最先端ゴルフサイエンス|飛距離アップするスイング&インパクトの作り方
最先端テクノロジー『Jacobs3D』が解明したパーフェクトインパクトへの道
「重いクラブを自分で制御しようとしない子どものスイングが正解」とはよく言われる。大人は簡単にできないが、個々の身体的特徴がさまざまである以上スイングは百人百様になることは理解できる。これを前提に、クラブの力学と親和性の高いスイングで100%のインパクトを作るのが今回のテーマ。ゴルフサイエンスの最先端を行く「Jacobs 3D GOLF」の力を借りて正しいクラブコントロール術を身につけてもっと飛ばそう!
監修:マツモト・タスク
「Jacobs 3D」に関する内容は、「Jacobs 3D GOLF」のアドバイザリーメンバーであり、日本のアンバサダーとして活動するマツモト・タスクに協力してもらった。
ゴルフクラブにどんなエネルギーを与えているかが判明
ハイテク機器でスイングを測定できるようになり、理想的なインパクトの角度など数値が可視化された結果、ゴルファーの出力をクラブに最も効率よく伝える「運動の連鎖」があることは明らかになっている。タイガー、マキロイ、ファウラーのスイングはみな異なる外見だが、運動の連鎖は同じ。しかし、どうしたらそうなるのかは謎のままだった。
最先端3Dテクノロジー『Jacobs 3D』って何だ?
マイケル・ジェイコブス
アメリカ、ゴルフダイジェスト誌でトップ50、同ゴルフマガジン誌でベスト100に選出されたPGAプロ。持ち前の科学の素養を生かし、グリップの内部で何が起こっているかにスポットを当てた、これまでにない指導を展開。科学者と共同開発した「Jacobs 3D」が全米で大きな話題を呼んでいる。
偏重心のクラブをどうコントロールしているかを明らかにした
ロボット工学者のスティーブン・ネズビット教授が、スイング中のゴルフクラブの挙動を詳細に解析したデータのもと、ブライアン・マンゼラとマイケル・ジェイコブスが共同研究を進めて生まれたのが「ジェイコブス3Dゴルフ」です。
このシステムでは、プレーヤーがグリップに与えるエネルギーを3次元で解析し、偏重心構造の剛体であるクラブをどうコントロールしているかを明らかにしています。
これまでスイング理論は、もっぱら体をどう動かしているか、という視点で論じられてきました。もちろん無意味ではありませんが、クラブの挙動を加味していない、もしくは単純化しすぎていました。そのためスマホで撮影した平面(2D)写真をもとにスイングを深部まで解説するといったことが横行していました。
エネルギーの出し方や出力方向を物理で解明
観測値を目指して体を動かしてもうまくならない
モーションキャプチャーやコンピュータ解析技術の進化により、スイングの動きの詳細な観測が可能になりました。
しかし、これをスイングの改善に役立たせるのは難しい。観測値はあくまで結果であり、クラブに加えるエネルギーの要因やその与え方、ベクトルなど「どうしてその観測値になるのか?」はわからないままだからです。
ゴルフ力学ではその要因をキネティクス、結果をキネマティクスと定義しています。一流選手たちの数値(キネマティクス)を目指して体を動かそうとする行為には意味がありません。体の使い方や体力は百人百様だからです。
我々のシステムは、プレーヤーがクラブとの唯一の接点であるグリップに、何をどう起こせばいいのかをつまびらかにします。
これまで謎に包まれていたキネティクスの領域に踏み込めたことで、クラブに正しく効率よくエネルギーを与える方法がわかった。加えて、それさえできれば体は自由に使えることも明らかになったのです。
グリップを通じてクラブに伝わるエネルギーを解明
ポイント1. クラブの動きは物理学に支配される
400年あまり変わらない形状のゴルフクラブとはいえ、つまるところは物体。物理学的には不規則な形をした物体であるため「剛体の物理学」に支配される。物理に則して動かないと正しく働かない。
ポイント2. クラブの挙動はニュートン力学で説明できる
剛体の力学=ニュートン力学。プレーヤーがグリップに与える三次元エネルギーの詳細や剛体の質量(重量)などは、ニュートン力学でその物理的関係性がわかる。
ポイント3. スイングは直線運動と回転運動でできている
クラブの運動は直線運動と回転運動からなり、ニュートンの「運動の第二法則」にある直線運動方程式と回転運動方程式によって解説できる。
◆運動の第二法則
力が物体に作用すると力の向きに加速度を生じる。
その大きさは力の大きさに比例し質量に反比例する。
直線運動方程式
F(N・直線運動)=m(kg・質量)X a(m/sec2・速度)
回転運動方程式
T(Nm・回転運動)=(kg・m2) X a(rad/sec2)
ちなみに直線運動は全体エネルギーの3分の2、回転運動は同様に3分の1を占める。
ポイント4. スイングはヒジから先の物理
クラブを効率良く動かすには、ヒジからクラブヘッドが物理的に一体化するようショートサムで握ることを基本とする。
ジェイコブス3Dでは「ヒジから先はクラブの物理学に支配される」が大原則。これを前提に、クラブと体がつながっているグリップに、どのような動力を与えたらいいのかを解明している。
ポイント5. クラブの動きは3つの軸で考える
シャフト軸に沿った軸。
プレーヤーの横方向(飛球線方向)に想定した、クラブの重心を通ってシャフトに直角な軸。
プレーヤーを飛球線方向から見た時に、クラブの重心を通ってシャフトに直角な軸。
スイングの本質はクラブの重心をコントロールすることだ!
