2021 MASTERS Review|不調だった松山の優勝への秘策
マスターズ直前に松山が変えていたこと
2021年の松山英樹は明らかに調子を落としていた。マスターズ前週までの9試合で予選落ちが2回もあり、1度もトップ10に入った試合はなかった。2018年以降は1度も優勝していない。それが一転してマスターズではアジア人初のマスターズ優勝を達成。その裏には、松山英樹の変化と秘策があった。
GOLF TODAY本誌 No.588 97〜103ページより
チーム松山の変化と勝利の予兆。
今年のマスターズの優勝予想で松山英樹はノーマークの大穴だった。しかし、松山英樹本人は開幕前日の時点で手応えを感じていたと語る。
「オーガスタにきて月曜日、火曜日、水曜日と時間がたつにつれてスイングが良くなっていったし、フィーリングも良くなった。だから、水曜日の時点で“今年、行けるんじゃないか”という気持ちになっていました」
そこには1週間前の「バレロテキサスオープン」での反省もあったそうだ。
「あの試合は初日が良かったのに、その後の3日間が良くなくて、ずっと怒っていた。他の人に当たったり、チームのみんなにも迷惑をかけたので、そのときに“何やってんだろう”とハッとした。それをマスターズの前に気がつけたのは大きかったと思います。マスターズではミスも受け入れて、今週は怒らずに、やってきたことを信じようと思いました」
その言葉通り、今年のマスターズは松山英樹が初日から笑顔を見せたり、リラックスしている表情が目立っていた。単独トップで最終日を迎えた朝も早藤キャディ、目澤コーチとともに練習グリーンで談笑しているシーンがあった。実は、この二人もここ数年の“チーム松山”にとって大きな変化だった。専属キャディをつとめる早藤将太は2019年から、そしてプロゴルファーになってから初めて松山がコーチ契約を結んだ目澤コーチとは昨年10月に出会って、今年1月からプロ契約を結んだばかり。しかし、この新しいチーム松山について良い兆しを感じていたのが、かつて松山英樹の専属キャディだった進藤大典だ。進藤は、昨年12月に松山英樹とプライベートでラウンドしたときに驚いたそうだ。
「すごくスイングが良くなっていたので、21年は最低でも2勝できると思うと本人に伝えました。私はスイングの専門家ではありませんが、すごく調子が良さそうで、ロボットのように再現性の高いスイング軌道になっていた。ボールを打つまでのテンポやリズムもすごく良かった。目澤コーチとは毎日やりとりしていると言っていましたが、それも良い方向に進んでいるなと思いました」マスターズ直前に発表された公式サイトの優勝予想でも圏外だった松山だが、チーム松山には勝利の予兆があったのだ。
目澤秀憲
めざわ・ひでのり/1991年2月17日生まれ。日大ゴルフ部出身で、卒業後は渡米してTPIレベル3を取得。その後は河本結、有村智恵などのコーチとなり、2021年から松山英樹とコーチ契約。
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早藤将太
はやふじ・しょうた/1993年10月7日生まれ。松山英樹の2学年下で明徳義塾高校、東北福祉大学と同じ道を歩んだ後輩。卒業後は選手としてPGAツアーチャイナなどにも出場した。2019年から専属キャディを務める。
●解説
進藤大典
しんどう・だいすけ/1980年7月3日生まれ。宮里優作、谷原秀人の専属キャディをつとめ、2013年から2018年まで約6年間にわたって松山英樹の専属キャディをつとめた。現在は解説やレポーターだけでなくYouTubeでも活躍。
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マスターズの最終日を振り返る
最終日の1打目は3Wで打って右の林へ。3打目でグリーンに乗せたがパーパットが入らずボギー。
2打目をグリーン手前のバンカーまで持ってくると、バンカーショットを1メートルにつけてバーディ。
1打目をレイアップするも2打目はグリーン奥。そこからスーパーアプローチでパー。
