ゴルファーは1センチでも遠くに飛ばしたい
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第7回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
撮影/篠原嗣典
ゴルフボールは飛ばしの科学の結晶である
ゴルフ未経験者に、ゴルフの魅力を講義したことが何度かあります。
その全てで必ず入れていて、その都度、話をしていて手応えを感じたのが、「地球上にある球技の中で、ゴルフが最も飛距離が出る種目です」という内容のものでした。
ひ弱な女性でも、上手くいけば、東京ドームのホームベースからセンターに向かって打って、楽々、フェンス越えのホームランを打てます。122メートルは、約133.5ヤードです。
運動歴がある若い男性が上手に打てば、国際試合で認められている最も大きなサッカーフィールドを2個縦に並べても、それを越えることができます。飛ばすことに特化して鍛錬をした選手だと、3個並べても越せます。
国際試合で決められているサッカー場の最大の大きさは、縦距離が120メートル以内ですので、2つ並べて240メートル。ヤードだと約262.5ヤード。3つだとしたら約394ヤードです。
具体的な場所をイメージさせれば、その飛距離が理解できます。
ゴルフボールは、人類最長の夢を乗せた科学の結晶なのです。
この話題で、お年寄りのお遊びだと馬鹿にしていた人にも、ゴルフに興味は持ってもらえます。
当たり前になってしまって、忘れていますが、初めてゴルフコースに来た人は、芝生の美しさと、その広さに圧倒されるものなのです。
野球やサッカーのスタジアムが、いくつも入ってしまう大きさのホールが、十数ホールも続くスケールに感動するのです。
それを、順番ではありますが、時限的に自分だけが独占できるのも、地球上の球技ではゴルフだけに許された特権です。
実際に、ゴルフをすることになると、科学の結晶のゴルフボールが1個で数百円することに驚きます。
なくなってしまう可能性がある消耗品なので、始めは15個ぐらい持参してください、と説明されて、「ゴルフって、お金持ちじゃなければできないのだ」と絶望するのです。
とはいえ、ほとんどの人が、18ホールのプレーが終わる頃には、消耗品が高価だという一般常識を忘れてしまうぐらいに、ゴルフの面白さにノックアウトされているもので、絶望は一瞬です。
たった1センチで天国か地獄か
ゴルフは最もボールが飛ぶ球技でありながら、108ミリしかない穴に少ない打数でボールを入れること目指すという究極の戦略性も持ち合わせています。
300ヤード飛ばす1打も、たった1センチでも同じ1打なのです。
また、153ヤード飛べば最高の結果を生むショットが、152ヤードしか飛ばなかったために、その日のゴルフを台無しにしてしまう大トラブルになるショットになってしまうようなシーンは、全てのゴルファーに平等に、それもけっこう頻繁に訪れます。
ゴルフにおいて、天国と地獄は、まさに、背中合わせです。
1ヤードどころではなく、突き詰めていけば、それはたった1センチの差だったりもするのです。
他の球技のように同じフィールドでプレーするのではなく、ゴルフでは、何千、何万というパターンのフィールドがあるのは、対戦者と競うゲームであると同時に、自分対コースの戦いでもあるという面白さがあるからです。
例えば、打ったボールが大きく曲がって、OBライン方向に行ってしまったとします。
ボールがOBラインの線上にある場合、ルールでは杭のコース側を結んだ線にボールが触れていればセーフ、触れていなければアウトです。
ゴルフが面白いのは、確率的には、このようなギリギリの判定など、一生に一度あるかないかのはずなのに、けっこうな確率でこのようなシーンを経験してしまうのです。
だからというわけではないのですが、ゴルファーはギリギリ病に感染しがちです。
ティーショットで、ティーマークのラインのギリギリにティーアップしていませんか?
2本分のクラブの長さまで、下がった範囲内にティーアップできるのに……
「1センチでも勝ちは勝ちだし、負けは負け。ゴルフはシビアなものだから、ギリギリが正解だよ」
という主張もあります。理屈はわかります。
しかし、よく観察してみると、ティーイングエリアには、微妙な傾斜がついていたりします。ティーマークの位置によっては、ギリギリだとかなりの傾斜でアドレスをしているケースがあるのです。
平らな地面で最大の効果が出るように練習をしているわけですので、少しの傾斜でも、ボールが曲がったり、飛距離が落ちたりするのが普通です。
結果として、ギリギリで損をしているゴルファーはけっこう多いのです。
落ち着いて、ティーイングエリアを観察して、一番飛びそうな平らな場所を探して打つゴルファーのほうが、ギリギリ病のゴルファーより、平均飛距離は上ですし、たぶん、効率良くスコアアップをしているはずです。
ギリギリ病は、簡単に治せます。
飛距離は課金してナンボ、なのかなぁ?
「飛距離とスコアは買えるけれど、腕前は売っていません」
なんていうセリフは、古今東西のゴルファーが言い続けてきました。
20代はゴルフショップにいましたので、本当は何が買えて、何が買えないのかについてはよく知っています。
飛距離にかんしては、絶対条件は基礎体力です。絶対的なパワーは、何よりも優位です。
次に、芯に当てる腕前です。ちゃんと打てなければ、強力なパワーを活かすことができないからです。
そして、最後に用具です。飛距離に特化した用具は、様々な理論に基づいて作られています。打ち手のゴルファーのタイプが、理論と合致した場合は、鬼に金棒になります。
つまり、100%ではないにしても、飛距離は買える、のは真実です。
僕はゲームに詳しくないので、ピンと来ないのですが、この手の話をするとゲームをしている大人ゴルファーは口を揃えて言うのです。
「無課金は、課金には絶対に勝てない、というのと同じですね」
無課金で、課金の人と対等に戦えるのはロマンがありますが、現実はそんなに甘くないようです。
飛距離はゴルフの魅力の一部で、無視をすることはできません。
優先順位の違いはあるにしても、21世紀になって20数年が過ぎて、用具に飛距離を助けてもらっているオールドゴルファーのゴルフ寿命は間違いなく延びています。
僕も、確実にその一人です。
若いゴルファーは、基礎体力を武器に、用具よりもスイングの完成を目指す流れがあって、オールドゴルファーは秘かに用具にお金を使って足りない部分を補うという流れがあるというのが、自然なのかもしれません。
市場にあるクラブを観察すると、若いゴルファー用の用具は種類が少なく、圧倒的にオールドゴルファー用の用具の種類が多いのが、証明になっていると言えます。
もちろん、そんな種別では売れないので、見る人が見ればわかるという話ですが……
ゴルフの神様はいらっしゃるのだ、と思う瞬間は、多々あります。
お金にものをいわせて、次々に惜しみなく用具を購入するお金持ちゴルファーが、飛び抜けて上手くなるわけではないという現実も、神様のイタズラを感じて、ニヤニヤしてしまうのです。
あくまでも個人的な決まり事ではありますが、ゴルフ用具に使うお金は、全てゴルフの神様へのお布施だと考えているのです。
どんなことになっても、感謝する心を忘れなければ、手に入れた用具は、ちゃんと機能を発揮してくれるものです。用具と相思相愛になれないゴルファーは、ヤングでもオールドでも、未熟なままで、なかなか成長できないという厳しさもゴルフの魅力の一部なのです。
篠原嗣典。ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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