ドライバーは、そもそも何インチからが長尺?
ゴルフそもそも調査部 vol.1|今回の調査テーマ|何インチからが長尺?
現代のゴルフギアは、先人の創意工夫が積み重ねられてきたもの。時に感じる疑問や「なぜ」「どうして」を、それらを形作ったきっかけやエピソードで振り返ってみよう。今回の調査テーマは「長尺」だ。
GOLF TODAY本誌 No.600/148〜149ページより
長尺仕様は約40年前から「一般化」した
シャフトを長くすれば飛ぶ。この単純な考え方は、おそらくゴルフクラブが基本の3パーツであるグリップ、シャフト、ヘッドで構成されるようになった始めからあったのだろうと思う。
だが、カーボンシャフトで軽量化の可能性が見える1970年以前は、試すゴルファーはほんの一握り。競技の記録を振り返っても、長尺ドライバーを駆使して活躍した選手は非常に少ない。
というのも、ヒッコリーシャフトは重量が200g以上。43インチ前後で振るのが通常だった時代に、ねじれやすくて重いヒッコリーを長尺化することは、ミート率のダウンと振りにくさのデメリットが大きすぎただろう。この頃は44インチでも長尺だったということだ。
だが、20世紀初頭の全英オープンで2位に入ったこともある名手、ベン・セイヤーズは、身長約160cmの小兵でロングヒッターに対抗すべく、46インチを使いこなしたという。
スチールシャフト時代では、グランドスラマーのゲーリー・プレーヤーが通常より1インチ長い44インチに変更してキャリーを伸ばしたのが有名。ちなみにライバルだった、同じくグランドスラマーのジャック・ニクラスは短尺42.75インチで300ヤード飛ばしていた。
曲がりやすい糸巻き構造ボールとパーシモンへッドの組み合わせではやはり長尺化は乱れるリスクが大きかったはずで、使いこなすにはかなりの努力が要求されただろう。
カーボンシャフトが登場しても、慣性モーメントの小さいパーシモンヘッドで挑んだ名手は杉原輝雄だけだった。曲がらない打ち方を極め、45インチまで伸ばした。
その状況を変えたのがメタルヘッドとカーボンへッドの普及だ。慣性モーメントが大きくアップしたことで、ミート率のリスクが軽減。プロギアの『μ240』、クレインの『ENA(NASA)』が、44~45インチを一般ゴルファーでもトライしやすい長さに引き上げた。
そして1990年代のチタンヘッドが登場するころには、45インチがスタンダードとなっていった。
杉原輝雄もメタル、チタンヘッドと移行するうちに47インチまで使いこなしていった。
男子ツアーでは長尺化がブーム!?
先日50歳で「全米プロゴルフ選手権」に優勝したフィル・ミケルソン。年齢だけでなく話題になったのがシャフトの長さだった。
ヘッドが広げた可能性と挑戦をルールが制限
ヘッドの大型化、寛容性のアップは米国の女子プロやシニアにも影響があり、1990年代からエミリー・クラインは50インチを使いこなしてツアー優勝を遂げていたし、シニアツアーではロッキー・トンプソンが55インチを振り回していた。
チタンヘッドのサイズが300㎤に届くころ、一大長尺ブームが起きた。火付け役は1998年にフォーティーンが発表した48インチの『ゲロンディー』。プロも使用し、トーナメントでその飛距離性能を見せつけると、各メーカーもこぞって47~48インチのドライバーを市場に送り出すようになった。
『ゲロンディー』はヘッドの軽量化でクラブ全体の慣性モーメントを抑え、シャフトもバット径を太くし、肉厚を薄くすることで軽量化と挙動の安定を促していたが、やはりノーマルほどの振りやすさには及ばなかった。だが、開発者のクラブデザイナー竹林隆光は「今までにないものだから多少の努力は必要。その努力に見合う可能性が長尺にはある」と提唱していた。
だが、21世紀に入るとヘッドの大型化、高反発化と長尺化の〝行き過ぎ〟を止めるルール規制が検討され、2004年に長さの上限が48インチと定められた。ここで一旦、長尺ブームは収まり、45インチがスタンダードの主流となった。
その後ヘッドサイズが上限の460㎤で慣性モーメントを高める中、またぞろ長尺化に挑むプロが登場。ジュニア時代から48インチを使い続け、メジャーを含む10勝を挙げているブルック・ヘンダーソンの活躍や、2021年の全米プロで50歳のフィル・ミケルソンが47・5インチを駆使して制覇など、改めて長尺のメリットが認知されつつある。
こういった流れからか、2022年からツアー競技などでは上限を46インチにする規制がスタート。あくまでもローカルルールだが、いずれゼネラルに移行するかもしれない。
このルールからも46インチ以上が長尺と言えそうだが、ゼネラルルールにも施行されたら、長尺という概念自体がなくなってしまう可能性が高い。しかし、高反発がそうであったように、長さが規制されればそれに代わる手法として、ヘッドの軽量化など、扱いやすさを高めることで飛距離を伸ばす開発が続くだろう。
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