こわい打球事故!危険を察知して安全なゴルフを!
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第15回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
ゴルフボールは凶器に変わる!
その日、そのホールのティーマークが、かなり後ろにありました。
カートストップにカートを止めても、ティーマークのカート1台分右前にカートがある位置関係になったのです。
「あっ!」「ボン!!」
同伴者が打ったドライバーの先っぽに当たったボールは45度ぐらいの角度で右に飛び出して、カートに向かって飛び出しました。僕は運転席に座っていて、『やばい。当たるかも』と、瞬間的に身体に力を入れました。5ヤードぐらいしか距離がないので、避けようがありませんし、ボールが来た予感はするものの、ボールは全く見えていませんでした。
ボールは足元のカートのタイヤに当たって、跳ね返ってティーの後ろにある池に向かって飛んでいきました。
ボンというのは、タイヤに当たった音でした。
「ごめん。ごめん。大丈夫だった?」
打った張本人は、顔色を変えて、カートに向かってきました。ボールの速度が速かったので、どこに飛んで行ったのか、どこに当たったのか、わからない様子でした。
池に入ったのも、水に入った音がしたからわかっただけで、僕もボールは見えませんでした。
タイヤを見てみると、ボールの跡がハッキリついていました。ディンプルの跡もわかりました。
打球事故にならずに良かった、と胸をなで下ろしました。ゴルフの神様に感謝しつつ、こういうケースでは、カートストップではなく、その手前にカートを停車させるようにしないとダメだと猛省したのでした。
社長がいる前の組に、2度も打ち込んじゃった(わざとじゃないよ)!
ゴルフは基本2~4名の組が複数組、同じコースを楽しんでいます。そして、プレーヤー全員が思ったところにボールを打てるわけ...
打球事故は、被害者になっても、加害者になっても悲劇です。
ゴルフ人口が急増して、打球事故が増えてきたという報告もありますが、ほとんどの打球事故は、後から考えると、未然に防げるものなのです。
ゴルフボールは、普通の人でも、特急列車ぐらいの速度で打ち出されますし、かなり小さい面積にそのエネルギーが集中するために、当たり所が悪いと打球事故で失明したりするケースが起きるのです。
後ろに人がいるのに気が付かずに、振ったクラブに当たる事故もありますし、目の前に人がいるのに素振りをして、ダフった地面から飛び出した小石が目に当たるという事故も報告されています。
どちらも、ゴルフのエチケットを守っていれば、絶対に起きない事故です。
ゴルフ歴がもうすぐ半世紀になりますが、弱々しく転がってきたボールを余裕で避けられるとジャンプし、身体が意図した半分も動かずに当たったことはありますが、打球事故の加害者にも、被害者にもなったことはありません。エチケットを守ってきた賜物です。
しかし、同伴者が救急車を呼ぶような打球事故を起こしたことはあります。
ボールを取りに行く礼儀作法を確認しよう!
林の中で、同伴者の「打つよー」という声がして、木にボールが当たった音がして、「痛っ!」という声がしたことがありました。しばらくして、林からボールが出てきて、同伴者も出てきました。
「きゃー」とキャディーさんが悲鳴を上げたので、視線を向けると。同伴者は血だらけでした。
「参った。眼鏡が割れちゃったよ」
と同伴者はニヤッと笑ったのですが、口まで血だらけだったので、ホラー映画のようでした。
昭和時代の話です。
朝から全開でお酒を飲んでいるので、出血するとたくさんの血が出ました。「目は大丈夫ですか?」と聞くと、切れたのは眉間で、目は大丈夫だと返事がありました。
目の前の木に、打った球が当たって、跳ね返ったボールが眼鏡を直撃して、割れた眼鏡の破片で眉間が切れてしまったようです。
それでも、ボールを打ち出してきたわけです。キャディーさんも、僕も、プレーをやめて、コースのスタッフを呼ぼうと話しましたが、本人は、冗談じゃない、このぐらいの怪我は、ツバをつけておけば治ると、聞き入れませんでした。
タオルで出血点を押さえながら、同伴者はその後の3ホールをプレーして、結局、救急車を呼んでもらい病院に行きました。4針縫った、と笑顔で戻ってきたのは、3時間後でした。
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この打球事故は、自打球ですから、被害者と加害者は同一です。大事になりませんでしたが、白いタオルが次々に真っ赤になっていくシーンは、今でも鮮明に覚えています。
