ゴルフはどうして18ホールなの? どうやって決まったの?
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第45回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
写真提供/篠原嗣典
18ホールのおとぎ話の裏側に見えてくる真実!
「ゴルフって、なんで18ホールなんですか?」よく聞かれる質問です。
確かに世の中を見渡してみても、18という区切りはありません。1ダースの12でもなく、10個入りとか20個入りとも違います。「たぶん昔から決まっていたからじゃないの」オールドゴルファーでも、答えを知らない場合もあります。ある意味で昔から決まっていた、というのは間違ってはいないのですが…
ゴルフの歴史を振り返りつつ、18ホールの謎を深掘りしてみましょう。
スコッチウイスキーの量次第?
まず最初は、有名なお話を紹介します。ゴルフが育ったスコットランドは、地図で見るとわかりますが日本の北海道よりも高い緯度、つまり、北に位置します。かなり寒いのです。黎明期のコースは全て港の近くで、海風も吹きつけます。
それでも昔から熱心なゴルファーは存在していたので、季節にかかわらず震えながらプレーするゴルファーがいました。寒さを防ぐ意味もあって1ホールを終えるごとに、ポケットに忍ばしたスコッチウイスキーの小瓶を出してキャップに注いで、ぐいっと飲むのが習慣になっていたそうです。気力を奮い立たせる気付け薬のようなものです。
スコッチウイスキーの小瓶の中身がなくなればそこで終了するのですが、それがちょうど18ホール目だったのです。ゴルフのゲームとしてもちょうど良いということになって、いつの間にかゴルフは18ホールになったというのです。
これはおとぎ話の一つで、ロマンチックで雰囲気がある良い話として、世界中で愛されています。
酒を飲みながらプレーしても誰にも咎められないゴルフらしいお話ということもあって、18ホールになった理由として本気で信じているゴルファーもいます。しかしこれはおとぎ話で、フィクションです。
とはいえ、このおとぎ話には真実に繋がる秘密がちゃんと入っています。もっとたくさんのホールがあったのに途中でやめて、18ホールになったという部分です。
公文書などが動かぬ証拠として18ホールになる経過は明確なのですが、その昔ゴルフコースはもっとホール数が多かったのです。
セントアンドリュースのオールドコースが18ホールになった偶然がゴルフを面白くした!
残されている記録を見ると、18世紀の中頃までセントアンドリュースのオールドコースは、22ホールのコースでした。1764年にコースとして使用していたリンクスの一部を返却する命令がセントアンドリュース市から出て、コースの一部を手放すことになった記録が残っているのです。
その結果、コースは22ホールから4ホールを削って18ホールでプレーされるようになったのです。この頃のゴルフ名勝負などの記録を見ると、プレー形式がマッチプレーだったこともあって、最終ホールまでプレーすることにゴルファーはこだわっていなかったことがわかります。
セントアンドリュースのオールドコースよりも古いエジンバラのコースは、5ホールしかなかったことがわかっています。それに初期の全英オープン(1860年〜1870年)の開催コースだったプレストウィックゴルフクラブは12ホールで、当時はそれを3ラウンドして36ホールで勝敗を決めていました。
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ゴルフの有名な格言に「もしオールドコースがリンクスでなかったら、ゴルフは今ほど世界に広まらなかったであろう」というものがあります。
ゲームを面白くするのは、不確定要素です。もしくは、なんらかの不自由さが面白さになっていきます。サッカーは手を使わないことで、ラグビーは楕円形のボールが予測できない跳ね方をすることでゲームとしての面白さを得ているというわけです。
リンクスは、海と陸を繋ぐ場所にある丘陵の砂地です。その硬い地面と傾斜が、ボールを予想外に跳ねさせたり、転がしたりして、ゴルフというゲームを面白くして育てたのです。他の古いコースが現存しないのには、たくさんの理由がありますが大きな要因として、セントアンドリュースのオールドコースの面白さに敵わなかった、ということが考えられているのです。
18ホールがスタンダードになっていったのは、ゴルフの長い歴史からすると近年のことです。最も面白いコースであるセントアンドリュースのオールドコースが18ホールで、ゲームとしてその分量がちょうど良かったから、というのが現在のゴルフ研究者の共通認識です。
偶然の18ホールが結果として、最高の面白さを生むちょうど良い数だったというわけです。19世紀末になると、次々にスコットランドのゴルフコースが18ホールになっていくのです。
2022年の僕らも、18ホールという数字に翻弄されて楽しんでいます。「もう終わってしまうのか」「ハーフなら良いスコアで回れるのに」「たっぷりと楽しめた」
18番ホールをプレーしながら考えることはゴルファーの数だけあると思いますが、その絶妙な加減は、ゴルフをすればするほどそれを実感することができます。
都市伝説?ゴルフと秘密結社の関係が18ホールを広めたの?
