S-YARD T.301|徹底的にアマチュアにフォーカスしたチタン素材の精密鍛造による大型ヘッドで100億円売る!
商品開発はドラマ!!!|今だから言える驚きのストーリー[第11回]
ゴルフメーカーの商品開発におけるドラマチックな業界裏話をメーカー勤務経験のフリーライター・嶋崎平人が語る連載企画。今回はS-YARD T.301が主役のストーリー。
GOLF TODAY本誌 No.594/68ページより
徹底的にアマチュアにフォーカスしたチタン素材の精密鍛造による大型ヘッドで100億円売る!
ゴルフに関しては素人のセイコーと、クラブ制作の技術に蓄積のある遠藤製作所によるコラボが成功を導く
1980年代後半以降は、ゴルフクラブヘッドの素材革命が進んだ時代である。パーシモンからメタル、そしてカーボン、チタンへと急激に変化していった。その時代の流れに中で、服部セイコーが1993年に発売した「S-YARD(エス・ヤード)T.301」は、精密なチタン素材の鍛造製法により、当時としては超大型の250cm3ヘッドであった。
さらに、常識を覆す極端なフックフェースで、スライスに悩む多くのアマチュアゴルファーに受け入れられ、飛んで曲がらないと評判となり、大ヒット商品となった。販売は1年目23億円、2年目71億円と急拡大、4年目には100億円に達し一世を風靡した。
ゴルフと無縁であったセイコーから、なぜ大ヒット商品が生まれたか。それは、ゴルフクラブ製造部門を持たないセイコーと、OEMゴルフメーカーである遠藤製作所との出会いであった。当時、遠藤製作所のゴルフ部門の責任者であった。小林健治氏に、その出会いについてお話を伺うことができた。セイコーのS-YARDが遠藤製作所のOEMであることはよく知られている。
1993年の発売から遡ること、約3〜4年前にセイコーからゴルフ業界に参入したいとの打診が遠藤にあった。セイコーにはスポーツ部門があり、商品はストップウオッチ、メトロノーム、電気カミソリなどがあった。スポーツ用品が必要ではないかとのことで、ゴルフに白羽の矢がたった。小林氏はセイコーブランドに対して、良い印象があった。高校生の時セイコー5スポーツは憧れの商品であり、精密、金属などのイメージがあり、引き受けることとなった。遠藤は提案型のOEMメーカーであったが、既存のゴルフメーカーはプロの意見を重視し、ゴルフクラブはこうあるべきであるとの考えがあり、思い切った提案・発想のクラブはなかなか採用されなかった。
当時、チタンドライバーについても、大型ヘッドを提案したことがあったが、なかなか採用されなかった。一方、セイコーはゴルフに関しては素人で、「遠藤製作所」の提案を受け入れる素地があった。セイコーとの信頼関係を築くために、遠藤の技術を投入した大型のキャビティアイアンのサンプルを試作し、打ってもらった。この試作品の評価が高く、遠藤への信頼が構築されていった。
「世の中にないもの」というコンセプトを追求し続けてスライサーのための究極の製品を作り出す!
セイコーからの条件は(1)今まで世の中に出ていないもの。(2)絶対に飛ぶこと。の2つであった。当時のチタンヘッドは鋳造技術が未熟で体積を大きくすることが難しかった。遠藤はステンレスを塑性加工し、部材を溶接し、ヘッドを製造する技術を確立していた。より軽く強いチタン合金についても、同様な製造方法で大型ヘッドを作ることにトライすることとした。
このチタン合金の加工は、ばね性が強く「ピンピン」で加工しても元に戻ってしまいコントロールできなかった。一時は諦めて、セイコーにステンレスを使ったヘッドを提案した。しかしセイコーは「世の中にないもの」というコンセプトを曲げることはなくチタンにこだわった。製造現場を知っていれば、この苦労を理解しコンセプトが変わったかもしれない。だが素人だからこそ、遠藤を信頼し、出来ると考えたのであろう。このチタン合金の塑性加工方法の確立には2年以上を要した。ただ、セイコーも開発費用に関しては全面的にバックアップした。
さらに、アマチュアゴルファーの70%はスライサーで、その解消のためにS-YARDの特徴となった極端なフックフェースも提案した。4度のフックフェースである。マイナス1度でフェースが真っすぐに見えるのが通常で、さすがにゴルフに関しては素人のセイコーでも、「フック過ぎるのではないか?」との意見もでてきた。そこで、フェース角度を0度、2度、4度のクラブをロフトを含めて30以上試作した。スピードをもって試作品を作ることができるのも、製造を熟知し、生産に必要な金型も自作する遠藤の強みが生かされた。
ゴルフ場でテストした全員が、4度のスペックが一番つかまり、飛ぶとの評価であった。セイコーのゴルフに対して素人ゆえのこだわりと、製造技術を熟知した遠藤との協業によるS-YARDの誕生であった。
S-YARDは、実際に打ったプレーヤーが飛ぶとの口コミが広がり、爆発的なヒットとなった。しかし、予想以上の注文で製造が間に合わず、さらに量産でも鍛造チタンの製造の難しさがスピーディな量産化の障害になった。販売店の担当者がセイコーに押しかけ、セイコーグループ内部でも商品の取り合いが起こったほどであった。遠藤は専用工場を立ち上げ、注文量をこなしていった。
しかし、競争が厳しいなか、海外ブランドの日本市場への参入を含めて徐々に低迷し、2011年にはセイコーはゴルフから撤退した。しかし、今までに体感したことのない飛びを実現し歴史を作ったS-YARDの名前は、今なお多くのゴルファーの記憶に刻みこまれている。
取材・文/嶋崎平人
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