ラウンドする時どんなウェアを着ている?コースではやっぱり、大胆に変身しちゃう派?
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第25回
撮影/篠原嗣典
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
撮影/篠原嗣典
ゴルフウェアの歴史と現在
スコットランドでゴルフが育っていく黎明期、ゴルフは貴族たちの遊びの一つでした。
スポーツとしての進化と用具革命を経ていくうちに、貴族だけでなく余裕のあるお金持ちもゴルフをプレーするようになって、ゴルフコースがあちこちに作られるようになっていきます。
広大なゴルフ専用の用地を確保して、維持していくための仕組みの一つが、仲間で費用などを分担し合う倶楽部でした。
今風にいえば、愛好者が集まったサークルが生まれたのです。
一目でサークルの仲間だとわかるように、お揃いのTシャツを作ったりするのは、古今東西変わりません。
その当時の上級階級のサークル仲間の証は、赤い燕尾服だったようで、伝説のゴルファーたちの絵画はユニフォームのように赤い燕尾服を着ています。(その格好は、フリーメーソンの証で、ゴルフで使う数字にもその影響が見られるのですが、その話はまた別の機会に)
ドレスコードは、まさにこのときの影響が、現在まで形を変えながら残っているものなのです。
仲間だという証明のために、同じような格好でゴルフを楽しみましょうよ、ということです。
基本的には、冠婚葬祭などと照らし合わせれば、理解しやすいと思います。
招待された空間を乱さないために、出席者は普段は着ないような服装だったとしても、無礼がない服装で参加します。それだけの話なのに、誤解があったり、単なるスポーツと同じレベルの常識を持ち出したりするから面倒臭いことになるのです。
日本では、伝統的に同じような影響において独特な進化をした慣習があります。
学校の制服です。
その制服を着るのが嫌なら、別の学校に行けば良いのです。でも、その学校で学びたければ、指定された制服を着るしかありません。
ゴルフも同じです。
ドレスコードは、コースごとのローカルルールです。そのルールを受け入れられないのであれば、そのコースに行くのをやめれば良いのです。
現在、ドレスコードなし、と明言しているコースは、数が少ないですが存在します。
その性質から、閉鎖的な空気感を出したいコースは厳しいドレスコードで、カジュアルでオープンなコースほど、ドレスコードは緩くなっている傾向があります。
平成の約30年間は、ドレスコードが大きく変化した期間でした。
新規のゴルファーが増えない要因として、ドレスコードが厳しすぎるからだ、という説があって、大きな会議などでも議論されたりもしました。
ドレスコードの歴史も知らず、洋服の知識もない人たちが、いくら会議を繰り返しても、当たり前のように何ら結論は出ないままの無駄な時間が過ぎましたが、現場のコースでは、時代に合わせた進化をし続けたのです。
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夢の世界だからこそのコスプレを楽しむ
友人の息子夫婦が、1年前にゴルフを始めたそうです。
自然な流れで、家族でゴルフが出来れば最高だね、という話になりましたが、息子の母親である彼の奥様は結婚前にゴルフをしていたものの、かれこれ30年はゴルフをしていませんでした。もちろん、クラブもとうの昔に処分してしまいました。
友人は、自分と息子夫婦の3人でプレーすれば良い、と考えていたのですが、どういう訳だか、奥様も一緒にゴルフがしたいと言い出したそうです。
ママ友でゴルフが好きな人たちに事情を話して、買い換えて使っていないクラブセットを格安で入手し、平日の昼に少しレッスンに通って、事前の肩慣らしでママ友たちとコースに再デビューを果たすのに2ヶ月とかからなかったそうです。
「昔よりも、今のほうがゴルフが上手になったかも」
とニコニコしている奥様を入れて、4人でコースに行く日を決めました。
ゴルフの日は、あっという間に来て、親子4人でのゴルフは、今までのゴルフとは、一味も二味も違って、本当に楽しかったそうです。これからも定期的にやろうという話になって、めでたし、めでたしでした。
友人にとって、もう一つ、驚いたことがありました。
奥様がミニスカートのゴルフウェアでプレーしていて、息子の嫁よりも、その足がきれいで、惚れ直したというのです。友人は、真剣に、奥様に言ったそうです。
「普段はパンツスタイルばっかだけど、足がきれいなんだから、どんどんミニスカートとか履けば良いのに」
「あんた、バカなの? ゴルフウェアはコスプレみたいなものだからセーフなの。
街中をミニスカで出歩いたら、頭がおかしいおばはんだって、笑われるわ」
と、キレ気味に返されたと、彼は寂しそうに語っていました。
