを乗り回していたが、安全運転を心掛けていた。大人になってからは尚さら、注意深く運転した。中部さんのゴルフのように、安全第一を旨としていたのだ。
このことを陸上競技のリレーに例える人もいる。ティショットを打つ第一走者はコースを外れるOBなどは打たず、セカンドショット地点にいる第2走者にしっかりとバトンを渡す。第2走者はグリーンにいる第3走者に転ばないように走ってバトンをつなぐ。第3走者はカップ近くにいる第4走者にバトンをゆっくり渡す。ラストの第4走者はカップというゴールに向かって確実に歩いてホールアウトするのだ。
まるで400mリレーのようにボールというバトンを渡していくのが、実はゴルフという競技なのである。
ーー「慌てる必要など何もありません。ゴルフはタイムを争う競技ではありません。目標とするセカンド地点までゆっくり確実にボールを運べばいい。目標よりも飛ばす必要などありません。グリーンにはもちろん飛ばす必要などなく、方向がよくなるようにちょうどいい距離を打てば良いだけです。
グリーン上でも慌てることはありません。傾斜をよく見て、ボールがコロがる速さを考えてゆったり打つこと。カップに入らなくてもOKになるところにボールを運べばそれでよしなのです」
「孫子の兵法」から学ぶ
古来から武将たちは「孫子の兵法」を尊んできた。中国の諸侯たちはもちろん、武田信玄や織田信長などの日本の武将、欧州ではナポレオンが大いに参考にした戦略である。
最も有名な孫子の言葉は「彼を知り己を知らば百戦危うからず」。ゴルフにおいてであれば、「彼」はゴルフコースであり、己は自分である。
コースの状況をよく知り、自分の技量を知って、マネジメントすれば、何度プレーしても大叩きはしない。ベストスコアだって出せるというわけである。「コースを知り自分を知れば百戦危うからず」というわけだ。
「孫子の兵法」では「戦わずして勝つ」ことも唱えている。これもまたゴルフと同様である。コースとは戦わず、いつでも冷静に考え、余力を持ってプレーする。そうすれば、大叩きすることなどなく、スコアを崩すことなどないのである。無謀な攻撃はせずに堅実な攻めを行えば、自ずと良いスコアで上がれるというわけである。
「賢いゴルフ」が理想のゴルフ
中部さんは言う。ーー「ゴルフの組み立ての上手な人は賢く見えます。賢いゴルフをするなと思えます。そうしたゴルフをする人には勝てません。
常にマイペースで、コツコツと1打1打正確にプレーする。何の力も入っておらず、トラブルもなく、さらっとパーであがっていく。そうしたゴルフには達人の雰囲気があります。
あいつは賢いゴルフをする。そう言われるように常に頭をフル回転させながらゴルフをしてきました。それが目標だったと言ってもいい。私の理想のゴルフです」
中部さんの言う「賢いゴルフ」はずるがしこいゴルフでは決してない。相手を出し抜こうととか瞞そうなどということは微塵もない。相手は常に自分である。自分という相手に「賢いね」と言われるゴルフを目指してきたのだ。
「慌てず、騒がず、焦らず」という「3ず」のゴルフ。愚かなことをしないで済む、冷静でゆとりのある「賢いゴルフ」である。それをクレバーなゴルフ、スマートなゴルフとも言う。中部さんの「オールドマンパー」である。
仕事や人生でもそうありたいものだと思う。自分をよく知り、常に相手や状況を鑑みて、最善のことを行う。自分を律することのできる矜持ある人間と言われるのだ。それを人は「賢人」と呼ぶ。「ゴルフの賢人」になること。中部さんの理想だった。
中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)
1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。
甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。
著者・本條 強(ほんじょう・つよし)
1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。
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