ゴルフは運がつきもの。そこに一喜一憂せず、努力できる者がゴルフを制す
伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.9
新連載、伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉1つ1つを、皆さんにもお届けしていく。
GOLF TODAY本誌 No.609/68〜69ページより
本誌イラスト/北村公司
運が良い、運が悪いで、一喜一憂しない
東京は新橋にある小料理屋、今は亡き「独楽」に毎日通い、晩酌をしていた中部銀治郎さん。いつも穏やかな表情で肴を味わい、日本酒を嗜んでいた。
店の主人の話に相づちを打ち、近くの人に話しかけられれば笑顔を返す。穏やかな酔人であった。
ゴルフにおいても穏やかさを旨としてプレーしていた。もちろん、達人の中部さんにしても思わぬ出来事に遭遇することはあったろう。
フェアウェイセンターに放った球が妙なキックをしてラフに入る。ピンに真っすぐ向かった球が突風に煽られてバンカーに入る。ナイスショットが飛んでいる鳥に当たったこともある。まさしく「飛ぶ鳥を落とす勢い」の頃の中部さんだったが、ピンチになったことは否めない。
しかし、そんなことがあっても顔には出さない。不運を嘆くようなことはなかった。我々のように「そりゃないよ」とか「運がないよなあ」などと、ぼやくことは決してなかった。
中部さんは笑いながら言った。「運がないなぁとは思いますよ、人間ですから。でも、それを口に出したところで仕方ない。起きたことは決して変えることはできませんから。
逆に運がないと口に出したら、本当にどんどん不運がやってきます。起きたことは仕方がないと冷静になって、そこから頑張るしかない。どうやってパーをとるか、ダブルボギーにならないようにするか。そこに頭を働かせて、神経を集中する。そうすれば悪い流れになっても良い方向に変わります。不運は断ち切らなければいけない。口に出して嘆いては不運は続いてしまいます」
はしゃぐなどもってのほか
その逆もまた然りであった。林に飛んでしまった球が枝に当たってフェアウェイに跳ね返る。バンカーに入ったと思った球がレーキに当たってグリーンに乗ってしまう。寄れば御の字という難しいアプローチショットがピンに当たってチップイン。寄せるだけでも至難の20mものスネークラインのパットがカップに沈んでくれる。
そんなことがあれば誰でも驚くと共に運がいいと思ってしまうだろう。しかし、こんなときでも中部さんは何事もなかったような顔をしている。はしゃぐことなどまったくなかったのである。
「幸運だなとは思いますが、たまたまそうなっただけで喜んだりなどしません。偶然であって実力ではない。冷静にそう思って、淡々とプレーを進めます。
良い流れがきたのであれば、それを持続させることが大事なんです。それには、はしゃぐなどもってのほか。そこで良いことが終わってしまいます。幸運が来たときこそ、しっかり集中して、イージーミスを犯さない。消極的になる必要はないが、冒険はしない。手堅いプレーを心掛けるべきなのです」
勝利を与えられる人間とは
我々は人間だから、幸運が来たと言っては喜び、不運が舞い込めば嘆いてしまう。しかし、中部さんから言わせれば、いずれも一瞬の出来事であり、偶然の産物である。
人間であれば、そこからできることをやる。幸運が来たら、良い流れをなるべく長く維持することを考える。不運が舞い込めば、それをしっかりと断ち切る。全力を挙げて徹底的にそのことを努力するしかないのだ。「偶然は神がしたこと。必然は人間がすること」と中部さんは考えていたに違いない。
中部さんは言う。「ゴルフというスポーツに運はつきものです。人間が行っていることなのに、神様が物事を決めているようにしか思えないことがある。私は信心深いほうではありませんが、ゴルフをしていると、どうしてもコースには神様が存在していると思えてしまう。
しかし、そうだからといって、神様にすべてを委ねてはいけない。つまり、ゴルフを運任せにしてはいけないということです。
運のあるなしに関わらず、プレーヤーはゴルフに全力を傾けなければいけない。全知全能を働かせてコースを攻略する。それが人間のやるべきことです。そうすればすべての結果を受け入れることができる。ゴルフはそれを学ぶ修練の場所なのです」
