ゴルフのラウンド中に何かを食べるのはマナー違反?ゴルフ版もぐもぐタイムの達人になろう!
ロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が現場で感じたゴルフエッセイ【毒ゴルフ・薬ゴルフ】第55回
ゴルフの虜になってもうすぐ半世紀。年間試打ラウンド数は50回。四六時中ゴルフのことばかりを考えてしまうロマン派ゴルフ作家・篠原嗣典が、コースや色々な現場で見聞きし、感じたことを書いたのが【毒ゴルフ・薬ゴルフ】です。大量に飲めば死んでしまう毒も、少量なら薬になることは、ゴルフにも通じるのです。
写真提供/篠原嗣典
エネルギー不足が最後の数ホールでの大叩きの原因?ゴルフ版のもぐもぐタイムのススメ!
氷上のチェスと呼ばれているカーリングの中継で注目されたのが、ハーフタイムに選手とスタッフが車座になっておやつなどを食べながら作戦会議をするシーンです。もぐもぐタイムと名付けられて、2018年の流行語にも選出されました。
「ゴルフのラウンド中のもぐもぐタイムについて、どう思いますか?」答えに困る質問ですが、よく聞かれます。
オールドゴルファーの中には、ラウンド中に何かを食べることをマナー違反だと眉をひそめる人もいます。その一方、ツアープロがプレー中にバナナやプロテインバーを食べながら歩いていたりするシーンは中継に頻繁に出てきます。
唐突ですが、結論をお伝えしましょう。
●Q どちらが正解なのでしょうか?
●A スロープレーになったり、他者を不快にしない限り、ラウンド中の飲食はマナー違反ではありません。
最終ホールや、後半のホールで大叩きしてしまうのは、脳のエネルギー不足が原因だったのです!
ゴルフは、耳と耳の間で行うゲームだという話を持ち出すまでもなく、ゴルファーは大なり小なり、頭をフル回転してゴルフをしているわけです。脳のエネルギーが切れてしまうという説は、とてもわかりやすい感じがします。
人間の身体を研究している学者は、科学的なデータを元にこの説を完全に否定します。もぐもぐタイムを採用しても効果が出なかったゴルファーがたくさんいるのは、その証明なのかもしれません。
しかし、ゴルフは科学的な根拠など吹っ飛ばす不思議な現実に溢れています。信じる者は救われることがあるのです。自分が良いと信じて結果が出ているなら、それをやめる必要はありません。
そして、専門に研究している学者はもぐもぐタイム自体を否定していません。上手に使えば、大きなプラスを生み出すと奨励しているレポートもたくさんあります。
コロナ禍の世界に合わせるために、ゴルフコースは一時期18ホールを一気に回るスループレーを奨励しました。ハーフでランチタイムをとる慣習だったゴルファーは、途中で空腹を感じるので、もぐもぐタイムが見直されたりもしました。
しかし2023年になってその部分は、元に戻りつつあります。
ランチタイムがあるラウンドでも、もぐもぐタイムは有効なのでしょうか?専門に研究している複数の学者に聞いてみたところ、全員が条件付きではあるものの、有効だと断言したのです。
その条件の一つは、満腹になってはダメということでした。つまり、食事からある程度の時間が経っているか、もぐもぐタイムを計算して食事量を減らすか、準備の工夫をすることが大事です。かつ、もぐもぐタイムで食べたあとに満腹になるのもアウト、ということで、大量に摂取するようなものはNGだというのです。
目的別のオススメの食べ物と記憶に残っているもぐもぐタイム
ゴルフのもぐもぐタイムで、ツアープロが食べているもので有名なのは、バナナとプロテインバーです。エネルギーを吸収する意味で、バランスが良いようです。
医学的には食べたものの効果が出るのは、早くて30分後ぐらいからのようですが、プレーに影響があるような効果が現れるかというのは、なんともいえないそうです。信じる者は救われる、のだと考えれば良いと思います。
ただカートに乗ってゴルフをする場合には、バナナとプロテインバーは、量的な部分で多すぎるのでオススメはできないそうです。
「ゴルフ版もぐもぐタイム」オススメの食べ物は、現実的でなければ意味がありません。カートでのゴルフが当たり前になっている現在、量的に少量であることがマストになります。小分けにパッケージされているか、またはそれに近いもので考えましょう。
例えば、全英女子オープンに勝ったときの渋野日向子は、小袋に入った駄菓子でもぐもぐタイムをとっていました。
ゴルファーにとって量的に最適だというだけではなく、前の組のプレーが遅くてついイライラしそうなタイミングなどで気分転換にもなりそうですね。
- 【手の平に乗る程度の量のナッツ】
- ナッツには、集中力を高める効果もあるとのことです。
僕の知り合いでボギーが何ホールか連続すると「縁担ぎ」と言いながら、小分けになっている柿ピーをボリボリと食べるゴルファーがいます。
見事に流れを変えて復活することもありますし、次のホールで大叩きしたこともありますが、本人は10年以上続けているので、効果があると確信しているのだと思います。
栄養補給的な意味で脳の疲れを取るというイメージならば、チョコレートがオススメだそうです。一口で食べられるようにパッケージされたチョコレートは、コンビニなどでも売られています。
同じ目的で一口サイズの羊羹や、グミなどもオススメのようです。アメも量的に良いのですが、噛まずに舐め切ろうとするとかなり時間がかかるので、アメはゴルフ版もぐもぐタイムには向かないと主張した学者もいました。
一口で食べられるものであれば、自分の好きなものを食べることを推奨する意見も複数出ました。食べるものの効果よりも、リフレッシュしたり、リラックスするためのもぐもぐタイムのほうが有効だからです。