ゴルフクラブの重心はシャフト軸上でなく空中にある
クラブは偏重心の道具です。重心はシャフトのバランスポイントの付近にありますが、シャフト軸上ではなく空中に存在します。
重心付近(ネックの上あたり)を握って手を20センチ右に平行移動すればヘッドも同様に20センチ動きます。でも、これではボールを遠くに飛ばせないので重心から離れたところを握るわけですが、その途端にクラブはとても扱いづらくなります。手元を20センチ右に平行移動してもヘッドは5センチほどしか動かないでしょう。こういったことがスイングの随所で起こります。
野球のバッティングでも、ボールがバット上の打撃中心(芯)に当たるようなバットコントロールが求められます。
重心位置が異なるため一筋縄ではいきませんが、ゴルフも同様で、空中にあるクラブの重心をコントロールできるとフェースの芯にボールを当てることができます。スイングとはクラブの重心をコントロールする作業。とりわけ重要なのは、クラブに余計な重心運動をさせないことです。
クラブが扱いづらいのは重心から離れたところを握るから
重心は空中にあるクラブの物理を理解するとスイングが良くなる。
同じボールを打つスポーツでもグリップの延長線上に重心があればコントロールしやすい。
クラブも重心付近を持てば手の動きと連動するが、これではボールを遠くに飛ばせない。
スイングプレーンはデコボコだった
クラブにエネルギーを手あたえる唯一のポイント「Hub」
ハブパスは3次元のランダムな曲線で、クラブパスと同一のプレーン上にはない。ジェイコブス3Dにより伝統的な一枚板のスイングプレーンは否定された。
理想的な 「ハブパス」は 指紋のような存在
る最重要ポイントはグリップです。ジェイコブス3Dでは、両手とグリップの接点をハブ(Hub)と定義し、スイングで描かれるハブの軌跡をハブパス(Hub Path)と呼びます。
キネティクスエネルギーの与え方やタイミングは人それぞれ。また、クラブもさまざまなので、与えた動力に対するクラブの反応もそれぞれ違います。つまり、体の制限や自由度、クラブのスペックによりハブパスはさまざまなになる。いわば指紋のようなものですから、スイングの構築とはプレーヤーが個々に理想的なハブパスを目指すことです。
コンピュータ解析能力の向上により、ハブパスは円でないことが判明しました。それだけではなく、円を描かないことが効率的なスイングのポイントであることもわかってきました。
ジェイコブス3Dでグラフィックス化したハブパスを見ると非常に不規則な3D軌道を描きます。ベン・ホーガンのスイングプレーンをはじめ、多くの解説ではグリップパスを平面の円だと想定していますが、そうではなかった。日本のゴルフレッスンでは、見た目を目指すことが多いと聞きますが、スイングを複雑にするだけなので要注意です
キーワード1. 『フォース』クラブの直線運動
クラブの重心を直線上に動かすエネルギーを「フォース」という。フォースはプレーヤーが能動的に与えるエネルギーで、α、β、γ、それぞれの軸線上で生じる。
γ軸に平行に直線運動させるフォースがγフォース。γ軸上を下方に働くフォースはポジティブγフォース。上方に働くフォースはネガティブγフォース。
β軸と平行に直線運動させるフォースがβフォース。β軸上をバックスイング側に働くフォースはポジティブβフォース。フォロー側に働くフォースはネガティブβフォース。
α軸に対して平行に直線運動させるフォースがαフォース。α軸上をヘッドのトゥ側に働くフォースはポジティブαフォース、ヒール側に働くフォースはネガティブαフォース。
トッププロはみんなクラブを引き続けている!
