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ゴルフは予期しないことは起きることもの。ジャック・ニクラスのゴルフから学んだこと

伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」vol.10

2023/03/26 ゴルフサプリ編集部

ゴルフコース

連載、伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」。
「プロより強いアマチュア」と呼ばれた中部銀次郎氏が遺した言葉は、未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。その言葉1つ1つを、皆さんにもお届けしていく。

GOLF TODAY本誌 No.610/76〜77ページより
本誌イラスト/北村公司

予想外のことが起きたときほど、よく考えて対処する

中部銀次郎

いつものように、中部銀次郎さんは馴染みの小料理屋、今は亡き「独楽」で好きな日本酒を静かに呑んでいた。穏やかな表情だったが、試合のときでも同様だったのだろうか。

「若い頃は今とは違い、血気盛んでゴルフに燃えていましたからね。ちょっとしたことで腹を立てたり落胆したり、喜んだり悲しんだりと、喜怒哀楽なプレーぶりだったですよ。

予期しないミスはショックです。動揺もします。しかし、動揺したままプレーしてはさらに大きなミスを引き起こします」お猪口を口に、一息ついて続ける。

「でも、ゴルフがわかってきて歳もとってきますと、ゴルフでは予期しないことは起きることものだと、諦念が身についてきます。諦めと言ってしまえばそれまでですが、ゴルフはそこで終わってしまうわけではない。

最終ホールの最終パットまではやり続けなければいけない。であれば、起きたことは仕方ないと諦めた後に、次にどうすれば良いかを冷静に考えて実行に移す。諦めるからこそ吹っ切れる。ミスを引きずらない。

どうしてミスが起きたかは、最終ホールを終えてからゆっくり考えればいい。予想外のミスをした時点では、ミスをしたことを忘れ、次にすることに集中する。そのためにも諦念は大事なことです」さらに酒を美味しそうに呑む。

「ミスを受け入れ、諦める。諦めて心を落ち着かせる。そのあとで次にどうするかを考える。決断したら実行あるのみ。ゴルフはいつでもあるがまま。あるがままを受け入れてプレーしていくことなのです」中部さんはまた酒を口に含み、前方を見る。

何もない板場の壁を、遠くの景色でも見るように眺める。

人生初の海外遠征の結果はいかに

優勝カップ、ゴルフクラブ

下関西高校を卒業した中部さんは慶應大学への進学を思い直して浪人した。ゴルフへの情熱は冷めることなく、日本アマに初出場して予選トップのメダリストとなった。元の受験生活に戻った頃、日本ゴルフ協会から日本代表として世界アマチュア選手権への出場を要請される。来年の受験までに十分な日数があった。中部さんは快諾した。

1960年のことである。この年の世界アマはアメリカの超名門、ペンシルベニア州のメリオンGCで開催された。開場は1896年、スコティッシュスタイルの雄壮なゴルフコースである。

ボビー・ジョーンズが初めて全米オープンに挑戦した14歳の時の舞台はこのコースであったし、1924年に全米アマに初優勝を遂げたときも、1930年に全米アマを獲ってグランドスラムを達成したときも、メリオンGCだった。

広大な大地にゆったりと作られたメリオンGCをジャック・ニクラスは「大地の中の大地」と讃えている。開場以来メジャー大会を数多く催し、今尚全米のベスト10に入る屈指のゴルフコースだ。

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このメリオンGCに、中部さんは日本代表選手として18歳の若さで訪れた。日本の主将はアメリカ留学によって英語も堪能な金田武明氏。他は1958年の日本アマを制した石本喜義選手とこの1960年の日本アマ覇者となった田中誠選手である。若き中部さんは人生初の海外遠征で興奮していた。

練習ラウンドで日本代表選手はスケールの大きさに圧倒され、起伏の激しくとてつもなく速いグリーンに手こずった。初日の日本チームは急病によるキャディの変更で金田主将が83を叩き、石本選手が78、田中選手が76、中部さんは何と84も叩いてしまった。

中部さんは言う。「6番パー4で第3打のアプローチをカップの上1mに寄せたのですが、グリーンの速さを疎かにしてパットを打ったらカップをオーバーするどころか、加速がついてグリーンを飛び出し、池にコロがり落ちてしまったのです。ショックのあまり、顔が青冷めていたかもしれません」

