ゴルフに慣れろ! そして、慣れるな!
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第14回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
ゴルフに慣れるメリット
「忙しくて、練習が全然出来なくてさ。今日はたぶん、ダメだわ」
朝のゴルフコースで、どこからともなく聞こえてくるセリフです。春本番で、満員御礼になってきたゴルフコースでは、まるで挨拶のようです。
学生の頃も、本当はバッチリ試験勉強をしているのに、謙虚なのか、変な言い訳なのか、試験勉強をしていないアピールする仲間は教室に何人もいたものです。
ゴルフの場合は、必死でした練習の成果はなかなか出ません。
しかし、本当に練習できなかったときに限って、信じられないほど良いスコアでプレーできたりするのがゴルフの面白さだったりするのです。
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楽しみにしていたゴルフの前夜。
早起きをしなければならないのに、なかなか眠れない、ということもよくある話です。先程のセリフと同じぐらいに、こんなセリフも耳にします。
「昨日の夜、眠れなかった。寝不足だから、太陽が眩しい」
ゴルフは大人の遠足だといわれるのは興奮状態になって、普通ではいられないからです。
コレもゴルフの内だと考えれば、楽しい気分にはなりますが、本人にとっては大問題です。
ゴルフに夢中になった人であれば、大なり小なり、こういう経験はしているものですし、ゴルフ歴が十年を超える人でも、いつまで経っても、ゴルフの前夜は眠れない、という相談をされたことが何度もあります。
いずれにしても、ゴルフでは、平常心が大事だということは、早い段階で多くの人が理解をしますが、残念ながら理解をするだけで、全ての人が平常心を保てるハウツーを得られるわけではないようです。
99%の確率で劇的にゴルフのスコアが良くなる方法は、毎日、ゴルフをすることだ、と言います。質の悪いジョークだと、非現実的過ぎるハウツーに怒る人もいます。
しかし、僕の周囲で、このハウツーで失敗した人は皆無です。毎日は無理でも、年間200ラウンドぐらいであれば、知恵と努力と根性でクリアすることは出来ます。(練習場なら、と考える人がいますが、残念ながら、ショットが少し上手くなるだけで効果は全く違いますので、あしからず)
ゴルフをすることを日常に出来れば、平常心でゴルフをすることが簡単にできるようになるというわけです。
10代の頃、僕の悩みは、ゴルフが出来る幸せに興奮してしまって、平常心でプレーできないことでした。
年間200ラウンド目標を提案してきたのは、有名なプロゴルファーでした。
「とにかく、ゴルフに慣れることだ。慣れれば、興奮することのほうが難しくなる」
僕が、ゴルフに慣れた、と自覚したのは、20代になってからで、初めて年間80ラウンドを超えた年の途中からでした。翌朝が、どんなに早起きでも、普段の夜と同じように過ごしたほうが、結局は、ゴルフに悪い影響が出ないとか……
経験を積んだことと同時に、自分なりの結果が出るルーチンが身に付いたのだと思います。
ゴルフに慣れたことで、僕のハンディキャップは、片手で数えられるようになりました。
スコアアップという側面に特化して考えれば、ゴルフに慣れることは本当に大事なのです。
全ては等価だという真実
「あの一打で、流れが変わった……」
というシーンが、ゴルフではよくあります。18ホールというドラマの中には、山あり谷ありで、いくつも分かれ道が存在するからです。
だから、多くのゴルファーは、目の前の特別な一打になる可能性があるストロークに慎重になります。
ジュニアゴルファーを育成する仕事をしていた頃、小学生だった石川遼プロのプレーを見て、彼の将来の成功を確信したときがありました。
管理者用のカートに乗って、進行に遅れがないかとチェックをして回っているときに、選手たちの邪魔にならないように近くに行かずに、遠くから見守るのですが、グリーン上でプレーしているジュニアたちを見ていて、そのパットが、バーディーパットだというのは、とてもわかりやすいのです。
多くのジュニアは、バーディーパットになると、慎重になり、“時間を掛ける”からです。
