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どうしてゴルフでは静寂を求められるの?

ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第26回

2022/07/08 ゴルフサプリ編集部 篠原嗣典

夕焼けのゴルフ場

ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。

撮影/篠原嗣典

音に敏感過ぎる症候群は可哀想?

「おいおい、ここは葬式か?」

日本のゴルフの黎明期を支えた伝説のゴルファーだった赤星六郎氏は、米国留学から帰国して、ゴルフコースに来場して、思わずこのように言ったという逸話があります。
本場のゴルフ事情を知らないまま、伝聞だけでエチケット・マナーを徹底しすぎた結果、シーンとし過ぎたゴルフが日本には広まりつつあったのです。

他者が打つときは、邪魔をしない、というのは、基本的なゴルフの精神の一部ですが、良いショットや良い結果には、言葉で賞賛するのもゴルフの精神の一部ですし、会話を楽しんだりすることは禁止されてはいません。

「打ちますので、お静かに!」
僕は、時々、ティーイングエリアでかなり大きな声を出します。
1番ホールと10番ホールは、大きな生け垣で隔てられているのですが、大騒ぎしている組が隣にいるときなどに、アドレスに入ってから注意するのです。
これは、試打ラウンドで動画撮影をしているときに、マイクが高性能なので、隣のティーで話をしている声が入ってしまって、打音が聞こえづらいから撮り直しになってしまうことを防ぐ苦肉の策なのです。

撮影していなければ、大音量で音楽をかけて踊っている横でも僕は無視して打ちます。
バブル時代には、練習場ではけっこうな音量で音楽がかかっていたりしましたし、大声でしゃべっている人たちがいたりもしました。騒音の中で練習していたのだから、それで集中できないなんてあり得ない、と思っていましたし、若い頃は、打つタイミングで、ワザと音を出して意地悪をするみっともない大人がいたので、そういう輩に負けない意味でも、多少の音には影響されないように訓練をしたからです。

「ちょっとさぁ。ハアハア、とか、うるさいんだけど!」
同伴者が、息を整えている音がうるさいと、グリーン上でアドレスを外しながら、睨むように注意する人も、広い世界には存在します。
本人の中では、それが大きな音に聞こえて大事なのだそうです。

私は息を止めて、パットを見守ります。
打った瞬間に、他のプレーヤーが、一斉に息を吸うのですが、変なタイミングで息を止めて、窒息しそうになってしまうこともありました。

パターカバーのファスナーの音を注意する人は、まあまあの数がいます。
パッティングは、最も神経質なストロークですから、アドレスに入ったら、お互いにできるだけ音を立てないようにしたり、動かないようにするのが正解です。

音を出さず、動かない様子は、遠くから見ると、変則的な『だるまさんが転んだ』のようです。
神経質になりすぎるのは、どうかなぁ、と思いますが、ゴルファーには自分が打つときに、静寂を求める権利があるのですから、音を出さず、動かないのもゴルフ内だと考えて、楽しむのが正解です。

ゴルフは静寂のゲームだという本質を考える

『QUIET PLEASE!』という札

トーナメントを見ていても、選手が打つときは、スタッフが一斉に『お静かに!』という札や、『QUIET PLEASE!』という札を上げて、ギャラリーに静寂を促します。

野球やサッカーなどのスポーツとは大違いです。
コロナ禍で、大声の声援はNGとなって久しいですが、応援で盛り上がるのが観戦の醍醐味だと思っている人たちからすると、ゴルフのトーナメントは異常な光景に見えるようです。

しかし、ゴルフのギャラリーは、静寂を保つことで、その舞台であるホールの一部になって、極端に言えば、選手と一体化するのです。
感覚としては、一体化する瞬間を楽しむという意味で、演劇などの舞台観劇に似ているのかもしれません。

最初に書いた通りに、ゴルファーが打つときに、音による妨害をしないのが当たり前で、そのような見識と理解がある紳士と淑女たちがゴルフをしているという前提でゴルフは進化しましたし、その考え方はゴルフの精神として現在まで引き継がれているわけです。