中部さんが育った門司GCと下関CCは今でも目のきつい重めの高麗グリーンである。当時の日本のグリーンはほとんどが高麗芝だった。ベントグリーンに戸惑うのは仕方なかったのだ。

しかし、中部さんの初日のスコア、84はこの6番のパットでの池ポチャという予想外の出来事が後のプレーにも影響したに違いない。中部さんの受けたショックがどれほど大きかったものかは容易に想像できる。

「ゴルフでは予期せぬことが起きる」。このことを初めて身を以て体験したのである。

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衝撃のドラマが続いた3日間

ジャック・ニクラス イラスト

初日には中部さんがショックを受ける出来事があった。

それは中部さんがホールアウトしたあとに、この年の全米オープンで王者アーノルド・パーマーに逆転負けを喫して2位となったジャック・ニクラスが18番最終ホールに姿を見せたのだ。

ニクラスは1mのバーディパットを打つところだった。慎重にラインを読んだあと、独特の背中を丸めたスタイルでボールを打った。それが外れて、何と返しのパットまで外してしまったのだ。ゴルフでは予想外のことが起きる。この3パットを見て中部さんは思った。

「なんだ、ニクラスもそんなものか」

ニクラスはこのとき20歳。オハイオ州立大の学生だった。自分とほぼ同年齢のニクラスに自分と同じ「未熟さ」を見たと思ったのだ。ところがニクラスは最終ホールをボギーとしたのに、何と66のスコアだった。しかも32カ国の強豪選手の最小スコアであり、中部さんより18打も少なかったのである。

その翌日、中部さんはニクラスを追いかけた。そのショットは衝撃的だった。ダウンスイングで左足を踏み込むや地響きがし、インパクトでボールが潰れる音は悲鳴が聞こえるほど、空中に飛び出した打球の風きり音はジェット機のようだった。空に高々と舞い上がり、ゆっくりと落下、その飛距離は300ヤードに及ぶものだった。

世界アマはこうした衝撃のドラマが3日間も続き、アメリカチームがトータル616打で圧勝した。日本チームは713打で13位。アメリカチームに約100打の差を付けられた。そして、個人優勝したニクラスは初日66、2日目67、3日目68のトータル201打。一方中部さんは初日84、2日目83、3日目82のトータル249打。3日間で48打の差を付けられたのである。

中部さんは当時を思い出しながら酒を嗜む。「まさに『井の中の蛙大海を知らず』です。自分の実力など世界からすれば赤子同然。

練習もしたし、日本アマでも通用した。でも、それが何だったというのでしょう。少しは上手いと思っていましたが、うぬぼれなどと言う言葉では片付けられないほど、実力が違っていたのです」

「ゴルフでは予期せぬことが起きる」。1960年に中部さんを襲った最大の予期せぬ出来事はジャック・ニクラスのゴルフであった。


中部銀次郎

中部銀次郎(なかべ・ぎんじろう)

1942年1月16日、山口県下関生まれ。
2001年12月14日逝去。大洋漁業(現・マルハニチロ)の副社長兼林兼産業社長を務めた中部利三郎の三男(四人兄弟の末っ子)として生まれる。10歳のときに父の手ほどきでゴルフを始め、下関西高校2年生時に関西学生選手権を大学生に混じって出場、優勝を遂げて一躍有名となる。

甲南大学2年時の1962年に日本アマチュア選手権に初優勝を果たす。以来、64、66、67、74、78年と計6度の優勝を成し遂げた。未だに破られていない前人未踏の大記録である。67年には当時のプロトーナメントであった西日本オープンで並み居るプロを退けて優勝、「プロより強いアマチュア」と呼ばれた。59歳で亡くなるまで東京ゴルフ倶楽部ハンデ+1。遺した言葉は未だに多くのゴルファーのバイブルとなっている。

著者・本條 強(ほんじょう・つよし)

1956年7月12日、東京生まれ。武蔵丘短期大学客員教授。
『書斎のゴルフ』元編集長。著書に『中部銀次郎 ゴルフ珠玉の言霊』『中部銀次郎 ゴルフの要諦』『中部銀次郎 ゴルフ 心のゲームを制する思考』(いずれも日本経済新聞出版編集部)他、多数。


伝説のアマチュアゴルファー中部銀次郎の「言の葉」

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