ゴルフの歴史を勉強していくと、ゴルフが現在の形になって世界中に広がっていくためのいくつかのターニングポイントがあることがわかります。その1つは、ゴルフの黎明期にスコットランドのスチュアート朝の歴代の国王がゴルフを保護していたことです。
注目すべきポイントは1603年以降です。スチュアート朝は、イングランドの国王を兼務するようになりました。スコットランドから、イングランドに移り住むようになったときにゴルフも輸入されて、イングランドでもプレーされるようになったのです。
ゴルフ同様にスチュアート朝に保護されていたのが、都市伝説として名高い秘密結社のフリーメイソンです。元々は石工の組合で、協力し合いながらその高い技術力を守り、世界中で現在の銀行や流通システムの元を作った組織です。教会や宮殿を作るだけではなく、様々な組織作りに活躍していたのです。
現在でも残っているゴルフコースのブレザーを着用する慣習や、閉鎖的な倶楽部のハウツーなどは、実はフリーメイソンの儀式の影響を受けたものだと考えられています。
フリーメイソンは数字について伝統的なこだわりがあることが知られています。3の倍数を1つの単位とすることが有名です。18という数字も、1つの単位として大切にされてきた歴史があり、18ホールの起源としてその影響があったと考えているゴルフ史研究家もいます。
かなりディープな話になりましたがゴルフの歴史を勉強してみると、18ホールの起源は別としても、フリーメーソンとゴルフは密接な関係があったことは間違いない事実だとわかります。
18番ホールで感じること
僕は時々、18番ホールをプレーしながら考えるのです。もしゴルフが18ホールを1ラウンドとカウントしなかった世界があったら…9ホールでも、12ホールでも物足りないですし、20ホールだと間延びして締まらない感じがします。
スコッチウィスキーの小瓶も、土地の権利問題も、秘密結社も、誰かに話したくなるゴルフ談義のネタとしては最高の素材です。しかし最終的には18ホールという数字は、ゴルフの神様の贈り物だったのだと考えることが一番しっくりと納得できるのです。
先日、最終ホールのグリーンである記録がかかった1ヤードちょっとのパットをすることになりました。もしそれが入れば、そのゴルフコースで初めての連続記録が達成できるパットでした。自信もありましたし、調子も良かったので変なプレッシャーはありませんでした。
しかし考えたことは、外してしまえば1番〜17番まで頑張ってきたことと、その前の数ラウンドが無駄になるということでした。コースのスタッフも記録達成に期待していましたし、同伴者も応援してくれていましたが、そのパットはカップに触れずに外れました。
ときにゴルファーは、17ホールでは感じられない何かを18番ホールだけで一気に背負うことがあるのです。そういうキリキリするような感覚を味わいながら挑戦できるのも、ゴルフの醍醐味です。
生まれて初めてゴルフコースデビューしたときに、18番でゴルフが終わってしまうことが悲しくて、寂しくて、やるせない思いになりました。あれから44年。今でも僕は年に10数回は、18番で同じ気持ちになります。もう少しやりたい、という気持ちがゴルフを続けるモチベーションになっているのかもしれません。
どんな数字よりも、18ホールという絶妙な数字でゴルフを楽しめる世界に生まれたことに感謝しつつ、新たに前代未聞の記録に挑戦するべく、日々精進しているのもゴルフの虜の宿命なのです。
篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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