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忘れられないもぐもぐタイム
バブルの終わりの頃に、忘れられないもぐもぐタイムがありました。メンバーだったコースのメンバータイム(メンバーが一人で出掛けて、組み合わせをしてもらう時間帯のこと)で、ある老夫婦と一緒の組になったのです。
その日コースは満員御礼で、強烈に混んでいて、かつ、時間がかかっていました。最初のハーフが3時間かかり、ランチ後のハーフも6番ホールが終わった時点ですでに3時間弱かかっていたのです。7番のティーも、2組が待っている渋滞でした。
「お茶の時間にしましょう。よろしかったら、こちらどうぞ」
老婦人ゴルファーの水筒には熱いほうじ茶が入っていて、小さなコップに僕の分を入れてくれました。
当時は乗用カートのプレーではないので、インターバルにはベンチや椅子が用意されていることが珍しくなかったのです。そこに座ってお茶をいただきました。
「こちらも、どうぞ。家の畑で取れたものだけど、お口に合えば」小さなタッパに、たくわんが入っていました。一切れをもらって食べました。感動するほど美味しくて、お茶の美味しさも倍増しました。
僕はプレー中に何かを食べる習慣を持っていません。基本的には薦められても断るか、いただいてもカートバックに入れて持って帰るようにしています。当時からそういう対応をしていました。
何故そのときだけ老婦人ゴルファーのお茶とたくわんをその場でいただいたのか。理由は忘れてしまいました。
そのコースのメンバーだったのは5年程度でしたが、上がり3ホールを全てバーディーで終えたのは、後にも先にもその日だけでした。お茶とたくわんの効果だとは思いませんでしたが、バーディーで上がるたびに、お礼を言っていたような気がします。
年に何度も一緒にプレーする友人が、水筒に温かいお茶を毎回準備していて、コップでプレー中に何度も飲むのです。
僕は1年中、ペットボトルの冷たい麦茶を飲んでいます。横目で彼を見ながら時々、老婦人のお茶とたくわんを思いだします。
お一人様もぐもぐタイムを想定してから考えるのが正解なのだ!
僕はゴルフのプレー中に、何かを食べるのが好きではありません。何を食べても、集中力が上がるどころか下がる気がするからです。
だから一緒にプレーすることに慣れているゴルファーが、もぐもぐタイムを習慣にしている場合は、僕を無視してその時間を楽しんでいます。
「プレー中のもぐもぐタイムは、一緒の組の人の分まで用意するのがスマートなマナーなんだよ」そんなふうにレクチャーするゴルファーもいると聞きます。
一人でもぐもぐするのは心苦しい、と感じるというのは理解できます。とはいえ、同伴者にもぐもぐタイムを強制するのは間違いです。お伺いして同意が得られれば、一緒に楽しむというハウツーが正解です。
断れたらその分は持ち帰って、ゴルフの反省をしながら一人もぐもぐタイムの延長戦をすれば良いだけです。
「ここにありますので、よろしかったら食べてください」という感じで、強制はしていないという気遣いが見える形で誘われると、僕のように断るゴルファーも一応お礼を言った上で、手をつけないという形で済ますことができます。また一緒に楽しむ人であれば「では、一ついただきます」という感じでご一緒できます。
このようなハウツーを考えても一口で食べられるもので、パッケージされているものがゴルフ版もぐもぐタイムで推奨されます。そしてゴルフ版もぐもぐタイムは、お一人様で成立するように意識することです。
一緒にもぐもぐタイムを楽しめるゴルファーは、類は友を呼ぶ、という感じで集まる傾向があります。そういう仲間と、もぐもぐタイム付きのゴルフを楽しむは素敵なことです。
文化人類学で考えると、もぐもぐタイムを楽しめるゴルファーのほうがゴルフをすることで共感し合って、強い絆で結び付くという説を聞きました。
一緒にやることの中でも、同じものを同じ時空で食べるということは強烈な共感を生むことと、もぐもぐタイムは物々交換的な貸し借りという気持ちが生まれやすく、関係を続けることの意味が生まれるからなのだそうです。
100年後には、もぐもぐタイムとゴルフはセットになっていて、昔はもぐもぐタイムを断る恥知らずな人もいたらしい、なんていう内容のエッセイを書いている書き手がいるかもしれません。
迅速なプレーが可能なゴルフでは、もぐもぐタイムの時間が取れないことがあります。後ろの組が1ホール以上離れているなら少し休憩して、もぐもぐタイムにするのも悪くはありません。
でも、2時間以内でハーフできそうだから、というような基準で後ろの組を待たせてもぐもぐタイムを取るのは御法度です。プレーのペースは時間よりも、前後の流れが優先されるからです。前の組に離されないようについていく努力と、後ろの組を待たせない工夫は、ゴルファーの心掛けの基本中の基本です。
その基本を維持しながら、もぐもぐタイムを楽しめるようになるのも、上級者の一つの条件かもしれません。
もぐもぐタイムは使いようで、毒にも薬にもなります。もぐもぐタイムの達人になれるように、さり気なく頑張ることで、スコアアップもできそうですし、尊敬されるゴルファーにもなれそうな気がします。
僕は遙か昔に「もぐもぐタイムの達人」を諦めてしまいましたが、再考してみようと思います。
篠原嗣典
ロマン派ゴルフ作家。1965年生まれ。東京都文京区生まれ。板橋区在住。中一でコースデビュー、以後、競技ゴルフと命懸けの恋愛に明け暮れる青春を過ごして、ゴルフショップのバイヤー、広告代理店を経て、2000年にメルマガ【Golf Planet】を発行し、ゴルフエッセイストとしてデビュー。試打インプレッションなどでも活躍中。日本ゴルフジャーナリスト協会会員。
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