岩井姉妹の勝利の陰の立役者はアイアン? 常識を覆すヨネックスの“超・精密鍛造”製法
戸川景の重箱の隅、つつかせていただきます|第46回
スイング、ゴルフギア、ルールなどなど…。ゴルフに関わるすべての事柄の“重箱の隅”をゴルフライター・戸川景が、独自の目線でつつかせていただくコラムです。
Text by Hikaru Togawa Illustration by リサオ
GOLF TODAY本誌 No.624/90ページより
“超・精密鍛造”製法になぜワクワクしないのか?
先日、今どきのクラブフォルムについて取材すべく、ヨネックスの新潟工場に伺う機会があった。
その際、ついでに気になっていたことを尋ねてみた。最近、契約外でヨネックスのアイアンを使用するプロが増えているのはなぜか。クラブのメンテがスピーディで手厚いという話は聞こえていたが、それだけでわざわざ契約フリーのプロが選ぶだろうか。
開発課の吉田博之アイアン班長の話によると、凄腕のカリスマ職人でも抱えているのかと思いきや、そうではないらしい。
見せてもらえたのは、あるプロの軟鉄鍛造アイアンのスペック表。一目見て、絶句してしまった。
重心距離(厳密には一般的な重心距離ではなくシャフト軸線からヘッド重心までの長さ)と重心高さが全番手、誤差1ミリ以内で揃っていた。通常、ありえない。
ヘッド重量がフローし、ロフトがつけば重心角も変わるのが当たり前。その中で、重心距離を変えず、重心高さを変えないということは、CAD3Dで設計上は可能かもしれないが、製法上不可能のはずだった。特に鍛造では。
鍛造は、鉄を高温で熱して圧をかけて成型する。当然、冷めれば形状はわずかに歪む。ところがヨネックスの軟鉄鍛造は、金型から取り出したままでフェース面を完全に平滑にできるため、通常後で刻むスコアラインも最初から入れることができるという。ここが私にとっては2つめの衝撃ポイントだった。常識が覆ったからだ。
フェースを削らない、溝を刻まないということは、ヘッド重量も変わらない。もちろんバリは取るし、ホーゼルはドリルで削るわけだが、それらはすべて計算で織り込み済み。精密鋳造(ロストワックス)でもここまではできない、という“超・精密鍛造”を実現。世界初だという。
だが“それがどうした、今までの製法で十分じゃないか”という意見もあるだろう。一般ユーザーには、飛ばせる、ミスに強くなるといったわかりやすいパフォーマンス向上の謳い文句しか響かない。“超・精密鍛造できました”ではメリットがピンと来ないから、ヨネックスも宣伝に力を入れようもないのはよくわかる。
開発した吉田班長は、こう熱弁。「鍛造製法は表面強度が上がるのに、フェースを平らにするミーリングや、溝を掘ることで外皮を削ってしまうのがもったいない。削らなければ溝も長持ちするから、手に馴染む時間も伸ばせる。プロの道具はこうあるべきでは」
至極ごもっとも。だが、一般ユーザーは、長持ちなんて必要ない、と突っぱねる気がする。私もこの製法の一番の魅力は強度ではなく“図面どおりに仕上がる”ことだと思っている。
シンプル構造で操作性が高く、いまだにプロに愛され続けるマッスルバックが、軟鉄鍛造で重心位置を完全にコントロールしたものが作れる。それでも振り心地や操作性を求めてヘッドを削る、鉛を貼るといった感性任せの微調整は必要かもしれないが、そういったものの幅がグッと絞り込まれる可能性があるのだ。
JGTO初代会長を務めた島田幸作は15勝を挙げた名手だが、得意としていた6番アイアンが折れてしまってから、勝てなくなったという逸話がある。単にシャフト交換だけでは元に戻らない、パーツの個体差、組立の微妙な違和感は、プロ本人でも埋め合わせることができなかったのだと思う。
ブレない寛容性より、動きやすい操作性を求めて選ばれるマッスルバックアイアンだからこそ、個体差の幅が減り、得意の1本と同様の振り心地が全番手で得られるとなれば、どうだろう。今、ヨネックスアイアンを使うプロはそれに気づいているのかもしれない。
戸川景(とがわ・ひかる)
1965年3月12日生まれ。ゴルフ用具メーカー、ゴルフ誌編集部を経て(株)オオタタキ設立。現在、ライターとしてゴルフのテーマ全般を手掛けている。
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