とはいっても、息子の嫁にスコアも勝って、容姿も負けていなかったということは、奥様にとって最高の成果だったそうで、ゴルフを再開して良かったと満足しているそうです。
実は、このような話を聞いたのは10回目ぐらいでした。
コースという特別な空間だから、普段なら着られない色々なウェアを着られるという楽しみが、ゴルフにはある、という話です。
オールドゴルファーには、全くわからない感覚です。
僕は、ゴルフウェアのポロシャツで、買い物にも食事にも、仕事の打合せにも行きます。つまり、普段着とイコールなのです。ゴルフでしか着られないのは、レインウェアとか、防寒ウェアぐらいです。
友人の奥様も同年代ですが、女子の観察眼というか、時代を読み切る力は凄いものです。
よくよく考えてみると、僕の愛妻も、ウサギちゃんと呼んでいるモコモコのウェアを始めとして、何パターンかゴルフコースでしか着られないゴルフウェアを持っています。
知らないうちに、僕もゴルフコースという夢の国の住民になっていて、コスプレを楽しんで良い権利を持っていたようです。
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令和の時代のゴルフウェアは変身アイテムである
ゴルフ歴半年の20代の女子ゴルファーに取材をしたとき、ゴルフを始めるきっかけをこのように話していました。
「友達がゴルフを始めて、ゴルフコースで撮った画像をInstagramとかにアップしていて、それを見ていたときに『あぁ、こんな可愛いウェアなら着てみたいなぁ』ということが何度があったことが、きっかけになりました」
彼女は、父親にゴルフをしてみようかなぁ、と話をしたら、大賛成されて用具を揃えるようにと15万円渡されたのですが、叔母のお古のゴルフクラブをもらったり、職場の同僚や先輩から小物をもらったりして、用具にはお金を使わずに、ほぼ全額をウェアとシューズ代につぎ込んだそうです。
「スコアとか、どこまで飛んだとか、ナイスショットとかもゴルフの快感だと思うけど、何よりも可愛いウェアで自然の中をプレーすることで気持ちが上がるのが最高です」
満面の笑顔に嘘はないのだと思いましたが、本当に令和の新ゴルファーたちは、今までのゴルファーとは違うのだと再確認をしたのでした。
昭和の頃から、ゴルフは変身願望を叶えてくれる魔法なのだ、という考え方はありました。
子供の頃に戻って、無邪気に遊べるのを変身だと思う人もいましたし、人を騙して、蹴落として、勝つことしか考えない日々の生活とは正反対の汚れなき世界がゴルフで、その時間だけは、ただ一人の人間に変身できるのだ、と言った有名な企業の経営者もいました。
令和の時代も、変身して楽しめる夢の世界としてのゴルフは健在どころではなく、ますます進化しているように感じます。
最初にゴルフをしたときに、僕のスラックスは、叔父が用意してくれたクレヨンの緑のようなド派手なカラーで、コレでデビューするのはちょっと嫌だなぁ、と内心は思いました。
昭和の頃は、打球事故を防ぐために、初心者ほど目立つウェアを着ることが奨励されていました。今では良い思い出です。
20代の知り合いの男子ゴルファーは、ゴルフコースで会うと必ず、上から下まで、美しいグリーンのウェアで固めています。そして、言うのです。
「自分は、グリーンが大好きなんですよ」
変身中の彼は、街中で会うときよりも何倍もキラキラしています。
新しい時代の進化を目の当たりにすると、僕は、全く変身できていないようで、寂しい気持ちになります。
しかし、それはそれであり、だという気もしてくるのです。
色々な人たちが、時間と場所を共有するのがオープンなゴルフコースのあるべき姿だからです。
互いに迷惑を掛けない範囲でのそれぞれの変身が、楽しいゴルフの背景として、機能するからです。それは、モザイク画のように、微妙に違うものが重なって完成するのです。
ゴルフの黎明期のゴルフウェアも、ある意味では、日常とは違う変身アイテムの要素があったはずです。
それから数百年後のスコットランドから遠く離れた東の外れの国で、まだまだゴルファーは変身を続けています。
ゴルフの素晴らしいところは、変身したいゴルファーを自分が選べることです。
自らがなりたいゴルファーに変身できているか? というふうに自問すれば、街中と変わっていないと嘆いていた僕も、無意識なのにちゃんと変身していることに気が付くのです。
「ウェアで変身するのは簡単だが、中身まで変身できるのが、ホンモノなのだよ」と言えるゴルファーに、僕はなりたいと思います。
もちろん、呪文と一緒に振るのは、魔法の杖ではなく、ゴルフクラブです。
篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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