重心をコントロールする=重心を引き続けること
クラブの重心コントロールは、スイング中にグリップを引き続けることによってなされます。
雪道では後輪駆動車より前輪駆動車のほうが強いですが、これは重心を引くように動くから。スイングも同じで、クラブを引けば安定して重心を意図する方向に動かせる。押せば不安定になる一方です。
例えばアマチュアの多くは切り返しでクラブが暴れますが、その大きな原因は、飛球線と逆方向にクラブを引かないからです。
PGAツアーのプレーヤーたちはみな、切り返しで飛球線と逆方向にフォースを与えていることがジェイコブス3Dのデータで判明しています。こうするとダウンスイングでクラブが遠回りしてアタックアングルがシャローになります。キャスティングやアーリーリリースを想起させるエネルギー負荷の結果、外見的に“タメ”ができるのです。
日本のレッスンでは「ダウンスイングでタメを作る」と教えられるようですが、その際、飛球線後方ではなくボールに向かってグリップエンドを下ろしているとしたら間違い。プロの外観をそのままマネているだけで、グリップに与えられるキネティクスは理想のエネルギー負荷にはなりません。
ハーフウェーダウンまでどう動くかがスイングのすべて
日本のゴルファーの“タメ”は効率的なタメではない
スイングではデリバリーポジション(ハーフウェーダウン)にクラブが下りた途端に強大な重力負荷がかかるので、それ以降プレーヤーはほとんど何もできません。唯一できるのはシャフトを旋回させることくらい。そこまでクラブを管理して正しいベクトルでエネルギーを作ることができれば、誰もが理想的なインパクトを迎えられます。
切り返し以降のテーマは、ダウンスイングで発生させる膨大なGロード(重力負荷)の初期ベクトルをどう確保し管理するかです。
PGAツアーおよびLPGAのトッププロと日本人プロ、特に日本人女子プロのスイングをジェイコブス3Dで解析した場合に、最も相違を見せる点がこの切り返し直後のキネティクスでした。
日本の大半の女子プロ、相当数の男子プロ、そしてアマチュアプレーヤーは、切り返し時点でシャフト軸にβフォースをかけてクラブヘッドをボールに向かわせています。そしてクラブヘッドが遅れてくるように感じるローテーションを“タメ”と勘違いし、インパクトまでグリップを直線的にボール方向へ引きつけています。
この切り返しにおける初期エネルギーは、外観的にはクラブが寝るようになるため日本ではシャローイングと同一視されますが、PGAツアープレーヤーのシャローイングはそのようには実現されていません。
キーワード2. 『ローテーション』偏重心がまねくクラブの特異な動き
プレーヤーは重心から距離のあるグリップを握っているためクラブには複雑な力学的作用がもたらされる。例えばプレーヤーが20センチ直線移動させるネガティブβフォースをかけてもヘッドがついてこない。
このように、フォースをかけた結果生まれる回転運動をローテーションと呼ぶ。
α、β両軸方向へのフォースによってクラブに派生するローテーションは、クラブの軌道に大きな影響を与える場合が多く、これがスイングを非常に難しくしている。
一方、γ軸線上にかけるフォースは、クラブの運動にほとんど影響しない。ダウンスイングでクラブを旋回できるのはそのためだ。
キーワード3. 『トルク』クラブの回転運動
プレーヤーが手首を掌屈(手のヒラ側に折る動き)、背屈(手の甲側に折る動き)、コッキングなどでプレーヤーが能動的にクラブを回転させる運動がトルク。トルクはα、β、γ、の3つの軸線上で生じ、おもにローテーションを相殺するエネルギーとして使われる。
α軸を中心に直角に回転させる運動がαトルク。飛球線方向への回転運動はポジティブαトルク。反対方向への回転運動はネガティブαトルク。
β軸を中心に回転させる運動がβトルク。トゥのほうへ回転させるエネルギー(コック)がネガティブβトルク、ヒール方向へ回転させるのがポジティブβトルク。
γ軸を中心に回転させるエネルギーがγトルク。シャフトを中心にしたクラブの回転運動で、フェースが閉じる方向への回転運動がポジティブγトルク。フェースが開く方向への回転運動がネガティブγトルク。
イラスト/富士渓 和春
取材協力/Jacobs 3D GOLF
写真/Getty Images
GOLF TODAY本誌 No.575 20〜27ページより
【関連】
・ゴルフスイング新常識|スイング中クラブは引きながら使う
・ゴルフレッスン|ドライバーは“今どき”ダウンスイングで真っすぐ飛ばそう!
【『Jacobs 3D』が解明したパーフェクトインパクトへの道】
●最先端ゴルフサイエンス|飛距離アップするスイング&インパクトの作り方
●Jacobs 3Dが解明!効率的なゴルフスイング&クラブコントロール
●【対談】マツモト・タスク×三觜喜一|『Jacobs 3D』がもたらすもの