自分の順番が来たとき、ゴルファーには見えないスポットライトが当たります。
音が消えて、自分だけの世界に浸る一瞬です。
最高の結果が出でも良し。最低の結果になっても良し。この一瞬を繰り返すのがゴルフの醍醐味です。

同時に、無音というのは、物理的に難しいことも知っているのです。

風は吹けば、木々の葉の音や旗竿がはためく音もするかもしれませんし、コースによっては季節の野鳥の鳴き声が耳を和ませることもあるかもしれません。厄介者のカラスは、ゴルファーを馬鹿にしたように「カァ。カァ」と鳴くことありますし、池が近ければ、カエルの鳴き声もします。
自然の音を消すのは無理です。

日本では、無言は否定の意味だと理解させる文化がありますが、欧米では、無言は同意という意味で理解するそうです。
ミスをしたゴルファーには、無言で励ますのが、ゴルフの流儀です。欧米の文化が色濃く影響しているわけです。

静寂を恐れずに、静寂をコントロールしつつ、ケースバイケースで、静寂のゴルフを楽しむのが、賢いゴルファーなのだと思います。

静寂の中でゴルフの声を聴け!

あまり意識しなくとも、知らないうちに、静寂の決まりを守って多くのゴルファーがゴルフをしています。
だから、60ヤード離れたところで、同伴者がボールを打った音が聞こえますし、ドライバーで打ったボールが、200ヤード以上離れた木に当たった音も聞こえるのです。

静寂が守られているからこそ、遠くの小さな音がわかるというわけです。

「今のは良い当たりだったね」
「いやいやトップ目だったよ」
「地面に当たる前にクラブとボールが当たるのが正解で、普段は少しクラブが厚く入り過ぎているんだよ」
「じゃあ、今のが正しいショットなのかね?」
「間違いない」

僕と同伴者が、彼が打った直後に交わした会話です。
同伴者は、一般のサラリーマンとしては、かなりのレベルのゴルフをしますが、それでも、良い打音を理解はしていないのです。

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個人的には、ゴルフが静寂なゲームである最大の理由は、ゴルフクラブとボールの声を聴くためだと思っています。

いわゆる打音は、本当に多弁です。
翻訳すれば、「まあまま」「痛え」「えっ?」「マジか?」「おいおい」なんてバリエーションは、ごく一部です。
それぞれの状況は、少しダフったけどクラブが良いのでちゃんと飛んだとき。どトップ。シャンク。ダフって、目の前の池に。連続ミスショット。それぞれの音は違います。

「サイコー」「GOOD」「超!」「気持ちいい」
ナイスショット。舶来メーカーのボールのナイスショット。スーパーショット。ちょうど良いショット。

クラブだけでは打音はしません。打音は、ボールとクラブの共演なのです。同じクラブでも、ボールによって、かなり違う打音にもなります。

屋根のある練習場や、部屋になっているブース打席での打音も、ゴルフコースで聞こえる打音とは大きく変わります。

良い打音がわかると、ゴルフのレベルは間違いなく上がります。
僕の場合、全て自分のクラブでプレーできる回数は、年間で10回程度ですが、本当に完璧な打音を出せるのは、年に一打あるか、ないか、です。
だから、愛おしいですし、ありがたいですし、もっと上手くなりたい、というモチベーションになるのです。

お葬式か? と皮肉られてから約100年。
仲間とワイワイと大騒ぎして、腹がよじれるぐらい笑いながらプレーするゴルフも面白いです。シーンという音が聞こえそうな静かなゴルフも、やはり面白いのです。日本のゴルフは多様化しながら進化を続けています。

静寂の瞬間を楽しむ権利は、全てのゴルファーが平等に持っている権利です。
クラブやボールの声を聴きながら、メリハリのあるゴルフをするかどうかは、自分次第なのです。
最高の打音を感じる刹那は、ゴルフが永遠であることを教えてくれます。

篠原嗣典

篠原嗣典

ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。


ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】

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