ピンまで約20メートルを残すもファーストパットを1メートルにつけてパーセーブ。
1打目をバンカーに入れてしまうが、5メートルの長いパーパットを沈めてピンチを凌いだ。
8番アイアンでピンの手前4メートルにつけるが、バーディパットが右に外れてパー。
2打目はピンを攻めてカップ1メートルにつけるもバーディパットを外す。
右のラフからツーオンを狙うが右の奥へ外れる。ウェッジで寄せてバーディ。
2打目をカップ1メートルにつけて2連続バーディ。2位に5打差でハーフターン。
3Wで確実にフェアウェイをキープすると、2打目でしっかりとグリーンをとらえてパー。
池を避けて打った2打目はグリーン右にこぼれたが、そこから寄せてパー。
1打目を奥のバンカーに打ち込むと、バンカーショットは手前につけて2パットのボギー。
ドライバーは右に曲げるが木に当たってラフまで戻ってきた。3打目で寄せてバーディ。
2打目でパーオンに成功するも5メートルのバーディパットを外してパー。2位とは4打差。
2打目を奥の池に打ち込んで大ピンチ。4打目もグリーン手前につけてボギー。2位とは2打差。
シャウフェレが1打目をミスして左の池に。松山はグリーン右から攻めるも3パットのボギー。
2位が入れかわり2打差のザラトリス。1打目でフェアウェイキープすると無難にパー。
1打目でフェアウェイキープするも2打目は右のバンカー。そこから2パットのボギーで1打差の逃げ切り。
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大好評のゴルフライターのT島さんのコラム。今回のテーマはシャフト。新しいものの方が良いものだと思ってしまいがちですが……...
難所のアプローチが完璧。
ドライバーも安定していましたし、アイアンの精度もPGAツアーのトップレベルで、今年はパッティングも良かったですが、勝ちきれた要因はアプローチだと思います。
私も丸山茂樹選手の専属コーチとしてオーガスタに行きましたが、オーガスタは12番、15番、18番とか「絶対に寄らないアプローチ」っていうポイントがいくつかあるんです。今年の松山選手は、そこからでも寄せていました。
象徴的だったのは3日目の18番。2打目を奥に打ち込んでしまって、下り傾斜から高速グリーンを狙うアプローチが残りましたが、松山選手はここから寄せてパーセーブした。そのパーによって、3日目は1イーグル5バーディの「65」が出て最終日につながった。もし、あの神業的なアプローチがなくて18番がボギーとかダブルボギーだと、最終日の展開も変わってきたと思います。
最終日も15番で池に落とした後のアプローチはすごく難易度が高いのですが、慎重に手前に寄せてボギーでおさめた。
4日間を通してパターも入っていましたが、それはパターが入る距離までアプローチやバンカーショットをしっかり寄せていたからです。
●解説
内藤雄士
2001年には日本人初となるツアープロコーチとしてマスターズ、全米オープン、全米プロを経験。丸山茂樹の専属コーチとしてPGAツアー3勝に貢献。
300ヤードを“置き”にいけるドライバーの強弱。
今大会はコロナの影響もあって、現地解説には行けませんでしたが、テレビで見ていた私も泣きました。今まで、現地で何度も悔しい思いをしていた松山選手を見ていましたからね。
2011年の頃から松山選手を見ていると、元々フェードヒッターだったのが、ここ2、3年はドローボールをよく打っていた。それが今年は本来のフェードボールで上手く攻めていたと思いました。最近のマスターズを振り返ると、松山選手は“置きにいくティショット”でミスが出る場面が多かったですが、今年は置きにいったショットがほぼ完璧にフェアウェイを捉えていました。一方で、イーグルやバーディを狙えるパー5ではしっかり強振して強いボールも打っていた。そんなドライバーの強弱を上手く使い分けることで、3日目にはスコアを一気に伸ばして、4日目には我慢のゴルフができたと思います。