打球事故の多くは、ミスショットしたボールが飛んでいった先に人がいて、当たってしまったというものです。
同じ組ではなく、隣のコースの人に当ててしまうのです。
構えているときは、フェアウェイを狙っているので、それ以外の場所は、案外とわからないものです。
ボールを探している人も、懸命になって下ばかりを見て探しているので、隣のコースに入っていることもわからず、いきなり飛んできたボールに直撃してしまうようです。
このケースの打球事故は、昭和の頃に比べると、平成、令和と激増していると言われています。
昭和のゴルフは、キャディー付きのプレーが当たり前だったので、注意喚起があったという点がありますが、それ以前に、隣のコースでボール探しをする際の決まり事を、初心者のときに徹底的に叩き込まれたから、未然に事故が防げていた可能性が高いと僕は考えています。
ミスショットは出てしまうものなので、しかたがないと考えて、ボール探しには“お邪魔する”感覚が大事なのです。
優先権は、そのホールをプレーしている人たちにあります。
ボールを打っているのに、ボールを取りに行くのは危険な自殺行為で、御法度なのです。
木の陰などに隠れるようにして、全ての人が打ち終わるのを待ってから、「失礼します」とか「お邪魔します」とか、大きな声で挨拶をして、ボールを取りに行くのが正しく安全なハウツーなのです。
目の前にボールがあるのに、そのホールにいる組が、なかなか打ち終わらないので、ボールが拾えずに、時間がかかることもよくあります。
最近、僕らの仲間は、こういうケースで、隣のホールにボールがあっても、打球事故が怖いからと、拾うことを早々に諦めて前に進むという独自ルールを採用することもあります。時間もかかるし、危険を冒すのも馬鹿馬鹿しい、とわけです。
いずれにしても、隣ホールの優先権は、そのホールでプレーしている人たちにあるのです。
勝手に入っていって、素早く拾えばOKとか、声を掛ければOKとかいうのは、論外で、傍若無人の悪行です。
決まりを知らない若い人だけではなく、この数年、待つことを我慢できなくなったオールドゴルファーも悪行を率先してやらかしている様子が……
「危ないぞー!」とか「打つよー」とか、優しく大声を出しながら、そういうバカ同士で打球事故を起こして、ゴルフができなくなれば良いのに、と秘かに思ってしまうのです。
ゴルフは安全に楽しめなければ、やる資格はない
ゴルフの唯一の欠点は…… 面白すぎることである。
という格言があります。
醒めたフリをしていても、夢中になってしまうところがゴルフの醍醐味であり、そういうゴルファーは愛おしい仲間だとシンパシーを感じずにいられません。
だからこそ、無事に帰宅できるところまでをゴルフだと考えて欲しいのです。防げる打球事故は、徹底的に防ぐべきなのです。
他者がプレーしているホールに入っていて、プレーを中断させたりするのは、ボールが入ったからと勝手に壁を越えて他人の家の庭に侵入するようなもので、ドロボウと間違えられて通報されても文句は言えないのと同じです。
また、ボールは凶器となって、被害者の視力を奪うことがあることも自覚すべきです。
威嚇する意味で、当たらないだろうと前の組に打ち込む行為は、いつ大事故になっても不思議ではありません。
夢中になってしまって、とか、子供の気持ちに戻ってしまって、とか、そんな言い訳に意味はありません。
昭和の時代のゴルフでは、上級者になるまでは、黒系の地味なゴルフウェアを着ることは許されないという暗黙の掟がありました。
初心者ほど、原色系の派手なウェアを着用することが推奨されたのは、ボール探しをしているときに目立つように、という配慮でもあったのです。
時は流れて、令和のゴルフでは、そんな掟は全く残っていません。
新型コロナウィルスで僕らの生活は大きく変わりました。
ソーシャルディスタンスや、アルコール消毒や、マスク、等々。
感染しないためのハウツーであり、感染を広めないためのハウツーは、みんなでやってこそ意味があるわけです。
ゴルフの打球事故防止も、新型コロナウィルス対策と全く同じです。
被害者にならないためであり、加害者にならないためなのです。
そのように考えれば、難しいことなど何もありません。
安全にゴルフをする心構えがない人に、ゴルフをする資格はありません。
面白すぎるゴルフだからこそ、みんなで守るのは当たり前のことなのです。
篠原嗣典。ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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