特別にすればするほど、パットは決まらなくなります。
石川少年は、そういうシーンで、何パットを打っているのか、全くわからないジュニアの一人でした。バーディーパットも、イーグルパットも、パーパットも、全く同じルーチンで、悪くいえば雑、良くいえば思い切り良く打つのです。
パットを簡単に決めるコツは、特別という難しさを自らで作らないことだというのは、世界中のツアーでは常識です。
プロ入り後しばらくは、石川プロは、“早く入れたい”と言わんばかりに、簡単にパットをしていて、それが決定率の高さに直結していました。
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ゴルフに慣れると、余裕が生まれます。その余裕は、ときに不確かな知識を得て、実行する原動力になり、概して、特別な一打を大事にし過ぎるようになるのです。
成功体験とリンクしない知識は、極論を書くと、ほぼほぼ勘違いがあるか、間違いです。
確かにゴルフには、ゴルファーの数だけ18ホールの物語が準備されています。
しかし、18ホールの中の起承転結は、どれが欠けても物語が完成しないのです。起承転結で力加減を変える必要はないのです。
平常心を保つことで得られていたプラス面は、特別にかき乱されると、簡単に失われてしまいます。
練習不足や寝不足という言い訳は、多くの場合、誰の得にもなりません。それと同じように、特別を自らが作り出して、失敗するためのルーチンにしてしまうケースが多いのです。
たくさんのゴルフの達人たちが、異口同音に言っています。
「ゴルフにおいて、長い目で見れば、全てのストロークは等価なのである」
ゴルフに慣れることの究極型は、特別なことなどないと達観することなのかもしれません。
ゴルフに慣れるな!
ゴルフに達観してしまうと、ゴルフはつまらなくなるという説が根強くあります。
ハッキリと否定したいと思います。
この説を信じる人たちとゴルフ談義をたくさんしてきました。達観したら、ゴルフが面白くなくなって、やめてしまうと思うなんて言うのですけど……
誤解しているのです。
とても似ているからしかたがないのですが、達観することは、色々なものを諦めることではありますが、その中に自分を諦めるということは、含まれません。
ゴルフをやめてしまう=自分を諦める、ということで、ゴルフを達観する内容とは全く別なのです。
でも、ゴルフの回数には限界があるし、言い訳しながら失敗し続けるゴルフだって、ゴルフだよね、という考え方も正解だと個人的には思うのです。
ゴルフに慣れることで、初めてゴルフをするようになって味わっていたワクワクやドキドキは失われます。
ゴルフは残酷で、ある程度の経験以降は、得るものがあれば、交換条件のように失うものがあるようになります。
ゴルフ慣れることで、ステップアップすることを推奨していますが、同時に思うのです。
“ゴルフに慣れすぎるな!”と。
慣れることと、舐めることは似ているので、注意が必要です。舐めることで得られるプラスは確実にありますが、失うものが大きいからです。
例えば、ゴルフに慣れてくれば、大失敗に対しても“次を頑張れば良い。未来のための努力をしよう!”と考えられるようになってきますが、舐めたゴルフは、“今日はダメな日だから、適当にやれば良いや”になってしまうのです。後遺症に苦しまないプラスはありますが、ゴルフの実力は低レベルのまま、と評価されるようになります。
良いスコアはマグレに、悪いスコアは実力に感じるのも、ゴルファーの心理なのです。
さて、ゴルフ歴も40年を越えて、一般的なゴルファーよりもたくさんの経験を積んで、血が滲むような努力も惜しまずにやってきた僕は、ゴルフに慣れ切っている一人です。
だからこそ、言えることがあります。
「ちゃんと見つめれば、ゴルフは、全てが新鮮で、底なしであることを裏切らないゲームだ」
初心者とは違いますが、ゴルフでワクワクしたり、ドキドキしたりしていますし、未熟だと痛感することばかりです。そして、そのたびに思うのです。
「だからゴルフはやめられない」
篠原嗣典。ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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