特に“置きにいくティショット”の技術を感じたのが最終日の17番と18番。15番で池に入れて、16番もボギー。2位と2打差に迫った状況で、17番も18番もドライバーで打ったティショットをフェアウェイにキープした。その精度が優勝につながったと思います。
●解説
加瀬秀樹
日本ツアー通算4勝を誇り、97年にはPGAツアーにも挑戦。例年、TBSの現地解説としてマスターズを訪れていた。
日本ツアーのマスターズ経験者からも祝福
石川遼「英樹にできて、自分にできないことがある」
松山英樹と同学年の石川遼は「すごいなという気持ちとともに“やる感じ”はありました。よく、“彼にできるなら自分にもできる”という言葉がありますが、英樹にできて自分にできないこともある。それを補ってスコアを作るのがゴルフの面白さ。すごく刺激になりました」と語った。
金谷拓実「初めて、ゴルフの試合を見て泣きました」
アジアアマ優勝、アマチュアでのマスターズ出場と先輩・松山英樹と同じ道を歩んでいる金谷拓実は「ゴルフの試合を見て初めて泣きましたし、感動しました。でも、『グリーンジャケットを常に持ち歩こうと思います』と言っていたのは、ちょっとかわいいなと思いました(笑)怒られるかな」とコメント。
今平周吾「アイアンの精度と高さは海外のトップ選手以上」
2019年、2020年と2年連続でマスターズに出場していた今平は、松山の技術レベルを絶賛。「優勝はものすごいことだと思います。松山選手はPGAツアーのトップ選手と比べてもアイアンの精度と高さは上だと思います」と称賛。
片山晋呉「すごい!」では失礼。85年の壁を打ち破った
松山英樹が優勝するまで、マスターズでの日本人最高となる4位の記録を持っていた片山は「すごい!の一言では失礼ですけど、85年、誰も打ち破れなかった壁を打ち破った。生きているうちに日本人の優勝が見れたという、何とも言えない感覚」と語った。
藤田寛之「映画のワンシーンを見ているようでした」
40歳を超えてから2度のマスターズ出場を叶えた藤田寛之。「現実とは思えなくて、最後の方は映画のワンシーンを見ているようなすごさを感じました。グリーンジャケットも似合っていましたね」と感動していた。
19歳での初出場から10度の経験を生かした
日本人は20代後半で初出場が多かった
4日間で何度かピンチはあっても、決して無謀なショットは打たず、クレバーなコース攻略で一度もダブルボギーを叩かなかった松山英樹。29歳にして10度目のマスターズ出場の経験が、最終日に猛追をみせたザンダー・シャウフェレやウィル・ザラトリスとの差だったのかもしれない。
過去のマスターズを振り返るとドライバーを曲げるシーンが目立った2019年、パッティングに苦しんだ2017年などもあったが、今年はティショットからショートゲームまで全ての課題をクリアしていた。試合展開でも初日に「80」を叩いて予選落ちした2014年や、最終日を3位タイで迎えるもスコアを落とした2016年もあったが、今年はその経験を生かして伸ばすところは伸ばして、耐えるべきところは耐えていた。今までの日本人選手は20代後半でマスターズに初出場する選手が多かったが、松山は29歳で10度目。若くして経験を重ねたことが日本人初の栄冠につながったのかもしれない。
2011[27位タイ]19歳で日本人初のローアマ獲得!
2012[54位タイ]アマチュアでの2年連続出場も涙。
2014[予選落ち]初日に「80」を叩いて予選落ち
2015[5位]最終日を振り返り、「勝てる試合だった」
2016[7位]タイ2打差の3位タイで最終日を迎えるも…
2017[11位]タイパットに苦しんで、18番で4パット
2018[19位]親指のケガから復帰も苦戦
2019[32位タイ]フェアウェイキープに苦しんだ
2020[13位タイ]秋のオーガスタは2日目で6位タイ
2021[優勝]4打差リードで最終日!アジア勢初の栄冠
写真/マスターズトーナメント Getty Images 本誌編集部
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