神頼みにしては神様は怒るだろう。せっかくの幸運もすぐに見放されてしまうに違いない。神様は人間を試しているとも言えるのだ。幸運が舞い込んできたときでも努力するのか、不運に見舞われたときに撥ね返そうと頑張ることができるのかを見ているのだ。そして、そこに全力を注げる人間に神様は幸福を与える。ゴルフで言えば勝利を与えるということになるのだろう。
筆者も決して信心深いほうではないが、マスターズや全英・全米オープンのような大きな大会を見るにつけ、コースには神様が存在しているように感じる。試練を乗り越えた選手にだけ、優勝という二文字を与えるような気がして仕方がない。
幸運も不運も平等にやってくるもの
中部さんは日本アマ優勝を目指して切磋琢磨してきた人だけに、悟ったことも多いのだろう。
「ゴルフは幸運と不運が大小にかかわらずちょこちょこやってきますが、おしなべて考えて見れば、同じくらいになりますよね。
もちろん、この日のラウンドは運が良かった、悪かったということもあるでしょう。でも試合全般を通したら同じくらいだなと思えることも多いし、1年を通じて考えればほとんど同じだけ幸運と不運は訪れていると思うのです。
だから運が良いと喜んだり、運が悪いと嘆いたりしても仕方がない。運が良いこともあれば悪いこともあり、それはほぼほぼ同じくらいあるのですから」
このことはゴルフだけではないだろう。実生活においても同様に思う。仕事をしていても、運がいいこともあれば運が悪いこともある。
いつもと変わらないように仕事をしているのに、たくさん仕事が舞い込んだり、トラブル続きのことだってある。
今日は良くても明日、突然悪くなることもある。しかし、長い目で見れば、良いことと悪いことは同じくらいあるのではなかろうか。それを運の悪さばかりが頭から離れず、自分は運の悪い人間だと決めつけるのは、それこそ運の悪い人になってしまうだろう。
モノの見方、考え方一つで変わるのではないかと思う。
とはいえ、その逆に「自分は運のいい人間だ」と高をくくるのも考えものだろう。もちろん、ポジティブシンキングのほうが良いだろうが、調子に乗れば油断大敵、思わぬ落とし穴にはまってしまうこともあるに違いない。
運が良いときほど、慎重を期することも大切かも知れない。運に関する中部さんの有名な言葉がある。
「ゴルフには平均の法則が作用する」
もちろんこの言葉は、「人生には平均の法則が作用する」と置き換えることができる。ゴルフも人生も、起きたことに一喜一憂せず、泰然自若に構え、努力を怠らないことが肝心だと思うが、いかがだろう。
中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)
1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。
甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。
著者・本條 強(ほんじょう・つよし)
1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。
ミート率UP・方向安定・飛距離UPを同時に実現!2023年春・注目のシャフト3選
もっと遠くにもっと正確に飛ばしたいというのは、ゴルファーにとって永遠のテーマだろう。 そのためにドライバーを新調する...
メンタルに強いゴルファーになるには、もっと自由に自分で決めること
90切りを達成する条件の一つに、自分にとって都合のいい状況をなるべく多く作り出すことがあげられる。ミスが出にくいクラブ...
「優勝できたのは、パターイップスのおかげかも…」セキ ユウティン 初優勝の舞台裏
肉体&スイング改造を行い、満を持して挑んだ2022シーズン。しかし、序盤戦は思ったような結果が出なかった。6月末の「アース...
西村優菜のパッティングストローク連続写真(アース・モンダミンカップ 2022)
西村優菜のパッティングストローク連続写真。 メルセデスランキング5位(2022 JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ終...